ヴォルクウェインの王妃
翌日、ジュスタールは教会に使者を派遣し、ジョン・ブリストル枢機卿を城に迎えた。
正式な謁見であり、ジュスタールの隣には王妃レイアが着座する。
「聖教総本山枢機卿、ジョン・ブリストルでございます。」
「遠路大儀であった。面をあげよ。」
「はっ。」
枢機卿は顔を上げ、同時に驚きの表情に変わる。
「遠くから来てもらったのに、用件は一瞬で終わったようだな。」
「こ、これは、どういう・・・」
「改めて紹介しよう。余の隣にいるのは、エリー・レイア・オリオール。我が妻だ。」
「いや・・・」
「レジアスの者にとっては、レイア・ハースティングの方が通りは良かろう。しかし、余と結婚するに当たり名を改めた。今日はこれを知らせるために来てもらったのだ。以後、よろしく頼む。」
「あああの、これは、ま、まことでございますか。」
「王が正式な謁見で嘘や戯れを申すはずがない。まだ結婚2ヶ月だが、貴国のルシアン陛下にも知らせてはいるぞ。」
「そうで、ございますか・・・」
ブリストルの反応は、ほぼ予想通りである。
もちろん彼は聖職者であって外交官ではない。
正直な気持ちが顔に出ても一向に構わないが・・・
「しかし、陛下はヤースの信徒のはず、でございますが。」
「何も問題はない。我が国にはヤース教徒も聖教徒もおり、双方の信徒が婚姻関係を結ぶことは日常茶飯事だ。ヴォルクウェイン・ヤース教会のマクベス大司教も問題ないとの見解であった。」
「し、しかし、一般の信徒と聖女はその意味合いが異なります。」
「確かに前代未聞であろうな。その聖女が我が国に来たことも。」
「そうです。我が総本山はそれを認めておらず、よって、いかに国王陛下と言えど、その婚姻を認める訳にはいかないのでございます。」
「そんなに大切な聖女なら、なぜ貴殿は命がけで守らなかったのだ?その結果がこれだ。」
「いや、そこを何とか・・・」
「もう、神に永遠の誓いをした後だが、取り消せるのか?」
「いや、その・・・」
「全ては国外追放を命じ、それを執行した貴国政府と、それを飲んだ聖教総本山の責任であり、その刑が執行されて以降、我が国で行った妻の行動は全て自由だったはず。」
「いえ、聖女の任と責務は健在でございます。」
「偽聖女と誹られる彼女を見捨てた上でそう言えるのなら、大したものだな。」
「そのことにつきましては、決して見捨てた訳ではなく、大変申し訳なく思っているところではございます。それに聖女様が国外にあっても、総本山として、できる限りの援助はしてきたつもりでございます。」
「そんなこと当たり前だろう。しかし、彼女が我が国に入国したということは、もうそちらの影響下に無いと言うことだ。確かに彼女は聖女だが、それ以前にヴォルクウェイン王家の一員だ。」
「しかし、たとえ王妃であられても、聖女であることが優先されます。」
「そんなことは今、初めて聞いたぞ。ならば、歴代聖女がまことそうであったかどうか、今から正式な外交文書にて貴国に照会しよう。」
ちなみに、今のルシアンがそんなこと認めるはずが無いことくらいは、承知の上である。
「それは、どうかそれはご勘弁を。」
「そうか。ならよいが、王妃である以上、公務以外で貴国に赴くことは無いし、ジェラード殿下との婚姻もあり得ない。それはもう、定まったことである。大人しくお引き取り願おう。」
「分かり、ました・・・」
ブリストル枢機卿は力なく立ち上がり、すごすごと退場していく。
「辛かったであろう。今日はゆっくり休むがよい。」
「お気遣い感謝いたします。でも、私なら大丈夫ですよ。」
「いつもの笑顔が戻ったようだね。それと、昨晩は厳しい言い方をして申し訳なかった。」
「いいえ。陛下のお気遣いがとても嬉しかったです。」
「そう言ってもらえるだけでありがたい。この先、何があろうと心配はいらない。確かにこの国は弱く小さい。王である私もそうだが、それでも全力で守る。決めた覚悟だけはそなたに負けないつもりだよ。」
「ありがとうございます。とても心強いです。」
二人は立ち上がり、堂々と謁見場を後にする。




