表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
57/86

ジェラード、教会と手を結ぶ

 さて、ジェラードと彼を支持する諸侯は、グレッグ公爵邸に戻って来た。

 国王の前で大見得を切ったジェラードも、疲れた顔をしているものの元気だ。


「殿下、さぞやお疲れでしょう。ごゆるりと休まれるがよいでしょう。」

「ああ、済まない。ああいう場はほとんど初めてだったからな。」

「いいえ。お若いのに大変見事でしたぞ。」

「そうでございます。殿下こそ名君の器でございます。」

「今日はもう、褒めても何も出んぞ。しかし、あれで良かったのか?」

「はい。さすがの陛下も防戦一方。そのように見えました。そして、あの謁見場に集まった者にこちらの正当性を訴え、さらに支持を広げるのが真の目的ですので。」


「まあ、あの兄上が易々と王位を明け渡すとは考えていないしな。」

「その意味では、成功したと言って良いでしょう。」

「だが、個人的には本当に退位されても困るのだがな。」

「そうは言いましても、民の意を汲むなら、糾弾だけして殿下が即位しない、という訳にはいかない空気となっております。」


 ジェラードは、出された茶を飲みながら考える。

 もう、賽は投げられた。先日までの自分では考えられないような、思い切った行動である。実は今でも足は震えている。


 しかし、担ぎ出された結果とは言え、覚悟は決めないといけない。

 ならば、次の一手は・・・


「それで公爵、これからどうする。」

「まずは、訴状を町中に掲示いたします。すでに沢山の複製を作ってございます。」

「糾弾したことを民に知らせるか。煽動罪だな。」

「敗れた場合はそうなりますな。」


「まあ良い。どうせこうなった以上、勝つしかないのだ。だが、広く知らせれば味方が増え、支持が広がることは頷けるが、教会との関係も明確にしないといけなくなるぞ。」

「ええ、もう遠慮はいりません。堂々と教会を結ぶがよいでしょう。」

「ならば、枢機卿に会い、今後の事を決めねばならんな。」

「ええ、まず彼らをどのような役割を期待し、利用するかでございます。」

「もちろん、信徒の扇動だな。」


「聖女の加護が揺るぎないということになれば、信徒である軍人や騎士の多くもこちらに靡く可能性がある。そして何より、殿下と聖女が一緒になるとなれば、王としての正当性を主張できますぞ。」

「私は別に、聖女と結婚することは構わんが、教会の影響力が強くなりすぎるのは困る。」

「聖女の加護が本物だということになれば、一時的に教会の力が増すのはやむを得ません。また、将来的にも聖女認定を教会が行う以上、全くその影響を排除することは不可能でしょう。ただし、政治から遠ざけることは十分可能でございます。」


「そう都合良く行くものであろうか。」

「ええ。教会との交渉窓口として、内務卿の下に宗教思想担当官を置きます。たとえ相手が枢機卿であっても、政府の交渉窓口をその担当官にさせれば良いのです。」

「つまり、教会のトップであっても、王はおろか、内務卿にすら面会できないということか。」

「その程度、ということでございます。」

「奴ら、怒りはせんか。」

「なに、聖女さえ手に入ればこちらのものですから。」

「それに、思想も担当させるのか?」

「はい。他国の、例えば国内のヤース教信者も含めて、宗教思想担当官の業務としてしまうのです。つまり、数多くある教えの一つであることを、分からせてやるのです。」


「どうやら、兄上の方が公爵より優しい御仁だったらしい。」

「これは滅相も無い。」

「だが、それが上手く行くのであれば、教会の力を借りることに懸念は無いな。」

「是非、お任せあれ。」


 こうしてベッドフォード侯爵を窓口として調整が行われ、翌週に枢機卿ヴァージル・スレイドとの会談がセットされた。


「これは枢機卿殿、ようこそまいられた。」

「殿下におかれましては、先日の謁見と糾弾、まことに立派でございました。私も長らく殿下にお会いしたく、幾度も連絡を取らせていただいておりましたが、こうしてやっとお会いでき、光栄に存じます。」

「うむ。こちらも水面下で準備せざるを得なかったため、表だって教会支持を打ち出すことが出来なかった。遅くなった事と礼を失したことについては詫びよう。」

「とんでもございません。このヴァージル、念願が叶っただけで満足でございます。これから、共に手を携え、正しき社会を取り戻さなければなりません。」

「正にその通り。そのためには、聖女様がこのレジアスにお戻りいただけるよう、種々の取り組みをせねばならん。」

「はい。まずは国王陛下に対する糾弾が、いかに正しいことであったかを信徒に広め、陛下に協力しないことを徹底させます。」

 反乱を起こすと言わないあたり、少しは知恵がある御仁のようだ。


「それで、聖女様は今、どちらに。」

「ヴォルクウェインにある、聖ポルテン教会に匿われております。当教会からも、定期的に資金援助を行っており、恙なくお暮らしいただいております。」

「それは何よりだ。事が成功次第、すぐに帰国いただき、民を安んじなければならん。」


「殿下、それで聖女様のお立場はどのようになりましょうか。」

「従前の通りだ。帰国次第、聖女様と会見し、すぐに婚約を行う考えだ。」

「すぐにレヴフォート入りさせても良いと考えますが。」

「いや、今すぐ天候が好転すれば、兄の追い風となる。時期についてはもう少し見極めが必要だ。」

「確かにそうですな。」


 こうして会談は成功し、ジェラードはと聖教会は同一歩調を取ることで合意した。

 教会は信徒への教導と聖騎士団の戦闘準備を進め、ジェラードたちは、表向きは次回の謁見に備える姿勢を見せつつ、クーデターの機を窺うことになる。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ