ヴォルクウェインの春
さて、ポルテンの町もすっかり春めいたこの日、国王ジュスタールと新王妃レイアの挙式が執り行われる。
会場のヴォルクウェイン・ヤース教会には王族や諸侯、政府幹部のほか、ガレ枢機卿やエルマー、ベティなど、多くの人が詰めかけた。
とは言っても、元々が小さな国。
どこかアットホームというかのどかな雰囲気は否めない。
「陛下、お気持ちは分かりますが、あまりにみっともないですぞ。」
「そうだよ兄上。もうちょっと堂々としないと。」
今、レイアは支度の真っ最中であり、それを待つジュスタールはそわそわして落ち着かない。
「そうは言っても、あのレイアの晴れ姿だ。それは息を飲むものに違いない。」
「確かに、私も兄上の晴れ姿を見に来た訳じゃないけど。」
「ポールよ、もう少しお手柔らかに願うぞ。」
レイアの控え室の扉が開いた。準備は整ったようだ。
そして姿を現した新婦に、やっぱり息を飲む。
「ジュスタール様、お待たせいたしました。・・・ジュスタール様?」
「・・・・」
「陛下、何かお言葉を。」
摂政に肩を叩かれ、やっと我に返る。
「ああ・・・申し訳ない。あまりに美しく、我を忘れてしまった。こんなことは初めてだが、そのくらい感動している。」
「ありがとうございます。とても嬉しゅう存じます。ジュスタール様も大変凜々しく、私も胸がときめいております。」
「本当に今日ほど王で良かったと思ったことはございません。」
「陛下・・・まあ、今日だけはそれでもよろしいでしょう。では、そろそろまいりませんと。」
二人は聖堂内に入る。
王の挙式ということで、ヴォルクウェイン王家としては豪勢な式だが、他国の来賓すらいない小さな式である。
他国に招待状を送って、来てくれる来賓がいるかは微妙なところであるが、それ以上にレイア、いや、エリーの素性を隠したいという思惑から、各国には結婚の知らせのみを事後に行うことにしている。
さて、二人は聖堂正面出入口から、摂政ファンバステン・オリオールに伴われて入城し、祭壇に登る。
そして、マクベス大司教から誓いの言葉を求められる。
神に生涯変わらぬ愛を誓った二人は、階下に居並ぶ人々に向けて言葉を述べる。
「本日は私、ジュスタール・オリオールと妻、エリー・オリオールの婚礼に足を運んでいただき感謝する。皆には心配をかけたが、本日こうして無事、妻を迎えることが出来た。今日を契機として、さらに職務に邁進し、この国の新たな時代を、妻と共に築き上げていくことを皆に誓いたい。皆も祝福してくれると嬉しく思う。」
自然と大きな拍手と歓声が沸き起こる。
その後、「国王陛下、王妃殿下万歳」の声の中、ポルテンの町をパレードする。
「多くの方に祝福していただき、とても感謝しております。」
「そうだね。今日は一段と多くの人が待ちに繰り出しているみたいだね。」
「皆さん、お顔が明るくて、こちらもつい、笑顔になりますね。」
レイアが歓声に応え、手を振ると、さらに歓声が大きくなる。
こうして町でのお披露目が終わると、城での披露宴となる。
朝の挙式は荘厳な空気が支配していたが、夜は煌びやかである。
開会のファンファーレとともに入城した二人は、主賓席で、この日何度目かの挨拶を行う。
「本日は丸一日、私たちの婚礼に付き合ってくれたこと、感謝する。私は、春の穏やかな日差しそのものと言っても過言では無い、素晴らしい王妃を迎え、これからの人生を歩む。彼女と出会ってまだ1年ほどであるが、その間、私とこの国は多くの恵みと笑顔がもたらされた。それはこれからも続くし、この国の未来は明るいと確信している。今日はその中でも特に良き日だ。皆も共に楽しんでくれると嬉しい。」
パーティーは華やかに始まり、出席者との挨拶や歓談で場は温まっていく。
「レイア様・・・本当に幸せになられて、良かったです。」
「ありがとうベティ。でも、ここではエリーと呼んで下さらないといけませんよ。」
「はい・・・レイア様・・・・」
「本当におめでとうございます。船出したときは、まさかこうなるとは思いもしませんでしたが。」
「それもこれもみんな、エルマーとベティのお陰ですよ。」
「とても穏やかな陛下でございますし、エリー様とはとてもお似合いかと。」
「そうですわね。前のムッツリでなくて、本当に良かったと思います。」
「まあ、そのようなこと・・・」
「これは王妃殿下、今日から姉上としか呼べなくなった哀れな義弟でございます。」
「まあ、ポール殿下、ありがとうございます。でも、私的な場所ではお好きなように呼んでいただいてもよろしいのですよ。」
「いや、これだけは兄上が許してくれそうにないのです。」
「うむ。特にポールには認めんぞ。」
「ついに扱いがベティ殿以下になり申した。」
「お前は無駄に顔がいいからな。妻が心配だから近くに来て欲しくないのだ。」
「演奏が止まりましたね。ダンスが始まるのですね。」
「では、今日もあなたとしか踊りませんので、よろしくお願いいたします。」
「はい。よろしくお願いします。」
会場は色とりどりのドレスを着た多くのご夫人、ご令嬢らで彩られる。
皆の笑顔に囲まれながら華麗に舞う主役二人は、その中でも一際目立っている。
そして、更に熱を帯びたパーティーは賑やかに、楽しげに続く。
まるで、この国の繁栄を示すかのように・・・




