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混乱は各地に飛び火する

 王弟ジェラードが兄を糾弾するために立ち上がったという知らせは、瞬く間に伝わった。

 そしてついに、各地でジェラード支持とルシアン退位を求めるデモまで発生した。


 ルシアンは、デモ鎮圧のため軍の介入を認め、そうしたデモを力で制圧していったが、一度表面化した王への不満が消える訳ではない。


 また、これとは別に、略奪を目的とした暴動や盗賊も増え、目に見えて治安も悪化しており、軍と騎士団は日夜これに振り回され続けている。


 食糧事情も改善が図られてはいない。

 供給計画の見直しにより、一日当たりの配給量は僅かに増えたが、民の不満を抑える効果は一時的だったようだ。

 しかも、供給元の軍は戦時と変わらない激務の中で大量の食料を日々消費しているだけでなく、横領も頻発している状況だ。


 今回の凶作は、国内全土に及んだため、状況はどこも深刻であるが、人口の多い王都周辺が最も逼迫した状況と言える。

 食料輸入については、南部ダレン港と北部カーク子爵領方面から入ってくるが、国民が求める量にはとても足りず、まさに焼け石に水の状態である。


 雨については、少ないながらもたまには降っており、僅かながら井戸の水位も上がったように思えるが、春以降の耕作には全く足りない。

 農民は井戸の掘削に全力を尽くしてはいるものの、今まで天からの恵みに頼っていたため、灌漑を始めとする農業用水の供給体制は脆弱である。

これを他国並みに整備できるのは、早くても十年後であり、来年は耕作面積そのものが減少するだろう。


 そんな中、流民が多く発生している。

 移動先は食料の支援を行っている北部と、季候が温暖で少ないながら輸入食料があり、魚介類も獲れる南部、特にダレン周辺に集中している。


 彼らは僅かな家財を持っただけの流民であり、そんな人々の中で凍死や餓死が増えてきている。

 そして、彼らも暴徒の一団に加わり、治安悪化の一因となっている。


「治安の悪化で、私も城の外に出ることが無くなってしまったな。」

「そうでございますな。私も近頃は帰宅することも無くなりました。」

「このようなことになって済まんな。」

「いいえ。私も宰相としての責任を感じております。」

「そなたのせいではない。しかし、国政の様々な問題点が見えたこともまた事実だ。」

「そうですね。備蓄量のみならず、供給体制、農業生産体制の改善など、取り組む課題は多いことが理解できましたな。しかし、差し当たっては治安の回復が最優先でございます。」


「ジェラードも、旗揚げはしたものの、この状態では動きようがないからな。」

「ええ。軍の一部は殿下を支持しているとはいえ、あくまで一部。それも、殿下をお守りすべく働くことはありましょうが、城に攻撃を加えるまでの覚悟は持っていないでしょうし。」

「ああ。王位を巡る権力争いと、内乱誘発は全く意味が異なるからな。近衛ほどでは無いにしても、国に対する忠誠は軍人だって同じだ。」

「ええ。それに末端の兵まで殿下の支持層とは限りませんので。」

「それで、各地の配給は滞り無く進んでいるか。」

「はい。特に南部は流民が集中しており、備蓄が逼迫しているようです。」


「逆にその他の地方では人口が減少傾向なのだろう?」

「はい。しかし、備蓄場所から担当する区域内を輸送するのが手一杯で、南部まで輸送する余力がないのが実情です。その輸送力も、軍馬の減少により、いつまで維持できるか分からない状況でございます。」

「もう少しで春だ。」

「しかし、農民が種をきちんと保存しているかは未知数です。」

「さすがに、種の備蓄は無いぞ。」


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 一方、こちらは北部、ハースティング辺境伯領


「関門前の流民の状況はどうだ?」

「はい。およそ一万人が野営しておりますが、凍死者もかなり出てきている状況です。」

「とは言え。どうすることもできんな。」

「はい。春になれば一部は故郷に帰るのでしょうが。」

「しかし、もっと押し寄せると思ったのだがな。」

「カーク子爵領境に、およそ3万人が押し寄せております。」

「そうか。今やあそこが物流の要だったな。しかし、各地で暴動が起きているとのことだったが、ここの流民は大人しいな。」


「まあ、食糧事情と治安の悪化からいち早く逃げてきた者達ですから、比較的大人しい層が来たのかも知れませんな。」

「そうなのか?まあ、我が領内に入れない前提では来ているだろうが。」

「しかし、どこからともなく入って来た者が治安を悪化させております。」

「密入国者並の厳罰に処しているのだが、それでも後を絶たんからな。」

「しかし、ダレンでは北部どころの騒ぎでは無いそうで。」

「ここと違い、冬でも暖かいから流民の多くもそちらに流れたのだろう。それに、魚介類は例年通り獲れているそうだからな。」

「しかし、当地でまさか野宿しながら冬を越す者が出るとは、思いもよりませんでした。」

「辺境伯軍でも難しいことだからな。」

 デリラ山脈の方を見ると、今日も厚い雲に覆われている。


「積雪は、例年より多いような気がするな。」

「それ以上に、今年の冬は寒かったと思います。」

「当地では、水の心配はしなくても良いみたいだな。」

「春が待ち遠しいですな。」

「全くだ・・・」


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