対抗策
「陛下、とうとうジェラード殿下が自派の立ち上げを宣言なさいました。」
「皆は何をしていたのだ。ただ指を咥えて見ていただけか?」
「王都防衛軍が周囲を固めていたので、阻止できなかったのでございます。」
「すぐにヤツをここに連れてこい!」
「既に殿下はグレッグ公爵邸に入っております。」
「軍はともかく、騎士団は何をしておる。」
「騎士団に余力はございませんし、バーケット将軍が向こうに付いてしまっている以上、王都の現有戦力に限っては、こちらが不利です。」
「しかし、奴らのやっていることは反乱そのものではないか。」
「いえ、声を上げるだけでは不敬ではあっても、反乱とまでは言えません。ましてや、声を上げられたのも王族でございます。」
「たとえ王族であっても、私に対する叛逆を許すわけにはいかん。各地の軍を動かしてでも、グレッグ邸からジェラードを引っ張り出してこい。」
「各地の軍も治安維持で手一杯ですし、グレッグ邸はすでに多くの私兵団で守られております。容易なことではございません。」
「ならば、ヤツを見過ごせと言うのか。」
「しかし、実力行使などすれば、王都は灰燼に帰すことでしょう。今の状況でそんなことをすれば、国が崩壊いたします。無念ではございますが、今はその時ではないかと。」
ルシアンは席を立ち、部屋を歩き回る。
その表情は、既に彼をもってして苛立ちを隠せていない。
「では、今すぐではないにせよ、いずれジェラードに鉄槌を下さねばならん。当面は奴らのこれ以上の勢力拡大を阻害し、活動を封じ込めて無力化させる他無い。」
「そうでございますな。それで、いかがなさいますかな。」
「王都で配給している食糧はどこから来ている物だ?」
「王城と防衛軍司令部の二箇所にある倉庫からでございます。」
「では、王城からの供給は停止し、城内の兵も全て外に排除せよ。その分の人員は騎士団から補充するとともに、都での配給量を今の倍に増やすよう命令する。それと、バーケットは罷免せよ。」
「王都防衛軍を干上がらせる訳ですな。しかし、供給量の増加がジェラード殿下の功績と解されれば、向こうの支持が高まりますが。」
「構わぬ。王都防衛軍が瓦解すれば、奴らには私兵団しか残らんし、彼らも食料が無ければさしたる脅威ではなくなるだろう。」
「承知いたしました。では、そのように取り計らいます。」
「それと、ヤツにどれほどの諸侯が付き従っている。」
「正確には分かりかねますが、2公爵、4侯爵、8伯爵家は確実にいるものと思われます。」
「グレッグは慎重な男だから、勝算が無いと行動を起こすことはないだろうから、少なくとも伯爵家はもっといるだろうな。」
「そうでございますな。それと、シンクレアに嫁ぐ予定のリデリア殿下については、いかがなさいましょうか。」
「婚約は破棄だ。妹には気の毒だが、しばしの間、謹慎してもらう。」
「ジェラード殿下は異議を申し立てるものと思われますが。」
「関係無い。私の決定が国の決定だ。ヤツの王位継承権も剥奪する。」
「あと、彼らは陛下に対して糾弾を行うとのことですが。」
「そうだろうな。しかし、どこの国でも天災で糾弾された前例など無いだろう。」
「しかし、民は今回の天変地異を聖女と関連づけております。」
「それがそもそもの間違いだということを喧伝せねばならん。」
「今回の暴動も、教会が焚き付けた面がございますからな。」
「本当に忌々しい奴らだが、こちらも戦力を分散する余力はない。まずはジェラード一派を片付ける。」
「分かりました。その方針でいきましょう。それと・・・」
「まだ何かあるのか。」
「はい。南部ダレンに陸揚げされた食料でございますが、当地の領主、チェスター伯爵が買い占めており、他の地方に流通していないとの報告がまいっております。」
「では、伯から買い取ることはできるか?」
「かなりふっかけて来ますぞ。」
「やむを得ん。事が落ち着けばチェスターには借りを返してもらうが、今は強気に出る訳にはいかんな。それで、北部はどうなっている。」
「ロナスから供給される食糧については、辺境伯家が制限を掛けているということはございません。当地の商人が買い付けた食料は高値で売られておりますが、街道の治安悪化の影響で、王都まで運ぶことは控え、近隣で売っているようです。」
「確か、隣が内務卿の領地だったな。」
「はい。」
「ロナスや北部産の食料をダナー領で取引させることで、供給をコントロールできないか検討せよ。輸送は軍にやらせれば盗賊も手が出せまい。」
「王都まで運ぶのですか?」
「いや、王都は防衛軍を干上がらせるために、優先順位を下げよ。南部で買い付けた食料も同様だ。」
「では、そういたします。」
こうして、新たな食料配給計画が立てられ、ルシアンは弟と対峙していくこととなる。




