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対立姿勢

「これは極秘資料となりますが、我々の旗揚げに加わる同志の名簿でございます。」

「これは、かなりいるな。」

 ここはジェラードの私室。


 彼には役職はもちろん、これといった公務も無く、飼い殺しに等しい状態なので、執務室などは持っておらず、王城の端にある小さな離宮暮らしだ。


 平素は訪れる者もいない宮だが、今日はここにいつものマシュー・ベッドフォード侯爵だけではなく、彼の主である、ロナルド・グレッグ、そしてスチュアート・シンクレアという二人の公爵も訪問している。


「しかし、冷や飯喰らいのところに、錚々たるメンバーが集まったものだな。」

「もうすぐお立場が逆転すると思いますぞ、殿下。」


「しかしアーヴィング卿、何故、今なのだ。」

「今はさすがの陛下も事態の沈静化に掛かりっきりで、他に余力を持ちませんので、決起するなら今だと判断したのでございます。」


「決起した後はどうするのだ。はっきり言うが、能力だけなら兄上の方が上だ。そして、私が実権を握るなら、今回の危機も私の責任で回避しなくてはならなくなる。さすがに、私では荷が重いぞ。」

「もちろん状況によりますが、一足飛びに退位を迫るものではございません。」

「しかし、このまま陛下が立場的に追い詰められた場合、殿下に対してどのような行動を取られるか分かりません。」

「そうでございます。それに、陛下には聖女を追放し、水不足と食糧不足、そして暴動を誘発し、国を危機に陥れた責任をお取りいただく必要がございます。」

「そのためには、我らが結束し、王を糾弾できる力を得ないといけないのです。」

「殿下、ご決断を。」


「分かった。どうしても必要とあらば、私は立とう。しかし、今立てば、火中の栗を拾うのは私になる。そこまでの力量は期待しないで欲しい。」

「もちろん。事ここに至っては、国が一丸となって対処するほかございません。そのために諸侯や軍、教会とも結ぶ必要があるのです。」

「そして、最初は王を牽制できるだけの力を、そしてゆくゆくは我々の目指す国を、我々の手で実現できる力を得るつもりです。」

「今がその時なのか?」

「まずは、王を糾弾します。これで王が責任を取って退位なされるなら、それが一番良いのでしょうが、あの陛下はきっと、そうはなされないでしょう。」


「あの兄が自ら身を退くなど、考えられないな。」

「ですので、時間を掛けて何度でも糾弾し、臣民に対してもこれを知らせます。」

「こちらへの支持を固めるのだな。」

「我々が希望を見せれば、民は幾分落ち着きましょうし、治安が向上の兆しを見せれば、軍や騎士団の支持も高まるでしょう。」

「しかし、それで水不足が解消される訳では無いぞ。」

「王の力が弱まれば、聖女の無罪と国内への召還が可能です。これで民は落ち着きますし、天候が回復すれば、もう我々の勝利は決定的です。」


「しかし、天候が回復するとは限らんぞ。」

「その場合は王に対する神罰だから、聖女を持ってしても急に回復するわけではないとでもしておけば良いですし、教会が邪魔ならば、聖女の責任にしても良い。」

「つくづく、聖女が気の毒に思えるよ。」

「聖女とは元々、そのような存在でございます。」

「分かった。ではまず、兄上に対する糾弾だな。」

「はい。決起は明日正午。王城前中央広場にて、殿下と諸侯で執り行います。」


「軍や騎士団と衝突しないか?」

「ご心配なく。すでに王都防衛軍のバーケット将軍は、我々への支持を表明しております。」

「ならば・・・是非は無い。」


 こうして、ジェラード殿下は兄への糾弾と、新たな政策を民に訴えるため立ち上がった。

 グレッグ公爵によって用意された舞台と演壇。ジェラードは壇上に立ち、発起人であるグレッグ、シンクレアの両公爵が後ろに控える。


 さらに階下の最前にはジェラードを支持する諸侯、後ろにその関係者が並び、周囲を軍が警備する万全の体制である。


 すでに王都を警備するバーケット将軍のほか、何人かの将軍も王都に集まっており、さすがのルシアンもこれを阻止することはできないはずだ。


 壇上のジェラードは、まだ幼い面影が残るほどの年齢だ。かなり緊張の面持ちに見えるが、それでも支持者に対して堂々と語りかける。


「本日は寒さの厳しい中、そして、平穏とはほど遠い不安の中、私のために集まってくれたこと、誠に大儀である。」

 ジェラードが右手を聴衆に向けてかざすと、彼らから拍手が沸き起こる。


「今、我が王国は未曾有の危機に瀕し、民は食い詰め、人心は荒み、軍や騎士は疲弊している。また、井戸は涸れ、作物は育たず、商いは滞り、政治は無策である。」

 ジェラードは一呼吸を置く前に、聴衆を左から右に一瞥する。


「それはいつからか?一年前の今頃はどうだった?では、誰の何が原因か!それはもう今さら言うまでも無いだろう。だから私は立つ。国のため、民のため、諸侯のため、未来のためにだ。皆、私を信じ、支持を表明して欲しい。私に国を変える力を与えて欲しい。私は良きリーダーとして、この国を正しく導く覚悟を決めた。頑なに自分の考えを曲げず、事ここに至っても有効な手立てを講じない者たちを今こそ糾弾するのだ!」


 すぐ目の前にいる諸侯だけではない。

 警備をしている兵士の外側にいる一般の群衆からも賛同の声と拍手が聞こえる。

「私はこの混乱を収め、再び平穏な暮らしを取り戻す。皆の期待に応え、この国を再び繁栄させるために立つ。皆の者、私の元に結集せよ!」


 諸侯たちの「おうっ!」という掛け声を皮切りに、場はジェラードを支持する声で溢れた。

 王侯貴族の決起集会を屋外で行うのは異例であったが、殊の外、大きな効果があったようで、事は成功裏に終わる。


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