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動乱、収まらず。

 私の名はオリバー・マンスール。

ここレヴフォートの街を守る近衛騎士団長である。


 そして今は、暴動の鎮圧のため、隊の指揮を行っているところである。

 確かに、町の治安維持は騎士団の重要な任務ではあるが、暴徒の鎮圧など、誰も経験の無いものであり、制圧の加減が分からず相手に大怪我させたり、逆に逃げられたりと、思うに任せない状況が続いている。


「申し上げます。南地区の暴徒については、ほぼ鎮圧したやに思います。」

「しかし、奴らも移動しながら警備が手薄なところを焼き討ちしているようだ。一旦収まったからと言って油断するな。」

「了解!」


「申し上げます。捕縛した者多数につき、各詰所とも、これ以上の収容は無理とのことです。」

「この際、詰所の外でいい。拘束して一箇所に集めておけ。これ以上、団員を分散させることはできん。」

「しかし、屋外では凍死しかねませんが。」

「他に場所はない。それと、取り調べは進んでいるか。」

「ある程度の数の調書が取りまとまり次第、ご報告に挙がります。」

「陛下に情報をあげる必要がある。急げ!」

「はっ!」


 私は思わず頭を抱え、椅子の背もたれにもたれかかる。

 本来、指揮官は気丈に振る舞う必要があるが、民の怒り、団員の疲弊、そして、自国の民への攻撃は今まで経験したことのない精神的な疲労を強いる。


「団長殿、お疲れのようで。」

「ああ済まない。私だけが疲れている訳ではないのにな。」

「いえ、致し方ありません。いくらこれが騎士団の本分とは言え、誰も予想だしなかった事態に対処している訳ですので。」

「ありがとう。しかし本当に疲れるし、気持ちが落ち込むよ。私たちが今戦っている相手は、ついこの間までのどかに畑を耕し、町を闊歩し、酒場で語らっていた者達だ。」

「ええ、今の彼らからは想像も付きませんが。」


「本来、善良な市民であった彼らが、今は餓鬼のように他者を貪る暴徒となっている。この現実に私を含めて皆が困惑し、疲労している。」

「そうですね。言葉が出ません。」

「私もだ。」

「団長殿、少しお休みになられてはいかがでしょう。」

「済まんな。」


 私は部下の言葉に甘え、少し休むことにしたが、戦場特有の昂揚感から、眠れるはずがない。

「神は我らを・・・いや、私が神にすがる資格は無いな。」


 遠くから部下らしき者の走り来る音、そしてノックが響く。

「申し上げます。再び南地区で商店を襲う暴徒多数!同地区の詰所も襲撃を受けております。」

「南にいた部隊は今、どこにいる。」

「一部は詰所におりますが、隊を分け、西地区の応援に向かっております。」

「ならば私が出る。副団長を呼び戻し、ここで指揮を執らせよ!」

「はっ!」

 伝令は副団長のいる市街北部に走り、私は本部に残っていた部隊を率いて南地区に向かう。


 だが、予想以上に暴徒の数は多く、それらを制圧しながらの前進は捗らない。

 何せ、一人一人は取るに足らない素人だが、逃げ惑う市民をかいくぐり、彼らを追いかけ、捕縛するという行為は非常に効率が悪い。

 その上、こちらの視界に入っていない暴徒は、すぐに逃げ惑う市民に紛れ、見分けがつかなくなる。

 こんなことをここ数日続けているのだから、騎士団員もたまったものではない。


 ようやく南地区の詰所に到達し、暴徒を追い払ったが、既に詰所は陥落しており、逮捕・拘束していた暴徒の多くは解放され、逃げ出した後であった。


 残っていたのは怪我をして動けない逮捕者と、同じく怪我をした部下のみであった。

「申し訳ございません。逃げられてしまいました。」

「ここに詰めていたのはこれで全員か?」

「はい。10名です。」

「誰も失わなかったのは幸いだ。最後までよく頑張ったな。」

「勿体なきお言葉でございます。」

「怪我人を本部に移送。これより南地区は私が陣頭指揮する。」

「すぐに副団長も来られると思いますが。」

「アイツも少し休ませてやれ。」


 しかし、勤勉さでは右に出る者のいない副団長は、すぐに詰所に馳せ参じてくる。


「さすがだな。と言いたいところだが、指揮官が本部にいないのはいただけんぞ。」

「ですから、私がここに参りました。」

「取り消そう。やはりさすがだ。しかし、大丈夫か。」

「何のこれしき、ロナスとの戦場に比べれば、どうということはございません。」

「それで、騎士団は既に全員が配備についている。このまま不眠不休だと、鎮圧はおろか、治安が崩壊する。」

「では、軍の市内での活動を陛下に進言なさるのですね。」

「こうなってはやむを得ん。私は責任を取ることになるだろうが、もしもの事があれば後は頼むぞ。」

「はい。しかし、団長殿の責任ではございません。」

「私も騎士の端くれ。保身などはせんよ。それに、バーケット将軍は理性的な方だし、兵だって元は庶民だ。上手くやってくれるさ。」


 こうして私は王城に向かい、王都防衛軍の市内活動許可について進言し、了承された。

 私への処分は、事態が収拾するまで一時保留となり、再び本部で指揮を執ることになる。


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