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婚約正式発表

 ジュスタールはレイアを叔父である摂政、ファンバステン・オリオールの養女とした。


 他の有力者の養女にしようとも考えたが、これから迎える激動の時代を前に、政治的なバランスを変更させたくなかったのである。


 この手続きがやっと終わった1月15日に、ジュスタール・オリオールとエリー・レイア・オリオールの婚約が発表された。


 彼女はハースティングの姓を失った訳では無いが、レジアスを含む他国から彼女を隠すため、ハースティングを名乗らない方向で決まったものである。


 また、同じ理由でレイアの名はミドルネームとなり、公式の場ではエリーと呼ばれることとなった。

 そして、血筋が尊ばれる上流社会に突如現れた謎のご令嬢という声を払拭するため、表向きはファンバステンの妻の遠縁ということにした。


 こうした下準備を経て、今夜は婚約披露パーティーが開催されている。


「これは陛下、このような見目麗しいご令嬢、いつの間に見つけておられたのですかな?」

「これは侯爵、久しぶりであるな。そなたが滅多に城に来ないのがいけないのだぞ?」

「しかし突然でございましたな。しかも摂政様の奥方の遠縁とは。」

「まあ、叔父上もいらぬ揉め事に巻き込まれたくないというので、彼女のご実家については伏せさせてもらうけどな。」

「それがよろしいでしょう。摂政様の影響力がさらに大きくなることを喜ばない者もいるでしょうからな。」

「それでこちらが。」

「エリー・オリオールでございます。以後、お見知りおきを。」

「これは、声まで麗しい。いやあ、無粋な陛下にはいよいよもったいない。」

「侯爵よ。今日はその辺りで勘弁願えないか?」

「ハハハッ!陛下がそのようなお顔をされるとは。久しぶりに城に来た甲斐がございましたな。」


「兄上、おめでとうございます。」

「ポール、ありがとう。心配をかけたな。」

「ええ。私も早く子を成すよう急かされておりましたので、助かります。」

「いや、だからといって子供を生まなくてもいい訳じゃないからな。」

「それでも、ゆっくり自由にしていて良いのでしょう?」

「そうかも知れないが、結婚してもう3年だ。あんまりのんびりしてていい訳じゃないぞ。」

「分かっておりますよ。兄上。」


「ポール殿下、改めまして、エリーでございます。」

「普段はレイア様とお呼びしても良いのでしょう。」

「ええ。」

「ポール。お前は姉上と呼べ。」

「それはあんまりではございませんか。」

「お前は自分の妻を大事にしろ。」


 本当に暢気な兄弟だが、彼らだけでなく、ヴォルクウェイン全体がこういった大らかな雰囲気である。

 これは単に小国だから、というだけではないだろう。


「それとこちらが王弟妃マリーベル殿下だ。」

「よろしくお願いします。」

「こちらこそ初めまして、エリーでございます。」

「陛下、お久しぶりです。この度は本当におめでとうございます」

「サルマンじゃないか。よく帰って来てくれた。それでロナスはどうだ」

「とても都会的で、素晴らしい所でございます。」

「帰国するつもりはないのか?。」

「毎日が楽しくてたまらないもので、できればあと5年くらいはいたいですね。」

「おいおい。摂政殿の後を継ぐつもりは無いのか?それとも、向こうに良いご令嬢でもいたか?」

「いえ、残念ながら田舎の小国出身ですからね。女性には見向きもされませんよ。それに、父はまだ40過ぎですから。」

「サルマンが帰ってくれば、賑やかになるんだけどなあ。」


 そしてダンスが始まる。

 二人の初披露ということもあり、皆が注目する中、ステップを踏み出す。


「もう少し、練習しておけば良かったですね。」

「申し訳ない。私はあまりダンスが得意じゃ無くて、あまり練習に気が乗らなかったのだ。」

「こちらこそ申し訳ございません。私もあまりダンスの経験がなく。」

「やはり、聖女様は踊る機会が少ないのですか?」

「ええ。それに、パーティーに出席する機会もあまりございませんでしたので。」

「私もお付き合いした女性がいなかったので、パーティーではいつも壁の置物でした。」

「陛下、壁の花ですよ。」

「私は花にはなれませんので・・・」

 そう言いつつも、決してダンス初心者ではない二人は、無難に曲の最後を迎えた。


「ああ、体力には自信があるが、これはさすがに気疲れする。」

「もしよろしければ、これから共に練習いたしましょう。」

「そうだね。素直に反省したよ。」

「陛下、エリー殿下、大変瑞々しいダンスでしたぞ。」

「ありがとう叔父上。転ばなかっただけで満足だよ。」

「これで諸侯にもしっかり知らしめることが出来ました。大成功ですぞ。」

「そう言ってもらえてありがたい。先にお暇してもいいのかな。」

「そうでございますな。ここからはむしろ、ポール殿下とサルマンに頑張っていただかなくてはなりませんから。」

「全くそのとおりだ。ではエリー、控え室で休もう。」

「今日は、様はお休みなのですね。」

「エリーは呼び捨てしやすいんだ。レイア様とは違う。」

「同じですのに・・・」


~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/


 そして数日後。

 婚約から結婚までの間に解決しないといけない課題はある。

 ヤース教会との関係である。


 そこで今日は、ジュスタールの執務室に、いつものメンバーに加え、ヤース教会の大司教でヴォルクウェイン教会を仕切るニコル・マクベスと聖ポルテン教会のジャンパール・ガレ枢機卿を呼んでいる。


「先日は婚約のご発表、誠におめでとうございます。本日、こうしてお目通りが叶い、とても光栄に存じます。」

「ありがとう。大司教にもそう言っていただき、ヤースの信徒として誇らしく思う。それとガレ枢機卿もわざわざ足を運んでいただきありがとう。」


「私からも祝福の言葉を述べさせていただきたい。この婚礼により、我が国の発展がさらに確たるものとなりますことを、お祈りしております。」

「本当にそう願うよ。それで本日、ここに来てもらったのは、ヤース教と聖教の関係がより良くなることが重要だと考えたからだ。」

「と、申しますと。」

「実は、我が伴侶となる女性は聖教の信徒でな。同じ神を崇める二つの教会が、このことで対立することになってはいけないと考えたのだ。」

「元より、対立するほど仲が悪いわけではないのですが。」

「まあ、念のためだ。私はたとえ違う宗教を信じる者同士とはいえ、エリーをとても大切に思っているし、愛している。彼女に教会同士の諍いなどというものを見せたら、酷く悲しむと思ってな。」

「私共、聖教ポルテン教会としましては、何ら異論はございません。全ては陛下のお心のままに。」

「私たちヤースとしても、特に異議はございません。まあ、とにかく驚いてはおりますが。」


「マクベス卿には申し訳ないと思っている。しかし、レジアスの王女を迎えた他国の王家の例もある。ここは一つ、遺恨のないように願いたい。」

「もちろんでございます。異教徒とはいえ、元を辿ればヤースの民。目くじらを立てるほどではございませんし、諍いはよくありません。」

「そう言っていただけるとありがたい。」


「しかし、摂政様の縁者に聖教の信徒がおられたのですな。」

「叔父上の妻の遠縁だ。まあ、この国にも少ないながら聖教を信仰する者もいる。それほど不思議はなかろう?」

「ええ。しかし、意外でございました。」

「まあ、あまり重く考えずに、彼女の人柄を評価していただけると嬉しい。」

「評価など、おこがましいことでございます。」


「ところで、挙式についてなのだが。」

「それは、マクベス殿を立てて、ヴォルクウェイン・ヤース教会で執り行うのがよろしいでしょう。」

「そうですな。王家は歴代、当教会と決まっておりますゆえ。」


 隣でレイアが笑っている顔を見て、聖ポルテン教会での挙式は潔く諦める。

 マクベス大司教にはまだ、詳しい事情を明かさない方が良いと考え、レイアの身上については伏せているが、何年かして、夫婦として揺るぎない実績と影響力を備えた暁には、公表しても構わないと考えている。


 そんな中で、ヤース司教から表だって反対の声が上がらなかったことは、よい材料である。

 ジュスタールは内心、ほっと胸をなで下ろし、会談を終える。


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