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落ち着かない憩いの時

 さて、一日の終わり、ジュスタールにとってレイアと過ごすこの時間は、彼にとって最も幸せを実感する至福の時となっている。


 最近、特に忙しくなっている彼にとっては、レイアの穏やかな笑顔が何よりもありがたい。


「レイア殿、疲れているところをいつも済まないね。」

「ジュスタール様、やっと様がお休みに成られましたのに、代わりに殿様が出てきてしまいました。」

「でも、少しは進歩したと思う。」

「はい。でも、レイアで結構でございますよ。」

「うん、そうだね。じゃあ、レ、レイア・・・」

「はい・・・」

「・・・」

 二人は顔を赤らめ無言になる。

 この二人、基本的にいつもこうである。


「申し訳ございません。ジュスタール様。とても嬉しいのですが、やはり、慣れませんね。」

「こちらこそ申し訳ない。何せ、ご令嬢を呼び捨てにした経験がなく。しかし、ちゃんと堂々と呼べるようになってみせるから、少しだけ待っていて欲しい。」

「はい。でも、こういう気恥ずかしいのも悪くないです。とても心が弾みます。」

「私も全く同じだよ。でも、レイア殿は慣れてないのかい?」

「まあ、殿様はなかなか帰られませんね。」

「うん。私が一日一回くらいしか耐えられそうも無いので、助けに来てもらった。」

「ではまた明日、よろしくお願いします。」

「そうだね。それで、レイア殿の方の様はまだいるんだね。」

「はい。私の様は、とても面倒見が良いのでございます。」

「前の婚約者にはそう呼んでたの?」

「いいえ。殿下とお呼びしておりました。」

「じゃあ、私の方がかなり親しいね。」

「はい。もちろんでございます。ルシアン陛下とは、手をお繋ぎしたこともございませんでした。」

「何と呼ばれていたの?」

「最初の頃は聖女様だったと思います。最近はハースティング嬢でした。」

「私からすれば、地平線の彼方くらい遠い存在だ。」

「ですから、私も初めてのことに緊張することしばしばでございます。」

「そうなのですね。少しづつ慣れて行くべきものでしょうが、このドキドキする気持ちも捨てがたいと思います。」

「そうですね。この気持ちをいつまでも忘れないでいたいですね。」


「本当にレイア殿は優しく穏やかな方だ。聖女様とはかように良きお人柄を持っておられるのか。」

「お誉めいただくと、その、またぶり返してしまいます・・・」

「ああ、私もそのような顔をされると、後に続く言葉が出ない・・・」

 また会話が止まる。

しかし、決して悪い雰囲気ではなく、むしろ良すぎて第三者が絶対に入ってこられない何かを醸し出している。


「それで、今はどのような事でお忙しいのですか?」

「うん。これから春を迎えて人々が本格的に畑を耕し始める前に、やっておくべき事が多いんだ。土地の所有権で揉め事が増えると畑仕事どころではなくなるし、農地になりそうな優良な土地が増えると、新しい開拓団も結成されるだろうし、この国では前例の無い事態だから、準備を怠りなく進めておく必要があるんだ。」

「確かにおっしゃられるとおりですね。でも、何だか申し訳なくて。」

「いやあ、これほど喜ばしいことはないよ。何と言っても皆の顔が明るい。暖かくなって欲しいという春の待ち方というより、これから先、どんな素晴らしいことが起きるんだろうという春の待ち方を皆がしている。」

「それはとても嬉しい事ですし、将来に希望に勇気が湧きますね。」

「うん。私も上手く表現できないけど、静かに沸き立っている感じかな。」

「はい。私も春が待ち遠しいです。でも、無理はなさらないで下さいね。」 


「分かった。でも、本当は婚礼の準備をしたいんだけどね。」

「私はいつでも結構ですので、無理をなさらないで下さい。」

「春だ。春には聖ポルテン教会で式を上げよう。」

「でも、ヤース教会にお叱りを受けたりしないでしょうか?」

「でも、聖女様と結婚するのに、ヤース教会ではいけないんじゃないかな?」

「私はヤース教会でも構いませんよ。」

「それでは私の気が済まないからね。それにガレ枢機卿やお付きの方の気持ちも大切だよ。」

「そうですね。では、皆さんに確認しておきます。」

「今日は大切な事が決まってよかった。」

「申し訳ございません。せっかくのお休みの時間に、お仕事のお話をさせてしまいました。」

「いや、とても充実した憩いの時間になったよ。ありがとう。そろそろ遅い時間だから、今夜はこれで失礼するね。」

「私こそお引き留めしてしまいました。それではジュスタール様、良い夜を・・・」


 二人は、まだたどたどしいキスを交わし、それぞれの夜を迎える。


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