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二つの新年

 さて、年が明けると例年、各地で新年の祈りが行われる。


 王都レヴフォートでは、聖女に会えるとあって、いつもなら大勢の見物客で賑わう。

 レイアも12才の時から5年に亘り、この行事のため、祈りを捧げた。


 聖女不在というか、空白期間はこれまでにもあったが、聖女が国内に存在しないことが確定している新年の祈りは、建国以来初めてである。


 ヴァージル枢機卿はセントラルワース大聖堂の祭壇に立ち、長い祈りを捧げた後、つめかけた信徒に向き直る。


「皆、新たな年が始まった。昨年は聖教始まって以来の悲しい出来事があり、私もトップとして初めての新年を、このような悲しみと混乱の中で迎えることとなってしまった。今、信徒は大きな二つの試練に直面しておる。言うまでも無く弾圧と神罰である。何を意味するかは言わずとも分かるだろう。」

「そうだそうだ!」

 聖堂内には、信徒に扮した教会関係者もいる。

 もちろん、王の手の者も潜入しているであろう。


「我々は聖女を失い、食べ物は得られず、あらゆる意味で塗炭の苦しみを味わっておるが、これは教会にも信徒にも全く非の無い大きな暴挙が発端となったものである。そして、今起きている試練が神罰によるものであることは最早、隠しようが無い。何故なら、リンド様が初めて奇跡を起こされて以来、このような飢餓も、聖女様を失ったことも無かったからだ。」

「そのとおりだ!」

「何で私たちがこんな目に遭わないといけないの!」

「ああ、聖女様・・・」


 信徒のどよめきと野次にも似た声は徐々に増え、叫びは大きくなる。

 最早、サクラだけではあるまい。


「しかし、我々信徒はここで信仰を捨てることも、負けることも、生を諦めることもできないし、してはならない。では!何をすべきか!」

 ヴァージルは一際大きな声で叫ぶ。


「何故こうなったのか、我々はどうすれば神に許されるのか、すべき事は明らかである。近頃、町や街道の辻に掲げられている横断幕を見よ。信徒よ、目覚めよ!そして困難に立ち向かえ!」

「おうっ!」


 先ほどまで厳かな空気に包まれていた聖堂内が一斉に震えた。

 喜びの声ではない。聖堂に最も似つかわしくない怒りの雄叫びだ。

 新年の祈りは、信徒を興奮状態に導く異例なものとなり、彼らは足早に外に出て行く。


「どうやら上手く行ったようだな。」

「中には宮中伯の手の者もいたでしょうが、ヴァージル様のお言葉に問題があったとは思えません。」

「別に王を誹ったわけでは無いからな。」

「皆が内心思っていることを、それとなく表現しただけでございます。」

 この日、初めてレヴフォートで大規模な暴動が発生し、市内のあちこちで火の手が上がった。


~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/


「また、新たな年がやって来ました。」

「そうでございますな。」

「皆が幸せに包まれる一年になると良いのですが。」


 こちらはヴォルクウェインの聖ポルテン教会。

 レイアやガレ枢機卿ら、教会関係者や熱心な信徒のほかに、庶民に扮したジュスタールも昇る朝日に祈りを捧げたところである。


「ここポルテンは冬でも温暖なところですが、今日は特に暖かいと感じます。」

「へ、いや、ジュスタ殿。これも聖女様のお力によるものでしょうし、レイア様のお人柄によるところもございましょう。」

「そうだな。枢機卿の言うとおりだ。」

「しかし、春のようですね。」

「先ほど、あの木に毛虫が這っていましたよ。」

「いくらここが暖かい土地だといっても、さすがに早いですね。」


「もう農作業だってできるのではありませんか?」

「さすがに、もう一回か二回は気温が下がる時期があるとは思いますが。」

「でも、種まきの準備をする者は出てきそうですね。」

「特に、新しい土地を開拓しようと考えている者は、早く動き始めるでしょうね。」

「新たな農地ですか。」

「全て、聖女様のお陰ですよ。本当にありがとうございます。」

「いえ、まだそうと決まった訳ではないと思いますが・・・」

「いや、もうこれは豊穣の神の恵みと考えるのが妥当でしょう。」

「そうですな。あの光の奇跡を見てしまった以上、それを否定することの方が難しい。」

「では、そろそろパンとスープの準備が整ったようです。信徒の皆さんとともに、有り難くいただきましょう。」


 集まった人数は決して多くはないが、皆一様に明るく、晴れやかな表情である。

 風も無く穏やかに晴れ渡った空は、今年の優しい天候と、豊かな実りを予感させるものであった。


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