ジュスタールとレイア
二人は今日、教会に来ている。
もちろん、二人とも城に住んでいるのだから、いつでも会えるのだが、こうして外で彼女の日常を共に過ごすことが大切な事だとジュスタールは考えている。
「しかし、毎日本当によく働くね。」
「私には、これしかございませんから。」
「そんなことは無い。祈りだけじゃ無く、掃除や教会周辺の清掃、食事の準備まで。本当にいつもどこかで働いている。今だって教会の壁を磨いてるし。」
「陛下におかれましても、せっかくの休日ですのに、このようなことに付き合わせてしまって、誠に申し訳ございません。」
「私はいいんだ。それに、この格好で居ると、誰も王とは気付かないんで愉快なんだ。」
そうなのだ。
陛下の格好は庶民の、それもよりによって、労働者階級のようなラフすぎる格好だ。
まあ、この陛下の人柄なら、そういうこともあり得るが、とてもデートの装いではない。
デートなのに壁を水洗いしているが・・・
「まあ、イタズラ好きですこと。」
「そういうレイア殿も貴族令嬢なのでしょう?」
「はい。実家は辺境伯家でした。」
「何だ。それじゃあ前に来ていた外務卿より偉いじゃないか。」
「爵位はそうですが、別に偉いというほどではありません。」
「本当に謙虚なお方だ。元はと言えば、こんな田舎の名ばかり王などに嫁がなくてもいいくらいの方なのに。」
「陛下は立派な国王ですよ。それに、お人柄もとても好ましく、その、お慕いしております。」
「・・・・」
両者とも、これ以上言葉を紡ぐことが出来ず、沈黙してしまう。
「寒くなってきましたので、中に入りましょう。」
「ああ、そうだね。」
二人とも気まずかったのか、空気を変えるために教会内で休憩することにした。
「まあ、壁も随分綺麗になったんじゃないかな。」
「はい。お手伝いいただき、ありがとうございます。お世話になっている教会ですので、何かお役に立ちたいのです。」
「ここは何年もこんな感じだったと記憶してるからね。それに、建物外壁の拭き掃除なんて、水の乏しいポルテンではまずやらないことだからね。」
「やはり、そうなのですね。知らない事とは言え、皆さんの感情を逆なでしてしまったかも知れません。」
「そんなことないと思うよ。町中にも埃っぽい見た目の建物は多いから、むしろ綺麗にして欲しいくらいだし、城だってちょっとは見栄えが良くなるかも知れないね。」
「やはり、陛下はお優しいです。」
「これが普通だと思うんだけどね。私の方こそ、レイア様には失礼な事も、婚約を強引に迫ったことも、我が国に加護を鞍替えさせてしまったこととか、非常に申し訳ないことをしたと思ってる。」
「そんな・・・ お気になさらないで下さい。確かにレジアスの民には申し訳ないことになったと思っておりますし、今後何か良い解決策を見出さなければいけないとは思っておりますが、婚約も、その、嬉しかったですし、陛下を始め、この国の皆さんには本当に感謝しております。」
「そう言っていただけると少し、気が楽になりますね。でも、特にレジアスの件に関しては、知らなかったこととは言え、レイア様ならきっと気に病んでいるだろうと思いました。」
「気に病むというより、申し訳なさと罪悪感で一杯です。」
「十分、気に病んでおられます・・・」
こんな彼女だからこそ、何とか幸せになって欲しいと思うし、自分には王として、それだけの力が備わっているという自覚もある。
「確かに、レジアスの民は、この500年の歴史で経験の無かった苦難に直面している。でも、それはレイア様の責任ではないし、この国の民を救ってくれたことは、この地の王として感謝している。その上で、私は君を守り、王としての責任を全うしたいと考えている。それで、レイア様の心のつかえは、少し楽にならないだろうか。」
「とても有り難く、嬉しく、そして、申し訳なく存じます。」
「申し訳なく考える必要はないよ。夫婦になればそういったことも一緒に背負うことになるし、私が君に背負わせることもあるだろう。これから二人で何とかしよう。そして、これからたくさん笑い合おう。」
「ありがとうございます。では、これからいろいろお知恵をお借りしても?」
「当然です。お任せ下さい。」
「私も、生涯を賭けてこのご恩をお返しできるよう、全力で励みます。」
「まあ、そんなに気負うと、息切れしたり、お身体に差し障ることもあるでしょうから。無理はなさらぬよう、よろしくお願いします。」
「はい。承知いたしました。」
「それと・・・その、ジュスタール呼びは、どこに行ってしまわれたのでしょう・・・」
「まあ、申し訳ございません。今日はお休みでしょうか・・・」
「レイア様も、冗談を言われるのですね。」
「ジュスタール様も、様が働いております。」
「まだ、照れくさいので、様に手助けしてもらっております。」
不器用な奥手同士、少しづつ歩み寄ってはいるようだ。




