ヴォルクウェインの変化
一方、同じ頃。ジュスタールの執務室では・・・
「今年は例年の四倍を越える収穫があり、作物の価格は大幅に下落しております。」
「それはそれで由々しきことなのだろうな。」
「はい。とても我が国の民で消費できる量ではありませんな。」
「穀物なら輸出できるが。」
「生鮮品は無理ですな。」
「何分、例が無い事で困惑しかないが、聖女様の加護が真実であれば・・・いや、実際にこの目で見てしまったから疑いようもないが、これからも続くかはまだ未確定だしな。」
「そうですな。あまり浮き足立たないことが大切でしょうな。しかし、もしこれがこれからも続くのであれば、そういった想定も立てておく必要がありますぞ。」
「そうだな。農地の開拓や輸出販路の構築、輸送手段の確保、果ては人口対策まで考える必要がある。」
「ええ。そして同時に、レジアスを他山の石として捉え、聖女様を失った場合についても想定すべきではないかと。」
「いや、それは人知を超えたものだ。私に何とかできる知恵など無いぞ。」
「では、何としても聖女様をお守りする手段を考えるべきですな。」
「それはもちろんだ。我が妻を守るのは私の役目だ。」
「その意気でございます。」
二人は目を合わせて笑みを浮かべる。
まあ、宰相は豊作に、ジュスタールはレイアを思い出してであろうが・・・
「しかし、どのような方法がベストなのだろうか。聖女様であることを公表の上、公式に守るのが良いか、誰か諸侯の養女にした上で迎え、彼女が聖女であることをひた隠しにした方が良いか。」
「そうですな。どちらも一長一短がございますが、聖女様の奪還に動くであろうレジアスだけではなく、奪おうと画策するであろう他国にも注意を払う必要がございます。」
「一長一短があるのか?」
「たとえ名を変えても、レジアスの外交官にはレイア様だということは立ち所にバレるでしょうし、養女とした家が政治的に大きな力を得ることになるでしょうから。かといって聖女様だと分かるとレジアスもロナスも動くでしょうな。」
「我が国の力では、レジアスやロナスの圧力に抗するのは、さすがに荷が重いからな。」
「しかし、確実に言えるのは、ご結婚を急ぐことです。」
「そうだな。守るにしてもそれが最低条件だな。」
「そして、我が国と国境を接しているのはロナスとレジアスだけでございますが、ロナスの周辺国との同盟によって、軍事的圧力から身を守ることが肝要でしょう。」
「そうだな。幸いにしてロナスの敵は多い。」
「レジアスは陸続きとは言え、レッセル荒地を大軍が越えることはできませんので。」
「では、ロナスと対立するエブロンやサリー、シェンドラなどとの同盟締結について、水面下で動くことにしよう。」
「承知しました。」
「それで結局、耕作可能と見込まれる土地は新たにどれくらいあったのだ?」
「申し訳ございません。あまりに広大で、しかもそんな業務に携わった者などおりませんので、なかなかに苦戦しております。」
「恐らく、そのほとんどは誰も所有者がおらず国有地扱いになっている土地だろう。」
「一部、これまで放牧地として利用されていた土地はあると思いますが、そもそも放牧地に所有者はいないでしょうから。」
「ならば、開拓した者に所有権を認める方向で開拓促進を図ることは可能か?」
「至急、民事と農政の担当と協議するようにいたします。」
「とにかく、良い事なのに、それで民が混乱し、訴訟だらけになってはならん。急いでくれ。」
「御意。」
「それでも、民の顔は皆一様に明るい。それだけは言える。」
ジュスタールは眼下の町に目を向ける。
「ええ、店には溢れんばかりの食べ物が溢れ、貧しい者にもふんだんに食べ物が行き渡る状況は、これまでに無かったことですから。」
「それは町に出て一番感じることだ。」
「そして、レジアスはかなり厳しい秋を迎えているようですぞ。」
「そうは言っても、現状で我々にできることはない。」
「ええ。しかし、穀物や芋なら輸出は可能です。」
「あれっぽっちの船で運べる量など、たかが知れているだろう。」
「そうですね。双方とも影響は小さいでしょう。」
「しかし、それで海運が盛んになればいいな。」
「当国には大型船を建造可能なドックも木材もありませんので、他国頼みにはなりますが。」
「レジアスも海には消極的だったからな。」
「そうですな。しかし、自国で消費できないとなると、他国に輸出するほかはございません。」
「それでも、今年が異例だからな。商人もすぐに他国への商売に動くかどうか。」
「しかも、現状ではロナス以外に相手がいませんからな。」
「いろいろ考えることは多いな。」
「当分は忙しいと思いますぞ。」
「まあ、贅沢な悩みなんだろうけどな。」
そこでドアをノックする音が・・・
「失礼いたします。」
「よいぞ。」
「ただ今、レジアスから外務卿がお見えになっております。」
「何と。準備があるゆえ、晩餐は今夜行うとして、正式な謁見は日程を調整してくれ。」
「畏まりました。」
「いかに大国とは言え、先触れくらいは欲しかったな・・・」
王宮は久しぶりの賓客に色めき立つ。




