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特効薬は無い

 ここはルシアンの執務室。

 今日は内務、軍務などの関係者が集まり、今秋から始まった食料配給について議論している。


「混乱することは分かっていたが、状況はどうなっておる。」

「はい。家族の人数分以上の食料を得ようとする者が後を絶たず、現場は大変混乱しております。」

「役人は何をしておる!」

「役所総出で証明書の作成に尽力しておりますが、それでも最低半月は時間をいただきませんと、とても無理でございます。」

「準備不足であったことは否めないかと・・・」

 確かに、最も役人の多い都でこの状態なのだ。弱小領主の治める地など推して知るべしだ。


「とにかく、このままでは暴動に発展しかねません。」

「それに、配給量に関する不満も非常に高くなっております。」

「それはやむを得んであろう。ふんだんに配れば春を待たずして餓死者が出る。」

「水不足も深刻さを増しております。」

「週に一度、小雨は降りますが、それが却って皆の心を挫いているようにも見えます。」

「もっと降って欲しいところだな。」

「ええ、果樹もほとんど実りが無かったですし、あらゆる食べ物が不足しております。」


「輸入はまだか。」

「価格の折り合いが付いておりません。」

「足下を見られているか。」

「はい。ロナスも敵国に等しい存在ですので。」

「ヴォルクウェインはどうだ?」

「海路しかなく、運行している船も少ないので、あまり期待はできません。」

「それでも手をこまねいている場合じゃないな。」

 そこでドアをノックする音。


 入室を許可すると、近衛騎士団の副団長が入ってくる。

「申し上げます。朝から市民による大規模なデモが発生しております。」

「何だと!そのくらいの規模だ!」

「千人は下らないとのことです。」

「とにかく警戒を怠るな。しかし、暴徒化しない限りは手出しするなよ。」

「はっ!」


「これは由々しきことですぞ。」

「こうなったら、いつ暴徒と化してもおかしくない。」

「一時的にでも、配給量を増やすべきでは。」

「本格的な冬はまだこれからだ。それに、デモ参加者は配給が必要ないということだろう。結構なことでは無いか。」

「陛下、アーヴィング公爵様がお目通りを願っておりますが、いかがいたしましょう。」

「良い。通せ。」


 会議の途中ではあるが、公爵が通される。

「よくぞ帰って参った。して、首尾はいかがであったか。」

「はい。正直、大変厳しいという印象でございました。」

「こちらの話を聞く耳は持っておったか?」

「はい。全く無い訳では無いでしょうが、かなり厳しい条件を突きつけられました。」

「具体的には?」

「はい。聖女様と辺境伯家の名誉回復、陛下の謝罪と公表、王族に準じた賠償、レイア嬢に今後一切干渉しないことと、次代の聖女にも不当な処分を下さないことでございます。」

「随分欲張ったな。」

「ええ。しかし、彼奴に妥協の気配は一切ございません。」

「それはちと不味いな。宰相、いかがする。」


「聖女様の国外追放は教会の罪であり、辺境伯家に責は無いというのが王家の解釈ですが。」

「宰相殿。それはいささか屁理屈が過ぎるのでは?聖女様が辺境伯家のご令嬢というのは子供でも知っている事実ですぞ?」

「確かに、それではあのエリオット殿が納得する訳はありませんな。」

「しかし、聖女に何の咎も無いというのは、先の裁可の否定だ。王としてそれを認めることはできん。」

「では、交渉はできぬとお考え下さい。」

「そこまでなのか。」

「子を持つ親なら、普通はそうでございます。」

「こんな手は使いたくないが、軍を動かして交渉を取り付けるのはどうだ?」

「食料が足りぬ時に、軍を動かして民の支持が得られると?」

「それこそ、ロナスやジッダルの思うつぼでございます。」


「やはりダメか。追い詰められたからといって、短絡的な考えに陥ってはいかんな。しかし、将来的にはそのような者を国境警備の任に就かせておく訳にはいかんな。」

「エリオット卿は、このような状況にあっても、ロナスとの国境警備こそ、辺境伯の勤めと申しておりましたぞ。その意味で、卿ほど適任はおりますまい。」

「厄介だな。」

 王の播いた種だ、とは誰も言わない。


「北部はまだ、水も食料も余裕があるのだな。」

「はい。そのように承知しております。」

「険悪な雰囲気ではあるが、事は急を要する。辺境伯に食料の供給を命令せよ。」

「応じるでしょうか。」

「それとこれとは別だ。王国に忠誠を誓う者なら、当然応じるであろう。」

「多少、強引が過ぎるとは思いますが、使者を送ってみましょう。」


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