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配給と民の困惑

 私の名はオリバー・マンスール。

 レジアスの城内と都の治安を守る近衛騎士団を率いている。


 本日の任務は軍の備蓄庫から供出された食料の配給である。

 配給場所までの輸送と市民への配布は軍が直接行うが、周辺の警備などは騎士団も協力する必要がある。


「中央広場ほか、市内5箇所の配布場所は、全て滞り無く準備が完了したとのことです。」

「了解した。では、市民が混乱しないよう、我々も警備を行う。」

「はっ!」


 我々近衛騎士団にとって、警備はよくある業務である。

 王族の視察のみならず、祭りや新年などの警戒警備はむしろお手の物と言って良い。

 まあ、食料の配給なんて前代未聞なのだが・・・


 どうせいつもの警備だろうと高をくくっていると。

「おいっ!これは一食分なのか?」

「じゃあ、夕食時にもまた、この行列に並ぶのかい?」

「おい、割り込むんじゃねえよっ!」

「何だと!てめえが割り込んで来たんじゃねえかっ!」

 早速揉め事である。これだから庶民は・・・


「皆きちんと整列しろ。馬鹿者!女子供を力で押しのけるな!」

「おいお前、列に並ぶのは一回だけだぞ!」

「何言ってんだ!こんなの一日に何回も並ぶほど、俺たちゃ暇じゃねえんだ!」

「何を言っているのだ。一日一回だ。」

「えっ?!」

「えって何だ?」

「いや・・・これが一日分なのか?」

 確かに少ないとは思うが、陸軍からは一日分が配給されると聞いている。

 だいたい、王都の全市民に一日二回配布する能力など、この人数の兵士にあるはずがないし、並ぶ市民の顔も覚えられない。


「いや、うちは7人家族だぞ?」

「それをいちいち証明できないだろう。」

「じゃあ、家族全員並ばないといけないのかい?」

「いや、バラバラに並んでそれぞれ配給を受けた方が多くもらえるんじゃないのか?」

「馬鹿な事を言うな。不正は許さん!」

 たちまちのうちに、現場は統制が効かなくなり、混乱し始める。


「団長、いかがいたしましょう。」

「家族が何人居るか、証明書を発行すべきだろうが、それは騎士団の役割では無いしな。」

「しかし、軍の仕事でも無いと思います。」

「ここに役人は一人も居ない。」

「我々に丸投げでしたね。」

「それは内務部に伝えるとして、我々はこの混乱を鎮めなければな。」

 我々は民衆に落ち着くよう促し、暴れる者は拘束し、連行を始める。

 連行されると食料が手に入らないので、一旦は落ち着くが、これではとても人数が足りない。


「軍に追加の派遣要請をした方がよろしいのではないでしょうか。」

「そうだな。団員だけではとても手が足りん。」

「全く、役人はいつもいい加減で段取りが悪い!」

 確かにそのとおりではあるが、王都民全戸の家族証明書発行が可能なほど、役人も余裕がある訳ではないことはさすがに理解できる。

 まあ、その不満のはけ口が我々なのは納得できんが・・・


「それにしても、役人が並んでないのは何故なんだ?」

「そりゃあ、いつものアレさ。」

「どうせ、お偉方は腹一杯食ってるんだろうよ!」

 断じて言うが、そんなことは無い。


「自分たちで勝手に聖女様を追い出しておいて、割を食うのはいつも俺たちだ。」

「そうだそうだ。もう我慢できねえっ!」

「暴れるな。鎮まれ!」

「騎士様だって、毎日たらふく食ってんだろう?」

「いいよなあ。食う物食って、偉そうに上から押さえつけときゃいいんだもんな。」

「それとこれは関係無い。騒ぐな、大人しくしろ。」


 もうあちこちで掴みかかる市民と、それを抑える団員の姿が見える。

 これは早晩爆発するな、と暗鬱な気持ちにならざるを得ない。


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