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辺境伯との交渉

「旦那様、ただ今関所にアーヴィング公爵様が来訪され、面会を求めてきているという連絡がまいりましたが、いかがなさいましょう。」

「お帰り願おう。」

「よろしいのですか?相手はこれまで懇意にしていただいた公爵様でございますが。」


「今さらだな。これまで門前払いしてきた陛下の使いだって、それなりに高位の者だったではないか。」

「それはそうでございますが、さすがに相手が相手だけに、無下にする訳には行かないかと。」

「相手は公爵だ。会えばある程度の妥協をせざるを得なくなる。」

「確かに、あの御仁は先の戦においても、こちらに有利な講和条件を引き出したほどの御仁ではございますが。」

「心配いたすな。非は向こうにある。」


 エリオットには、このまま王宮の意向を無視し続けても十分に勝算があると踏んでいる。

 しかし、相手が一流の交渉人となれば話は別だ。

 下手な言質も取られたくない。


「ならば、私が直接出向き、その旨を伝えて参りましょう。」

 家令チャーリー・ダウニングは現地にて公爵に会い、直接断りを入れた。

 公爵は一旦都に帰ったが、すぐに戻って来た。


「さすがだな。こちらが公爵を何度も撥ね除けられるほどの身分で無い事を計算した上での行動だな。」

「はい。公爵様に対して個人的な遺恨はございませんので。」

「やむを得んな。だが、譲歩はしない。」

「畏まりました。」

 こうしてあの騒動から半年ぶりに、国王側と辺境伯家の交渉が行われる。


「久しぶりであるな、エリオット卿。会うことが出来て嬉しく思うぞ。」

「こちらとしましては、できればお会いせずに済むなら、そうしたかったのですがな。」

「気持ちは分かるが、今の状況が続くことは、誰の利にもならん。」

「恐れながら、私は利で動いている訳ではございません。」

「分かっている。感情が抑えきれなくなることは誰にでもあることだ。」

「まあ、そういうことにしておきましょう。それで、ご用の向きは?」


「うむ。陛下から、そちが和解に応じる条件を聞き出してこいとのことでな。」

「陛下は聞かねば分からぬほど、愚昧では無かったと存じ上げておりますが。」

「不敬だぞ、エリオット。」

「しかし、公爵様も子を持つ親なら、お分かりのことでしょう。」

「気持ちは十分に理解する。しかし、国を安寧に導く責任ある立場ともなれば、無念を飲み込むこともある。」

 正直、エリオットにしてみれば、陛下と娘を天秤に掛けて、陛下の方が重くなることは生涯一度も無いだろうと思っている。


「私が無念を飲み込むのは、辺境伯としての責務のみ。ロナスが攻め込んで来るなら、命を賭けて国を守りますが、今回の事は、私の職責の範疇外のこと。謝罪無き相手に妥協はありませんぞ。」

「謝罪ならすぐにするよう、陛下に進言する。」

「そして、娘に罪が無かった事を認め、これを他国を含めて公表すること。慰謝料は王族に準じた額とすること。今後一切、娘に干渉しないこと。次代の聖女にかような扱いをせぬこと」

「おいおいエリオット。あまりに条件が多いのではないか?」

「それだけの事はしたと思いますぞ。それにこの半年、当家は不当に汚名を着せられたままになっておるから、利息も付いておりますな。」

「しかし、過大な要求は事をし損じますぞ。」

「それは陛下の側でございますな。当方は一向に困りませぬ。」


「陛下に伝えはするが、あまり無茶を申すでないぞ。」

「こちらも娘を再び教会の思い通りにさせるつもりは無いが、それでも偽聖女と罵ったことについては撤回してもらいますぞ。」

「それも伝えよう。しかし、そこは陛下の方針の根幹を成す部分だ。」

「だいたい、王家の都合で婚約しておいて一方的に捨てるなど、平民でもそんな下劣なことはしないでしょう。」

「まあ、それはここだけの話としておく。言葉にはくれぐれも気を付けよ。」

「どうせ凶作だから焦って和解に動いたのでしょう。そういうところも誠意に欠ける。」

「遅くなった事は事実であるが、決して卿の考えるような理由では無い。こういうことは調整に時間を要するものだ。」

「そうですな。水の無い川に堤防を築く方が重要ですものな。」

「お怒りはごもっとも。しかし、そう意固地になって良い事など何もないぞ。」


「どうやら陛下は言わねば伝わらぬようですからな。腹が立つなら素直に立てるべきかと思いましてな。ちなみに、妥協をするつもりは一切ないので、交渉は今回限りとさせていただく。後は陛下の誠意を見せていただくまで。」

 辺境伯の頑なな態度に、さすがの公爵も一度、退いた方が良いと判断する。


「分かった。陛下にはその旨伝えよう。沙汰を待ち、これ以上事態が深刻化せぬよう自重せよ。」

「了解しました。」


「何とか無事にやり過ごせましたな。それにしても、公爵様が冷静な方で本当に良かった。」

「ああ。他の者ならそのまま戦になっていても不思議では無かったな。今の政府ではほぼ唯一の良心であり、陛下が信頼を置く一番の臣ではあるが、今回は人選を誤ったとも言える。」

「そう言える旦那様が頼もしく、大変心配でございます。」


「それで、都の状況はどうなのだ?」

「ええ。水も食料も危機的状況で、軍糧食を切り崩して配給を始めるようでございます。」

「つくづく、我が領地は恵まれているよ。」

「しかし、領内の商人の中には、都で大儲けしている者もいるそうで。」

「商人たちに伝えよ。こちらの領民を飢えさせたら承知せぬと。」

「畏まりました。」


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