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収穫祭

「枢機卿様、今年の収穫祭はいかがなさいましょう。」

「収穫は絶望的じゃからな。前代未聞の祭りとなろう。」

「しかし、信徒に祭りを行う余裕はございませんし、寄付も集まっておりません。」

「祭りという形式は取りやめるべきでは?」

「400年以上続く伝統行事だぞ?」

「聖女様不在など、それこそ前代未聞でございます。」

「単なる空白期間なら、例はいくらでもあったが。」

「むしろ、この状況を利用すべきでございます。」

「どうやって・・・」


「聖女様を失い、女神の加護を失った哀れな教会と信徒。そういった演出をするほかございますまい。」

「それこそ騎士団や軍に潰されるのでは?」

「やれるものならやってみれば良い。」

「確かに、こちらに同調する市民は多いでしょうな。」

「いや、それはやると見せかけるから効果があるもので、本当にやってしまったら王家も教会も引っ込みが着かなくなりますぞ。」


「しかし、ここで引き下がってはファルマンと同じでは無いか!」

「それに、収穫祭の中止など、二十年戦争当時でも無かったことでございます。」

「やるしか無いのう。」

「そうですな。少なくとも来年の実りは祈らなければなりません。」

「聖女様がおらぬが・・・」

「それは教会の責任では無い。」

「その線で進めよう。」


「しかし、騎士団や軍が強制的に祭りの排除を行うと、我々にはどうしようもない。」

「聖騎士団はせいぜい500がいいところだからな。」

「しかし、向こうが力に訴えてくるなら好都合とも言えますぞ。」

「その際は最早、手加減は無用でございます。聖女追放の糾弾を堂々とやれば良い。」

「それで、我々の身の安全は保証されるのか?」

「だから、それではファルマン様と同じだと言うておろう。」


 教会幹部の中でも、強硬派と腹の据わらない者がいるが、双方とも何もしなければじり貧なのは分かっているため、収穫祭を例年通りの規模で行うこととした。

 そして、聖女不在の祈りは、枢機卿や大司教たちが代理で行うこととなった。



 すっかり秋めいた9月下旬、王都レヴフォートを始めとした各地で収穫祭が行われた。

 例年なら収穫作業の真っ最中であり、時期的にも祭りには早いのだが、今年は収穫が絶望的な状況であり、いつ実施してもさして変わりないのだ。


 むしろ、失地回復したい教会側は、できる限り早期に祭りを開催し、その力が健在であることをアピールしたいという狙いがある。


 王都では、セントラルワース大聖堂前広場に大規模な祭壇が組まれ、信徒によるパレードや出店のスペースも例年通りの規模で開催された。


 さすがに出店は少ないが、参加者は例年通りかむしろ多い。

 困った時の神頼みか、はたまた王家への不満からかは不明だが、教会の狙いは当たったと言えよう。


 枢機卿ヴァージル・スレイドが聖女に変わって祈りを捧げる。

 彼に合わせて多くの信徒も祈りを捧げる。

 例年以上に静かで、真剣な祈りだ。

 そして、長い祈りの後、ヴァージルは群衆の方に向き直る。


「皆の者。今年は異例の収穫祭となった。聖女はおらず、収穫は無く、人は聖俗問わず塗炭の苦しみを味わっておる。これは、決して神がお与えになった試練ではなく、聖女を蔑ろにした神罰である。」

 聴衆は、いきなりのショッキングな宣言に、一気に緊張を高める。


「では、何故そうなったのか。誰のせいなのか。これは最初から明らかである。」

 徐々に群衆にも熱が入ってきたように思える。


「私の祈りが神に通じたかどうかは定かでは無いが、我々聖職者は最善を尽くしておる。では、罪無き信徒は何をすべきか。多くは語らぬが、よくよく考えるべきである。」

 ヴァージルは聴衆を一瞥する。


「教会は負けぬ。信徒は団結せよ。そして、安寧を取り戻すために立ち上がれ!」

 そう言うと、彼は祭壇を降り、群衆に手を振りながら大聖堂に入って行く。

 その後は純粋な祭りの始まりである。


 王都の目抜き通りを仮装行列が練り歩き、広場ではダンスが始まる。

 ただ、例年なら行われる水の掛け合いや卵の投げ合いは行われない。それでも、鬱憤晴らしなのか、多くの市民が騒いでいる。


「上手く行きましたかな?」

「取りあえず、民衆は教会の言い分に理があると考え始めておるというのが、正直なところじゃ。」

「ええ。つい数ヶ月前はかなり旗色が悪かったことを考えれば、良い風向きですな。」

「だが、政府が食糧支援を行う以上、我らが動くのは時期尚早よ。」

「そうですな。冬の厳しい時期なら、より勝算があるかも知れませんな。」

「新年の例祭かな?」

「ええ、頃合いとしてもよろしいのでは無いでしょうか。」


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