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窮余の策

 その頃ルシアンは、先頃立てた緊急対策を次々に実行し始めていた。


 まず、商人に対する売り惜しみを防止するために、商業ギルドに対して各商人が保有する穀物などの在庫量を調べるよう指示し、同時に国内数カ所の備蓄庫から食料を供出した。


 元々豊かで凶作と無縁なレジアスにおいて、食料の備蓄は軍用しかないが、ロナスやジッダルに対抗するため、かなり強大な軍事力を保有しており、その兵糧の備蓄量もかなりのものである。

 これを供出すれば来年夏までは何とか持ちこたえられるだろうが、凶作である以上、兵士たちの食料も軍備蓄から賄う必要がある。


 兵士の食糧事情が著しく悪化することは容易に想像が付く状況であり、国王への反発も予想される。

 このため、軍の維持や隣国に備えた供出計画とする必要がある。


 それでも、野菜や肉まで危機的状況に陥った場合の対策については想像すらできない。


 そこでルシアンは、第一次供出ラインとして、備蓄量の3割を上限とし、しかも月割りで計画的に出すように命じた。


 そして、他国からの食料輸入であるが、こちらは上手くいっていない。

 理由は簡単で、これまでレジアスは食料輸出国だったのだ。

 このため、輸入のための販路を持っておらず、輸送力も脆弱である。

 唯一、ジッダル王国は容易に輸送が可能な国であるが、ここは半砂漠の国であり、とてもこちらに輸出できる余力はない。

 ヴォルクウェインは海路しかないし、ロナスは唯一の街道をハースティング家が封鎖している。


 灌漑水路やため池、井戸の掘削も奨励は宣言したものの、具体の動きには繋がっていない。

 ただでさえ炎天下の労働は捗らないのである。

 しかも、誰も豊かな農地を供出したがらず、建設予定箇所すら決まらない場所が多いようだ。

 まあ、できたとしても、肝心の雨が降らなければ何の意味も持たないが・・・


 このような中で影響が無いのは漁業と製塩だけである。


「しかし、困りましたなあ。」

「正直、打てる手があまりに限られている。」

「飼料を含む全ての農作物ですからなあ。」

「ああ、地方によっては家畜を積極的に潰し始める所も出てきた。」

「ええ、家畜は人の何倍も食料が必要ですからな。」

「飼料に手を付けることもあり得るな。」

「はい。貧しい者は間違い無くそうするでしょう。」

「これは婚約者をナターシャ王女に変更することも考えねばな。」

「サリー王国の支援を仰ぎますか。」

「もちろん、その周辺国も含めてだ。とにかく量を確保して、民を安心させねばならん。」

「しかし、サリーにしてもロナス経由となります。」

「辺境伯か。」

「はい。現在、隣領のカース子爵領との街道は封鎖されておりませんが、王都の街道に比べると道幅も狭く、距離も長いです。」


「しかし、封鎖はされていないのだろう?」

「王都を出入りする荷については、かなり厳重なチェックが行われているとのことです。」

「通関は地元商人にさせ、カーク領で積み替えれば良い。それなら影響は抑えられる。」

「畏まりました。」


「それで、民はどうなっている。」

「ええ、民はもちろん動揺しているでしょうが、それは水が不足していることに起因したものでございます。」

「そうか。しかし、それが聖女不在と結びつくのは時間の問題だ。」

「その怒りの矛先は、容易に王家に向かってくる性質のものでございます。」

「それに教会が乗ってくると不味いことになる。」

「教会は手ぐすね引いて待っていることでしょうが、彼らは王家、いや、軍の力を恐れておりますので、軍部が忠誠を誓っているうちは何とか大丈夫でしょう。」

「しかし、裏では既に動いている。」

「何か罪をでっち上げて幹部を捕縛してしまうのが良いかと。」

「民をみだりに扇動したる罪が最も良さそうだな。」

「しかし、宗教は弾圧に対して強いという性質を持ちます。十分にお気を付け下さい。」

「ああ。反乱を起こさなければ、それでいいのだ。それなら教会幹部の身柄を拘束すればいいだけだ。決して一般の信徒に手を出す訳では無い。」


「後は弟とグレッグの一派だな。」

「こちらも軍をいかに繋ぎ止めるかが鍵になります。」

「いざとなれば教会同様、奴らの息の根を止めることも考えなくてはな。」

「はい。国の安定のためであれば、やむを得ない措置でしょう。」

「本当は慈悲深い名君を目指していたのだがな。」

「まだ陛下の御代は長うございます。挽回の機会は幾らでもあるかと。」


 こんな解決法しか思い浮かばないことに苛立ちと失望を感じながら、ルシアンはソファに身体を沈め、目を閉じる。


「ナターシャ王女との婚約を正式に進めよ。」

 ようやく出たのはその一言だけだった。


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