レイア、再びの婚約
ガレ枢機卿がレジアスに向かった翌日、レイアは最近の日課になっている庭の草むしりをしている。
「しかし、暑いのに聖女様自ら農婦のようなことをせずとも良いのでは?」
「陛下もお付きの方も、中でお休みいただければ良かったのですが。」
「いえ、私も好きでこうさせていただいておりますので。ご迷惑でしたか?」
「いえ、とんでもございません。大変申し訳なく感じております。」
そう。最近はジュスタールが一日置きくらいにやってくる。
そして、共に草を抜き始めるが、護衛もすでに慣れたものである。
いかに小国とはいえ、国王なのだが・・・
「聖女様こそ、日に焼けてしまわれますぞ。」
「そうでございますね。でも、これも神の恵みでございます。」
「確かにおっしゃるとおりですね。この地の夏は毎日よく晴れておりますので、ありがたみという意味では無頓着なのかもしれませんね。」
「とてもカラッとして良い日差しだと思います。」
「ええ。例年だと多少埃っぽいのですが、今年は雨が多く、潤いもありますし、太陽の恵みを実感もします。」
「やはり、例年とは違うのですね。」
「ええ。そして、それは恐らく聖女様のお陰であろうと考えております。」
「まだそうと決まった訳ではございませんよ。」
「良いのです。私はそう確信していますから。」
「でも、そう考えることは危険も孕んでおります。」
「私はそんなことで聖女様を国外に追放などいたしませんよ。」
「ありがとうございます。偽聖女などと呼ばれ、正直なところ、とても気持ちが沈んでおりました。でも、この国に来てからは穏やかな気持ちでお勤めに専念できております。」
「この国が聖女様にとって安住の地になって欲しいと心から願っております。」
「大変有り難く、光栄にございます。」
「それで、その・・・」
草を抜いていたジュスタールの手が止まる。
「聖女様は以前、レジアス国王とご婚約されていたのですが、もうご結婚などお考えにはならないのでしょうか?」
「そうですね。今はここの教会に居候している身ですし、私を伴侶に選んで下さる方がいるとはとても思えませんので、このままでも致し方ないことと考えております。」
「もし、よろしければ、私などいかがでしょう?」
「陛下が、私に?」
「ええ、まあ、草むしりしながらする話では無いでしょうが、私でよろしければ。私は是非にお願いしたいと考えております。」
「それは・・・」
「もちろん、無理強いをするつもりはありませんし、返答はいつでも結構です。ただ、私の気持ちをご承知置きの上、いつかはお返事いただきたいと思います。」
「大変光栄なお話と存じます。でも、私などでよろしいのでしょうか。特にヤースとの関係は慎重を期すべきと考えます。」
「それは大丈夫でしょう。同じ神を信じる者同士、むしろ仲良くやれないようでは困ります。」
「そうですか・・・それではもし、陛下のご都合が悪くなった時にはいつでも破棄しても構いませんので、よろしくお願いします。」
「どんな困難があろうとも、どこかの王のように破棄はいたしませんよ。」
「ありがとうございます。陛下の御心のままに・・・」
「良かった。断られると思いましたので。」
「私の立場でそのようなことはいたしません。それに、とても温かいお人柄であることは以前から感じておりましたし、これからのことにはなりますが、陛下をお慕いし、信頼を得るように最大限努めます。」
「そんなに固くならないで下さい。私は王と言っても、吹けば飛ぶような小国の主に過ぎません。きっと聖女様のご実家ほどの力も持っておりません。」
「そのようなことはございませんよ。それに、とても尊敬できる方とこれから共に歩めるのであれば、とても嬉しい事でございます。」
「良かった。いやあ、今日は人生最高の日だ。」
「そうなのですね・・・」
「もちろん、聖女様と共に暮らしていけば、今日以上が沢山あるのでしょうが。」
「それはその・・・ありがとうございます。」
「しかし、王族でなくても草をむしりしながらプロポーズした人はいないでしょう。」
「そうですね。でも、だからこそ、とても嬉しいです。」
「ありがとうございます。本当はお食事しながらとか、もっとロマンティックな演出はあったのでしょうが、何分、そのような照れくさいことはできない性分でして・・・」
「いいえ。陛下の今のお顔が全てでございます。とても嬉しいです。」
「今日こそ言おう、いや、次こそ言おうとここ最近ずっと悩み、やっと決心してここに来たんです。実は昨日、緊張してあまり寝られなかったんですよ。」
「まあ!それは炎天下で草むしりしている場合ではございません。」
「いや、身体を動かしながらで無いと緊張してとても言えませんでしたし、今は身体でも動かしていないと喜びを抑えきれません。ちなみに、照れ隠しも兼ねています。」
「それは・・・私も同じですわ。」
向こうではエルマーやベティ、近衛たちが手を打って喜んでいる。
夏の日差しと庭の緑が眩しい昼下がり。




