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ジュスタールの想い

「陛下、最近はご機嫌なようで。」

「叔父上こそ、本日もご機嫌ですね。」

 ここはヴォルクウェイン城のテラス。


 朝食を終えたジュスタールは眼下に広がるポルテンの町とその向こうの海を眺めている。

 そして傍らに居るのは彼の叔父のファンバステン。

 先代の弟であり、若くして王位を継いだ甥の摂政を務めている。


「ええ、最近は穏やかで平和な日々が続いておりますから。」

「それに、朝露に濡れる庭園やいつもの三割増しに輝く町を見ると、本当に清々しい気持ちになります。」

「そうですな。この時期の町は埃っぽいのが普通ですから。」

「これも聖女様のお陰かな。」

「少なくとも、陛下のお顔が明るい理由の一番は聖女様のお陰でしょう。」

「分かるか?」

「陛下が生まれて以来の付き合いですぞ。」


「25年か。」

「もうそろそろ身を固めていただかなくてはなりません。」

「別に王位などポールに譲っても良いのだがなあ。」

「殿下は私の養子になりたがっておりますが・・・」

「あれも自由人だからなあ。」

「ですので、陛下しかおりません。そして、お歳から考えても、そろそろ本気でお考えいただかなくては、無用な混乱を招くことになります。」

「サルマンでも・・・」

「あれは私の跡継ぎです。」

「しかし、ロナスに留学して2年か。」

「よほど向こうの生活が良いのか、全く帰って来る気配がございません。どうしてうちの王族はこんなに自由人が多いのでしょう。」

「まともに仕事しているのが私と叔父上だけだからなあ。」

「それで何とかなっているから良いものの、だからこそ陛下の婚約者探しは大切なのです。」

「ああ、それは分かってはいるのだが。」


「聖女様ではダメなのですか?」

「叔父上、逆に聖女様で良いのか?」

「よろしいではございませんか。ヤースの教会や信徒も多少は騒ぐでしょうが、破門はされますまい。レジアスの王女を娶った国だってあるのですから。」

「そうだな。あそこの王族は聖女の血筋だものな。」

「それに、護衛の兵から聞きましたが、陛下と奇跡を起こされたとか。」

「うん。まあ、私はたまたまそこにいただけだと想うが。」


「それで、どうなのですか?」

「大変良い方だな。人柄も良く、聡明で、上品で。」

「なら、よろしいではございませんか。」

「ただな。私では・・・」

「何をおっしゃいますか。一国の王ですぞ。」

「この年まで婚約者の一人もいなかったのだぞ。それに、この見てくれでは相手があまりに可哀相ではないか。」

「婚約者が今までいなかったのは、陛下がそうやって避けていたからにございます。陛下さえその気であったなら、とっくにお世継ぎが出来ていたはずです。」

「でもなあ。女性といると緊張してな。特に聖女様のような見目麗しい方だと緊張して口から胃が出てきそうになる。」

「本当に誰に似てしまったのやら。しかし、レジアスにおいて聖女は王族に嫁ぐもののようですぞ。」

「そうであったな。」


「未婚の王族はすでに陛下しかおりません。」

「サルマンがいるぞ。」

「あれはロナスで良いご令嬢を捕まえるでしょう。それとも、陛下は聖女様がお嫌なのですか?」

「いやいや、あれほどの女性、探して見つかるものではないぞ。」

「ならば。」

「そ、それはそうなのだが。やはり私などでは・・・」

「もし、陛下から言いづらいのであれば、私から伝えてもよろしいのですが。」

「いや、待ってくれ。それはその、少々不誠実ではないかなあ。」

「はい。不誠実でございますが何か?」

「叔父上、もう少し、この、お手柔らかにはならないのか?」

「では、他に心に決めたご令嬢がおられるので?」

「それはおらぬ。」

「ならば良いではございませぬか。」

「しかし、聖女様の都合もあろう。」

「婚約破棄の上、国外追放されたのですぞ。都合など、あるはずがございません。」

「確かに、言われてみればそうだな。」


「ですので、気持ちは早めにお伝えした方が良いと存じます。」

「受けてくれるかのう・・・」

「一国の王が何と情けない。」

「分かった。もう少し時間をもらえんかな。」

「承知いたしました。しかし、これは非常に良い機会でございます。くれぐれも逃さぬよう、お願いしますぞ。」


 夏の日差しは強さを増し、遠くの海を輝かせている。 


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