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法の下の平等

 同じ頃、ルシアンは執務室で騎士団長からレイア退去の報告を受けていた。


「では、レイアは南に向かったのだな。」

「はい。追跡はしておりますが、今は南部街道に入ったとしか。」

「では、ダレンから船ですかな。」

「恐らく、そのまま東に行くものと思われます。」

「そうか。ご苦労であった。下がってよい。」

「はっ。」


「宰相も夜遅くまでご苦労であった。下がってよい。」

「はっ。しかし、その前に一つ、よろしいですかな。」

「良いぞ。申して見よ。」

「何故、あのような苛烈な罪状を申し渡したのでございましょう。」

「国外追放か。」

「はい。」

「しかし、王家に対する不敬、虚偽の言動、民の扇動、どれを取っても斬首刑相当の罪だ。これでも情状をを酌量したものだぞ。」

「しかし、レイア嬢がそれほどの罪を負っていたかというと。」


「罪は確かにあるさ。それも死罪相当のな。しかし、我が国建国以来500年に亘って延べ23人の聖女がいた。彼女たちが誰一人罪に問われていないのに、今代の聖女のみが罪を負うというのは、法の下の平等に照らし合わせて、不合理な判断と言わざるを得ない。だから罪一等を減じ、国外追放としたのだ。」

「しかし、本人に罪を犯している認識など、無かったでしょうに。」

「宰相よ。そなたも知っておろうが、不敬や国家叛逆の罪にそのような減免の規定は存在しない。たとえ騙されていたとしても、それが王本人だったとしても、国を危急に追い込めば、それは死をもって購うほかないのだ。」

「確かに、おっしゃることはそれで合っております。しかし・・・」


「私自身、祖母が聖女であったし、あまり偉そうなことを言える立場ではないし、彼女と現に婚約まで取り交わしていた。この責任と罪は生涯負っていかなければならん。しかし、これは誰かが断ち切らねばならんことでもあるのだ。」

「陛下のお覚悟、このオランド、よく分かりました。」

「そなたにも苦労を掛ける。それに、レイアも聖女でさえなければ、王妃に相応しい女性であったことは認める。皆、この国の犠牲にしてしまって申し訳なさもあるが、政教分離と国家の近代化は必ず成し得なければならないこと。分かってくれずとも、受け入れて欲しいと願うばかりだ。」

「全ては、陛下のお心のままに。」


~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/~/


 騒動の夜は明け、すでに馬車は王都郊外を南に指して走る。


「レイア様、お疲れでしょう。少し眠られては。」

「ありがとうございます。エルマー様、しかし、いろいろあって眠れなくて・・・」

「無理もございません。あのようなことがあったばかりですから。」

「これから、この国と教会はどうなってしまうのでしょうか。」

「教会は枢機卿様がおられますので、ご心配には及びません。」

「そうですね。最早、私にはどうすることもできないことなのですね。」


「後ろの騎士、しつこいわね。」

「恐らく、我らが港を出るまで付いてくるのだろう。」

「10日以内に出国できるのでしょうか。」

「大丈夫です。レイア様もダレンには幾度もお出でになられたことがございましょう。」

「はい。3日もあれば着きますね。」

「船が離岸したら、国外に出たと見做されるはずです。」

「それならば、大丈夫ですね。」

「ええ、余裕は充分にございますが、国外追放の余波はすぐにダレンにも及ぶでしょう。早く着いて早く船に乗るのが良いでしょう。」

「そうですね。二人には苦労をかけてしまい、申し訳ございませんが、もうしばらく、よろしくお願いいたします。」

「いいえ、私共は、レイア様がヴォルクウェインに到着なされた後も、引き続きお伴させていただく所存でございます。」

「でも、それでは国に帰れなくなってしましまいます。」

「なに、私は妻に先立たれ、子供たちも皆、大人になっております。国を出ても何の後腐れもございません。」

「私も生涯お仕えするとお誓いしましたよね。どこまでも付いて行きます。」

「こんな私のために・・・本当に感謝いたします。」


「さて、そろそろ朝の祈りの時間でございますが、本日はお休みなさいますか?」

「いいえ、例え偽物であったとしても、神に仕える者として、祈りを欠かす訳にはまいりません。馬車を止めていただいてもよろしいでしょうか。」

「あまり、ご無理をなさらずとも。」

「いいえ、どうせ眠れませんし。」


 馬車は止まり、道端に跪いたレイアは、都の方に向けて祈りを捧げる。

 これは、彼女が教会に入って10年、欠かすことの無かったものだ。


 遠巻きに見ている王国の騎士も、道行く農夫も皆、彼女の祈りに見入っている。

 たとえ偽物と言われようと、彼女の祈りは本心からのものであり、王国第一と謳われた見事な所作は、つい先日まで多くの人を魅了していた姿と寸分違わない。


 彼女が祈りを捧げ、顔を上げた瞬間、雲間から朝日が光条を差し始める。

 それは、真に聖女の祈りそのものであった・・・


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