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静かなレジアス

 4月も半ばになると、レジアスは春本番を迎える。


 各地で農作業は本格化し、街も活気づく。

 そして、人々は忙しさの中で、それまでの騒動の記憶と戒厳令の緊張は薄れ、上書きされていく・・・


「春の農作業も滞り無く始まったようだな。」

「はい。民の暮らしに特段の変化はございません。」

「街もいつもの風景に戻りつつある。」

「どうやら民は落ち着いて来たようですな。」

「そうだな。彼らにとっては日々の暮らしこそが重要だ。2ヶ月何も起こらないなら、人心は落ち着いてくる。人の噂も何とかだ。」

「そうでございますな。ただ、そうは行かないのが教会と諸侯、そして辺境伯でございます。」

「そうだな。辺境伯は諦めた方がいいな。」

「放っておくのですか?」

「これまで何一つコンタクトを取ってこないということは、こちらに歩み寄る意思がそもそも無いのだろう。関係改善など労力の無駄だ。歯向かえば叩くが、現状のままなら放っておけば良い。」

「陛下が謝意を示せば変わると思いますが。」

「謝る理由が無いからな。まあ、ハースティングはとばっちりを食らっただけだから、気の毒ではあるが、娘を聖女などに差し出したのが不運だったと諦めてもらうほかない。」


「教会はいかがいたしますか?」

「先頃の糾弾に対して、まだ回答が無いな。」

「はい。教会としては引くに引けない状況でございましょう。」

「では、教会が再発防止を打ち出すまで、戒厳令を継続する。これを民に広く周知せよ。」

「畏まりました。」


「後は弟に近付くネズミたちだが。」

「はい。壁の裏や床下でゴソゴソ蠢いているようですな。」

「教会とは繋がっているか?」

「頻繁に会ってはいるようですが、なかなか尻尾は掴めませんな。」

「引き続き、見張りは厳重にな。」

「はい。畏まりました。」


「それは良いのだが、新たな政策の評判はどうだ?」

「はい。担当者は顔を青くしておりましたが、コストを大幅に圧縮したまま事業は始まっております。」

「宮中の食事も少しだが質素になったからな。」

「しかし、公共事業はコストは前年の8割、事業量は2割増しとなれば、かなり厳しい事業運営にならざるを得ませんが。」

「必ずできるさ。それだけ不正が多かったと見ている。今回の公共事業改革の目玉は人件費と下請け比率の限度を据え置き、間接費の節減と材料費の市場価格導入による部分でコストカットを図る案だ。これなら下請けや民に負担はかからん。」

「つまり、間接費と材料費に不正があると見ているのですな。」

「ああ、役人も事業者も双方不正に手を染めているな。」

「まずは、これからの経過を見守ることでございますな。」


「それと、農作物の品種改良と商人の販売独占事業の段階的廃止も進める。」

「ギルドの解体ですか。」

「いや、そこまではせんが、新規参入要件の緩和とギルドの価格決定権の破棄だ。価格はそれぞれが自由裁量で決められるようにする。それと、ギルドが各事業体に割り当てている生産量も自由にさせる。」

「価格が低下しますな。」

「それと、粗悪品が淘汰される。」

「なるほど、しかし、ギルドにとっては劇薬でございますな。」

「しかし、民の支持はこちらに集まる。」

「そうでございましょうな。」


「それと、教会への支出は止めておるな。」

「はい。一切の補助や支出を止めております。」

「教会を政治から遠ざけるためには必要な措置だ。それに、彼奴らは余計な力を持ちすぎている。」

「しかし、一度に多くの敵を作ることになります。」

「なに、上手くやるさ。それに反対しづらい分野ばかりだろう?」

「はい。しかも、効果が比較的早く見えるものばかりではございます。しかし、急な変化は激しい反発も生みます。くれぐれもご注意を。」


 こうして戒厳令が継続され、軍が民衆を押さえつけている間に、ルシアンは次々と新機軸を打ち出していく。

 もちろん、これに反発する者は多く、それは王の敵になり得る者達ではあるが、強大な軍事力を目の前で展開している王に対して面と向かって刃向かえる者などいない。


 こうして、国の改革は静かに、しかし急激に進んでいく。


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