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聖女の日課

 ここ、ヴォルクウェインに来ておよそ一月になりました。

 幸いな事に良き方に恵まれて、つつがなく暮らしております。


 私たち三人は、ヴォルクウェイン語を話すことは出来ませんが、教典の原典がレジアス語のため、教会の方はレジアス語を使えます。お陰で日々の生活に支障はございません。


 私はお城での教育でロナス語は話せますし、実家の皆も、ロナスに接した地域を領地にしているため、ロナスの話者ですが、ヴォルクウェインやジッダルのような小国の言語は履修の対象に入っていなかったのです。


 ですので、日々のお勤めや仕事の合間に、ヴォルクウェイン語の練習を三人で行っておりますが、みんなでやると、勉強も楽しいものですね。


 お勤めはこれまでどおり、日に三回、日の出、正午、日没時に太陽神にお祈りをしております。

 それ以外の時間は、教会の清掃や慈善活動のお手伝いなどを行い、休みの日には教会で安息の祈りと呼ばれるミサを行っております。


 これは、一般の信徒の方とともに祈りを捧げるものですが、皆さん、私が聖女であることはご存じのようです。

 それは彼らの私に話しかけて下さる時の様子や、握手を求める仕草などで伝わって来ます。こういうところは、レジアスと同じなのですね。


 ただ、信徒の数は、この国の約1割と聞いておりましたが、教会に集まる人数を考えると、それほどはいないようですし、教会自体、国内に6箇所しかないとのことでした。

 そしてこの聖ボルテン教会がこの国の中心と言う割りには、15名ほどの聖職者で切り盛りしていることを考えると、やはり信徒数はかなり過大に見積もられていると思います。


 それでも、皆さんとても純朴で、真摯に神と向き合い、懸命に勤めを果たしており、そのような姿を見ておりますと、こちらまで励まされているようで、元気が出てきます。


 また、時々は助祭のオジェさんたちに市場などを案内していただき、活気ある街の風景などを楽しみ、散策させていただいております。


「どうですか?この坂から見る港の風景が、ポルテンで一番だと思うのですが。」

「はい。とても皆さん笑顔で、街の喧騒とその向こうの広々とした海、とても絵になる風景ですね。」

「ええ、南から降り注ぐ陽の光がとても眩しく、春なのに情熱的ですな。」

「はい。この国は太陽の恵みを存分に味わえる地です。欲を言えば、もう少し雨の恵みがあると作物の育ちも良いのですが。」


「雨は少ないのですね。」

「はい。レジアスに比べると半分程度しか雨が降らないと言われております。それに、このポルテンはまだ雨が降りますが、ここ以外の地方はさらに少なく、レジアス国境付近はレッセル荒地という茫々とした荒れ地でございます。」

「何とかならないのでしょうか。」

「聖女様が来られたので大丈夫、というのは都合が良すぎますでしょうか。」

「どうでしょう。さすがに自信がございませんが・・・」


「ああ、そうそう。反対側が街の中心部ですが、北の小高い丘の上に建つのが、この国の王が住むヴォルクウェイン城でございます。」


「綺麗なお城ですね。」

「恐らく、セントラルワース城の半分もないでしょうが、我が国民の自慢です。それと、つかぬことをお伺いいたしますが、国王陛下との謁見を本当になさらずともよろしかったのでございますか。」

「はい。私は偽物として国外追放となった身。そのような者が陛下に謁見など無礼極まりないことですので。それに、この国においては聖女もあまり知られていない存在です。それが証拠に、こうして街を気兼ねなく散策できております。」

「そうですね。セントラルワースではとても町中を歩くなど考えられませんでしたからね。」

「でも、レイア様は今の方がいいお顔をされていますよ。」

「まあ、エルマー様もベティも、私、そんなに不健康そうでしたか?」

「正直、レジアスではお身体をいつも心配しておりましたよ。」

「そうです。日々のお勤め、お城での勉学、手垢にまみれた貴族の相手から何でもかんでも聖女様を引っ張り出そうとする大司教、ほかにも」

「これこれベティ、それは言い過ぎです。」

「あっ、ごめんなさい。つい本音が・・・」


「みなさん、ここではそのようなことはございませんし、私たちも聖女様と毎日お勤めできて、とても光栄に思っているところなのです。私たち聖職者であっても、聖女様に会えるのは生涯に一度あるかないか。私のような助祭では叶わぬ夢ですからね。」

「そうなのですね。」

「特にヴォルクウェインは近くて遠い国ですからね。」

「起きたことは聖教にとっても、聖女様にとっても、不幸そのものでございますが、この国との出会いが、少しでも慰みになればと考えております。」

「オジェさん、ありがとうございます。私のような罪深い者がここまでつつがなく暮らしておられるのも、偏に皆様のお陰でございます。本当に感謝しております。」

「何と勿体ないお言葉でございましょう。こちらこそ、これからよろしくお願いいたします。」


 どうやら、この国で新しい生活が築けそうです。

 ここポルテンの空のような、晴れやかな気持ちで市場に向かいます。


 卿の夕餉も神に感謝していただきたいと思います。


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