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戒厳令

 聖女追放劇から一月ほど経ったある日・・・


「大変でございます陛下、街で暴動が起きております。」

「なに、それはまことか。それでどのような状況だ。」

「はい。市内の複数箇所で暴徒が発生しており、ただ今騎士団が鎮圧に当たっております。」

「では、差し当たり首都防衛軍に出動準備をさせよ。」

「軍ですか。」

「最悪の場合、戒厳令もあり得るということだ。初動が遅れてはならん。」

「はっ、畏まりました。」

「それと、今すぐ宮中伯をこれへ。」

「はい。呼んでまいります。」

 直ちに、騎士団の増派による暴動鎮圧と、都の北に常駐する首都防衛軍に待機命令が出された。


「宮中伯よ、今回の暴動に関する詳細は分かっておるのか?」

「申し訳ございません、陛下。まだ詳しくは分からないのですが、今朝方より、教会を非難するデモが西地区で発生し、これに呼応した民衆があちこちで暴動を始めたのではないかと推測されます。」

「目撃者がいるのか?」

「市中警備の任に当たっている複数の騎士団員からの情報でございます。」


「デモは教会非難で間違い無いのだな。」

「最初はそのような内容の怒号が巻き起こっていたとのことでございますが、これに同調する市民や教会を擁護する市民が現れ、収拾が付かなくなってしまったのではないかと。」

「まあ、いずれ教会には責任を取ってもらうとして、差し当たっては暴動の鎮圧と、首謀者の捕縛だな。」

「そのとおりでございます。」

「では、今日中に鎮圧ができない場合は、明日の朝、戒厳令を発動する。防衛軍のバーケット将軍にこのことを伝えよ。」

「ハッ!」


 ルシアンは窓の外を見る。

 すでに市内の複数箇所から煙が見え、騒ぎが大きいことを示している。

 普段の平穏な街とは一線を画すどこかざわついた空気が感じられる。


「宰相よ、我が臣民はこれほど容易く暴徒と化すのか?」

「不肖、この私めも、このようなことは初めてでございます。」

「そうか。これも余の不徳のいたすところか。」

「しかし、少し考えれば、このような騒ぎで得をする者など誰も居ないということはすぐに分かりましょうに・・・」

「愚民の愚民たるゆえんか?」

「若しくは、意図的に扇動、あるいは暴動と見せかけて工作を行っている者がいるのか。」

「ならば、捜査はしっかりやらねばな。」

「はい。」

「では明日、戒厳令を発動し、市内の治安維持に軍を投入する。夜間は外出禁止とし、捜査は騎士団が行う。よいな。」

「御意。」


 こうして、明朝より戒厳令の施行が決定され、暴動鎮圧と捜査の役割分担も決まった。

 

 暴動は夜になっても散発的に発生はしているものの、騎士団の奮闘により、それ以上の発展には及んでいないし、ある程度の逮捕・拘束も進んでいるようだ。


 しかし、新王即位直後の暴動は、ルシアンにとっては痛恨の失点であり、それはたとえ全ての責任を教会に押しつけたとしても変わることは無い。

 何せ、これまでは非常に政情が安定した国であり、こういった騒乱とは無縁であったからである。


「それにしても由々しき事態になりましたな。」

「そうだな。次の重臣会議を乗り切るのは難儀しそうだな。」

「いえ、臨時に開かれた方がよろしいのでは?」

「いや、当面はそれどころではないだろうし、一人づつ個別に説得していく方がいいだろう。」

「なるほど。確かに手間と時間はかかりますが、その方が説得も容易いし、下手に手を組まれる恐れもございませんな。」


 そして翌日早朝に戒厳令が施行され、市内に軍が入って治安維持活動を始めた。

 街は未だ騒然とした空気こそ残っているが、多くの兵が見張る中、下手な動きをする者は少なく、沈静化の方向に向かっているような雰囲気はある。


「とにかく、現在は小康状態を保っているようですな。」

「そうだな。これ以上の広がりが無ければそれで良い。それと、この動きが他の都市に波及せぬよう、各地の軍に出動待機を掛けよ。」

「畏まりました。」

「それと、今回の騒ぎは教会への非難が元だということを大々的に喧伝し、各地に広めよ。」

「責任追及はしないので?」

「もちろん追求はするが、実力行使するかどうかは向こうの出方次第だ。下手を打ってはならん。その代わり、各都市の目抜き、辻、街道の要所に横断幕を掲げよ。」

「ほう、それはいかがな訳で。」

「教会を直接的に叩くのは時期尚早だが、布石は打っておく必要がある。文言は”臣民よ、目覚めよ”だ。」

「ほう、信仰を捨てよという訳ですな。」

「宰相よ、そこまで言ってはならん。それと、これを教会とは無関係を装うのだ。」

「あくまで、民にそれを連想させるだけで良い。教会に聞かれたら、余が創り出す新たな世のキャッチフレーズだと答えておけばよい。」

「分かりました。そのようにいたします。」


「宮中伯ダレン・クロウリー様、到着されました。」

「良い、通せ。」

「はっ。」

 執務室に宮中伯が入ってくる。


「それで、何か分かったか。」

「はい。首謀者はまだ判明しておりませんが、目撃情報と、騒ぎを起こしていた者多数を逮捕し、取り調べを行っているところでございます。」

「それで、王家を非難している者はいたか。」

「いいえ。さすがに我が手の者に捕まって正直に白状するとは思いませんが、王家を非難している者は見当たりません。」

「そうだな。王家直属の者に捕まって王家を非難してましたなどという者はさすがにおらんだろうな。しかし、真相は究明するとして、それで良い。」

「どうせ、教会に責任を問うのですからな。」

「引き続き、捜査に全力を挙げよ。」

「御意。」

「取りあえず、このまま力で押さえ込むのが良さそうだな。」


 こうして、都の混乱は取りあえず、終息に向かうことになる。


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