094話『四国会談』
「この度は、私のわがままで御三方に集まって頂いて……本当に感謝しております」
海澪の呼び掛けで集まった新たに結束を強める、三国の代表者。
「気にするな、こんな時こそ協力せねば」
イングラテル皇国皇太子、フォルネア・ソロモン。
「全くですね……」
神聖祭冠法国、法皇代理メータル・ニクラス。法皇が来る予定だったが、体調が優れないということらしい。
「うむ、そういうことじゃな」
そして、ネアノスト共国女王アシュタルト・レストナーバだ。自分も代理を来させればよかったと、少し後悔している。
「それにしても、バハレイルの皇帝ともあろう者が……まさか当日になって来ないと言い出すのはの」
「何かあったのでしょうか、隣国故に少し心配です」
バハレイル帝国の皇帝も、来る予定だった。しかし、急に無理になった。かなり慌てている様子ではあったが、大事にはならないと思っている。
「遂に問題児が動き出そうとしています。三連の方の動きも心配です。我々も、内輪揉めしておりますし、大陸情勢はかなり不穏です」
このワリナル大陸では、まさに今何が起こってもおかしくない所まで来ている。
ギリナスア連合大国に協商連合王国。マリナ王国とマリナ自治国との対立も激しくなっている。そんな情勢でも自由なレーイルナは、未だに事態を楽観視している始末だ。
「無論、我らも見過ごす訳にはいかない。こちらも動く時には、動く覚悟がある」
「妾らも、到底戦力にはならぬが……支援は出来る」
揺れ動く世界情勢に、少しの変化が見れるとすればここだろう。共国、皇国、法国、帝国で結んでいる四国同盟。ここにスティヤや、藝華なんかが合流すればかなり強固なものになる。
「妾らの間で進めている、パーラル大陸南部を東西に割る超長距離、国際鉄道線『三国鉄道』の計画も、元はと言えば連盟に対抗する狙いじゃ」
「はい、連盟国内を東西に伸びる鉄道が開通した事を受けて、私どもが提起致しました」
「つまり、有事の際には運送が可能という事だな」
「そうゆうことじゃ。皇国の皇太子殿」
この大陸で起こり得る全ての可能性に対し、私たちは可能な限りの手を尽くした。あとは、反発を押さえ込むだけになった。
「姐さ……国王! 大変です……! 」
その時、扉が開き汗だくになった男が現れそう言った。
「何があったの」
「完全にやられました……」
***
「あのバカ……! 」
会議を中断させてもらって、私は走った。三番街らの連合街軍が、四番街を占拠。一番街に救援を要請したが、黙りを決め込んでいる。
「雨は何やっているの!? 」
「連絡がつかないもので……」
完全にやられたわね。だけど、これもちょうど良い。他国に街番の強さを見せられるのだから。
「雨! 」
一番街の街王、雨は部屋にはいなかった。雨どころか、その建物に人影は見られなかった。
「何かが……おかしい……」
ただ漠然と、何かが違う。何か大切な事を見落としているのではないか、そう思った。
「姐さん! あいつらと街番が、四番街のアリスレーベルで衝突しましたぜ! 指示を! 」
「え、えぇ……直ちに四番街を奪還し、敵軍を殲滅せよ! 」
***
「行ってしまったのぉ」
「そうですね……」
「私たちにどうしろと言うのだ。全く」
残された3人は、出された茶を啜りながら待つしか無かった。気まずい空気が充満する……
「ど、どう思いますか。例のあれ……」
そんな時、口を開いたのは法皇代理の男。
「うむ……我らとしては、その辺の動きには注視したいところである」
「やっぱり見過ごせまんよね……」
三者の共通認識である、例のあれ。かなり難しいものらしい。アシュタルト・レストナーバは、口をへの字にして考え込んでいる。
「水を差すようで悪いが、妾らは既に動いておる。妾らが誇る外務星、レイニィ・ワインデッドがな」
「あのヨルの末裔か……私も一度会ったことがある。彼なら何か……それこそ、魔王なんかにでも」
皇太子殿とも面識があるレイニィは、出発直前に女王からある命を受けていた。
それは世界にとって、或いは人間界にとって非常に需要なことになる。
「あやつらの勇者などと言うやつよりも早く、魔国と友好関係を持たなければ、これこそ世界の均衡が傾くぞ」
「それは……私からも、法皇様にお伝えしておきます」
***
「帰るとするか。あやつも帰ってこぬしな」
「了解しました」
女王の護衛で共にスティヤを訪れていた、共国軍第一師団、その師団長を務めるラキナンテル・アングラーナにそう告げると、1人で長い廊下をスタスタと歩いていった。
「女王様! 少しお待ちを……」
この師団は、別名近衛師団とも呼ばれ、いつも女王に振り回されているのだった。その為か、ラキナンテルは非常に面倒見がよく、後輩や部下からとても慕われている。
「マリナの事もあるし、国内も安定しておらんようじゃ……あやつら気がかりじゃな」
女王は遠くにある何かを眺めながら、そう呟いた。
「じゃが、妾らが出来る事なんて微塵もないのかもしれぬな」
その心の本音は誰に届くこともなく、ただ風に揺られて宙を舞った。
***
「本当に、自由奔放と言いますか……何とも憎めない御方だ」
「それは褒め言葉として受け取っておいて良いか? 法国の者」
部屋に残された二者は何をするでもなく、何となく居座っていた。
「もちろんです。今更対立する気にはなれませんよ。世界は確実にこちらに傾きつつあります」
「ふむ、そちらの主神がそう仰せならきっとそうなのだろう」
法国が国教とし、国内にその総本山である東方聖王教会を置く五神教。言わずと知れた、現人巫女なども所属する世界最大規模の宗教だ。それに対し、皇国が国教としている鬼頭祭教は規模こそ小さいものの、非常に勢いがある宗派だ。その名の通り、あの鬼頭祭神高亜君を主神として祀っている。
鬼頭祭教は、元を辿ればその五神教の宗派の1つに数えられるもので、仲は悪くは無い。暗黙のうちに、お互いに不可侵の立場をとっている、と考えるべきだろう。
「平和が何よりです」
法国の男はそう言い残し、部屋を後にした。残されたフォルネアは、しばらく動かなかった。
彼の頭の中に描き出される運命に狂いが生じたのはいつからだっただろうか。ラインアースが滅びたあの時、いやもっと前だったかもしれない。確かな事は、この世界に想定外が訪れたということだ。と、一旦そう結論付けたフォルネアは、立ち上がり伸びをしてから、私兵を呼びつけた。
「帰ろう。我がイングラテル皇国へ」




