093話『スティヤ迷走』
温泉街国スティヤ元四番街――
「やはり、少し妙ね……」
「この場所に、本当にあの四番街があったの……? 」
一番街の街王、椛葉海澪と舞泉雨は、遊郭街と呼ばれた四番街があった所に来ていた。
「姐さん、長居は危険ですぜ。そろそろ……」
「えぇ、行きましょう」
世論は海澪がすぐに次の国王になるだろう、という意見だったが……実際はかなりの苦戦を強いられている。
政敵というのか、敵対勢力である三番街と五番街がかなり根回し手回し、工作をしているらしい。
そんな折、つい先日に『四番街事変』が勃発したのだ。先程の三番街と五番街、そこに二番街も加わり、一番街と親密なこの四番街も取り込もうとしたが、四番街の街王イシュタルはそれを拒否。翌日、3つの街の連合軍による報復と言わざるを得ない軍事攻撃を受け、その姿をあまりにもあっさりと消した。
「前々から忠告はしていたんだけどね、イシュタル……」
四番街、そしてイシュタルの仇は必ず取らなければならない。その為にも、一刻も早く国王の座に就かなければならない。
場合によっては、他国に頼る必要もあると考えているし、私はそれを躊躇しない。もちろん、三連以外に頼みたいところだが……その点で言うと、イングラテル皇国とかネアノスト共国も選択肢に入るだろう。むしろ、それが最適解かもしれない。
「姐さん、着きやした。一番街でございやす」
「えぇ、ありがとう。行くわよ、雨」
「は、はい! ちょっと待って……」
私の一番の難敵は、三番街の街王であるべレーネだろう。小さい頃から何かあっては、すぐに喧嘩していたものだ。
「お久しぶりです。エラインダ公、お体はもう良いのですか? 」
私の一番の協力者であり、政界を裏で牛耳っているエラインダ公。髪は完全に真っ白で、貫禄のあるご老人といった感じの人だ。
少し前に体調を崩して、田舎の方で静養していたと聞いていたけど……何とか回復したようね。
「あぁ、海澪か……私はもう大丈夫。それよりもお前だ、すんなりとはいかんの」
「はい、三番街王のべレーネがコソコソとしているようで……」
大丈夫とは言っているが、よく咳き込んでいるし……残された時間は少ないかもしれないわね。ご存命の間に何とか、終わらせたい。
「かなり、危ない手法じゃが……お前を無理やり王位にねじ込む事も……出来なくはない」
「無理やり……そんなことが出来るのですか!? 」
無理やり王位に就かせる、確かに国民や敵対街の反発はとんでもない事になるだろう。
「もちろん、おすすめはせんが……お前に任せる。これが私の最後の大仕事になるだろうしな」
「そんなこと、言わないでください。私には、まだまだエラインダ公が必要なのです……その話、進めてください」
エラインダ公は私のその答えを聞き、やれやれと言わんばかりに深く頷いた。
「本当にお前は、誰に似たんだろうな」
***
「新国王陛下、御戴冠です」
あの運命の分かれ目の日から1ヶ月後、エラインダ公は諸貴族の反発を抑え、取り込み私を国王まで押し上げた。そして、この数日前にその生涯を閉じた。
戴冠式も無事終え、これで私の王位は揺るぎないものになった。あとは、反発してくる奴らをどうするかだ。
その前に、一番街の後継者を指名しないとな。
「一番街、新街王は舞泉雨。あなたに任せる」
「え、雨が……? いやいや、もっと他に……」
「二度も言わせないで。私は雨が良い」
「わ、分かりました……ご期待に添えるよう、頑張ります! 」
雨は本当に良い子だ。実の子のように接してきたし、そうだと思っている。一番街を任せられるのは、この子しかいない。
「新たに、六番街から十番街の設立を宣言し、既存の街の再編を命じます」
もちろん狙いは二番街、三番街、五番街の弱体化。そして、味方になる街を増やすことだ。四番街も少しずつだが、復興している。支援金を回すように手配しておこう。
「おい! これはどういうことだ、海澪! 」
「あら、そんなに怒らないで。どうしたのかしら、べレーネ」
「どうしたもこうしたも! お前、裏で何か手を回したな! 」
やはり怒ってきた、既に対抗策は考案済みなのだけれど。
「手を回したなんて……心外だわ。国民と貴族たちの支持を得ての結果でしかないわよ。コソコソとしていたのは、そちらじゃなくて? 」
そう言うと、べレーネは舌打ちを残しその場を去った。その瞳は、怒りの感情に飲まれ燃え上がっていた。
やるからには、徹底的にやらないといけないわね。べレーネだけじゃない、彼女に加担した他の街王も同罪。イシュタルの仇は私が討つわ。
新設街の街王には、信頼のおける部下達をそれぞれ配置したし、四番街の街王にはイシュタルの息子を就かせた。包囲網は完成間近、あとは時間の問題ね。
ふと気がつくと、扉の前に立つ雨の姿が目に入った。そして、ゆっくりと言ったのだ。
「何だか海澪様、前と人が変わっちゃったみたい……」
「雨……? 私のどこが変わったというの? 腹違いだけれど、実の姉が殺されたのよ? これは普通の事だと思うのだけど」
「雨は、前の海澪様の方が良い! 」
雨の言葉に、私は自覚した。確かに、以前の自分ではない。しかし今の自分が、自分じゃないかと言われればそれは違う。むしろ、今の自分の方が気分が良い。
「国王陛下、準備が整いました」
「えぇ……今行くわ」




