092話『いざ』
人元歴460年6月、カラトニア連盟大国王都――
時同じくして、連盟では盛大なパレードが開催されていた。連盟国王や王女も出向き、その重要さが伺える。
「勇者様バンザーイ! 」
「頑張れー! 」
「世界を救ってくれー! 」
国内一番の大通りを、集まった民衆に手なんか振りながら、悠々と進む4人の若者がいた。
その先頭に立って歩くのが、ギルル・ルクアだ。『勇者』と呼ばれる彼に、何か特別な力があるのかと言われれば、圧倒的なカリスマ性と卓越した戦闘能力だろう。ただ、それ以上は無い。
出身こそ貧しい村の出だが、こうして『勇者』と呼ばれるまでになるには、数え切れないほどの努力があった。村での仕事の傍ら、朝早くから起き出し稽古し、日中は仕事。夜は、誰よりも遅く床につく生活を送った。
ある時、彼はこう語った。
聖王神様が夢に出てきて、俺にこう言ったんだ。君が世界を、4人の魔王から救ってくれ。ってね――
連盟大国は、聖王神以外を神と認めない……比較的過激な一神教に分類される聖王教を国教とし、ほぼ全ての国民がその教徒だ。つまり、夢に出てきた聖王神がそう言ったのなら、疑う余地なく彼が世界を救う勇者なのだ。
それと同時期、同じ夢を見たという人物があと3人も名乗り出たのだから、それはもう勇者パーティーに違いない。連盟国民は、自動的にそう思ったのだった。
更にそれの信憑性を増進させたのは、魔大陸の出現が大きいだろう。
「魔王なんて、このギルル様が軽く一捻りよ! 」
ギルルの発言一つ一つに、民衆が湧き上がった。
***
「連盟の方でも、魔大陸に行く人がいるらしいよ……」
「俺たち以外にも物好きなやつがいるんだな」
「何でも、世界を救う『勇者』だとか! 」
アマンダイトやユフは、何故かこういう事をよく知っている。どこから情報をかき集めているんだろう。それにしても勇者か、少し興味深くはある。あいつらが絡んでる確率高いだろうし。
「ただいま帰りました」
「疲れたなのー」
「先生! 目標金額達成だよ! 」
今日の迷宮組は天衣と雀燕、そして雅姫率いる陰陽衆だ。ちなみに、スズテナさんは物資調達に出ていて、レフはまだ寝ている。もうお昼なんだけどな……
「そうか! よし、スズテナさんが帰ってきたら会議だな! 」
目標金額、金幣で5000枚……長い道のりだったが、何とか達成出来た。金幣5000枚と言うと、今年の共国の国家予算の半分に満たないくらいだ。かなりの大金だと思って貰って良い。時期によって価値が変動するから、一概には言えないけど。
魔大陸の方でも、金は価値があるらしいけど……これがどれだけ通用するかは、行ってみないと分からない。
「ただいま帰りました。レイニィ様、お客様ですよ」
そんな時、ちょうどスズテナさんが帰ってきた。お客様を連れて、一体誰だろう。
「やぁ、レイ。久しぶりだね」
「レイ! 会いたかったよ! 」
この懐かしい声の主は……
「ミアとキズナか! 久しぶり、俺も会いたかったよ」
こんな時に、お友達が来てくれるのはとてもありがたいことだ。
「魔大陸に行くんだってね。噂こそ聞いてたけど、やっぱりびっくり」
「僕達からささやかだけど、応援の気持ちだ。受け取ってくれ」
そう言って2人が出したのは、見るからに上等な皮の袋にパンパンに詰まった何か。受け取り、中を見ると……そこには、金幣がギッチリ詰まっていた。
「いやいやいや、悪いよこんなに……」
「いや、良いんだ。受け取って欲しい」
「そうそう、こういう時は甘えてくれたまえ」
本当に、俺は良い友人を持った……2人には感謝しかない。
「それじゃあ、ありがたく……必ず、帰ってくる。その時は、俺が奢るよ」
「うん! 待ってるからね! 」
「良い店を探しておくよ。精一杯やって来な」
***
「……決まりだな。出発は明日の早朝、それまでに準備していてくれ」
2人が帰ったあと、団員全員で出発日を話し合い、満場一致でその日に決定した。
何と2000枚もの金幣を、ミアとキズナは俺に託してくれた。2人のためにも、絶対に成功させる。
「了解しました。私が案内しますので、玄関前に集合ということで」
それを聞いていたナーレファインは、そう告げると姿を消した。一旦本国の方に帰ったのだろうか。
「さてと、俺も荷物の準備しないとな」
総計7000枚の金幣は、全員で分割して持つことにした。1人で全部持つのは、重いしリスクが高いからな。そうすると、1人あたり……700枚くらいか。それでも大分だな。
とりあえず俺の荷物は、全部深淵に入れとこう。皆が使うような物も、これに入れとけば良いか。整理整頓しとかないと、ぐちゃぐちゃになりそうだ。着替えはもちろん、杖のスペアや魔本なんかも一応入れた。魔力瓶も大量に。
「これだけは、何があっても忘れたらいけないな」
俺は最後に、瑞希の細剣を丁寧に仕舞った。
旅行で一番ワクワクするのは、準備している時だと俺は思う。実際、今がワクワクの絶頂だ。もちろん途中も楽しいのだが、この今しか味わえない感覚が大好きだ。
よし、準備も完璧。今夜は早く寝て、明日に備えよう。




