03話『始まりと終わり』
「なんだと、それは確かなのか! 」
その数日後、神官から報告を受けた祭神は机を叩いた。
「はい、彼は……春瀬蒼弥は、死ぬかもしれません」
「なんてことだ……良いかこの事は内密に、大界神の御手を煩わずらわせる訳にはいかん」
これから彼はどんな行動を取るのだろう……非常に楽しみだ。
精々、私を楽しませてくれ。そして、利用されてくれ。春瀬蒼弥君。
***
「おぎゃー! おぎゃー! 」
その日、屋敷中に元気すぎる産声が響き渡った。
人元歴443年5月ラインアース王国ロメニアーティ辺境伯家で、1人の男の子が生まれた。
「今日からあなたはレイニィ、レイニィ・ロメニアーティよ」
没落寸前の辺境伯家に産まれたその子は長男として、この世に生を受ける前から多くの期待を背負っていた。
「鑑定開始……特筆すべき能力無し、属性は……闇属性適正有り!? 」
対象の能力や属性適正を調べることが出来る唯一の存在、鑑定士は生まれたばかりの赤子の鑑定結果に驚愕した。
「闇属性適正ですって?まさか、そんな……うちの子に限って……」
母は我が子の将来を案じたのか慌てふためき、顔を青くした。
「それは忌み子だ! 早く捨ててこい! 」
しかし、父は慌てふためく所か我が子を捨ててこいとまで言う。
それもそうなのだ。闇属性適正者とは、負の象徴或いは死の象徴。
数多くの国では、闇属性適正者の周りにいる者は何故か全員死ぬと言い伝えられ、それ故に世界から嫌われた属性や死神の子と呼ばれ忌み嫌われているのだ。
そして、闇属性適正を持って生まれた子の大半は、短命に終わる。
いや、終わらされてしまう。
これが、俺の父と母か! 何言ってるのか全く分からんけど恐らく、「この子は天才だ! 」とか「この子ならあの悪者を倒せる! 」とか、そんな事を言ってるんだろうな。
しかし、異世界の部屋はこんな感じなのか。思ってたよりも普通だ。文明が進んでそう。
ん? 何やら父親らしき人がとても怖い顔をして俺を睨んでいる……何だろうか、俺の能力に嫉妬でもしたのだろうか。
「お前が出来ないなら、俺が捨ててくる! 」
「やめてください、私が……私が責任を持って育てますから……! 」
それから父は必死に止める母を見て呆れたように部屋を出た。母は溜息をついたあと、我が子を胸いっぱいに抱きしめた。
「あなたは何があっても私が絶対に守り抜くからね」
***
そんな母の覚悟と愛をひしひしと感じながら、俺は成長し今年で12歳になった。しかし、成長するにつれ分かってくる現実を受け止めきれずにいた。
「なんでこんな目に! あの偽神め……俺が何してったんだ! 」
そう叫ぶが誰も言葉を返してはくれない。深い森の奥で叫んでるから返ってこないのは無理も無いのだが。
それにしてもあの偽神は酷いもんだ。
こんな境遇で、どうやって悪者を倒す勇者になれと言うんだ!
こうなってくると、あの大界聖王神とやらも胡散臭くなってきたな。
俺は家にいると周り、特に父から冷たい目で見られる為よくこうしてこの森に来ている。
この森はミラト大森林というとても神聖な場所らしい。それというのも、この森の遥か上空に神の住まう国、名をカラナ神国があると言われているからだそうだ。
「春瀬様、いや今はレイニィ様でしたか」
いきなり後ろで俺を呼ぶ声がした。前の名を知っているということは……あいつらの使者か?
「私は鬼頭祭神に仕える神官、今日は貴方に伝言を伝えに参上仕った次第です。鬼頭祭神曰く、『悪者を倒さない限りお前と再び会うことはないだろう。だが、お前じゃそれも厳しいかもしれぬがな』以上です、では私はこれで」
真っ白な着物の様な物を着込んだ神官は自分の要件だけを済ませ、足早に帰っていってしまった。
「おい、ちょっと待てよ! それはあまりにも身勝手過ぎないか? 」
そう叫ぶが、既に神官は消えていた。俺はもう怒りを通り越して呆れた。何が「お前の能力じゃ厳しい」だよ。全く意味がわからない!
あいつは、何を考えているんだ……クソ、考えてたらイライラしてきた。
絶対にここから成り上がって、世界最強になってお前らを見返してやる……そうだ、カラナ神国に行って抗議してやるからな!
少し頭を冷やしてから、家に帰ることにした。そろそろ暗くなる頃だしな。
このまま俺が近くに居たら母にまで迷惑が掛かってしまう恐れがある。何とか家を離れたいところだが、何か良い手は無いものか……
とにかく、今日は一旦家に帰ろう。
森を抜け、少し歩くとロメニアーティ辺境伯領の入口が見える。そしてそこからまた歩き、小高い丘を登っていくと御屋敷が見える。
「ん?なんだこれは……」
大きな門を通って玄関前に広がる庭に見覚えのない地下への入口らしき階段が見えた。
今まで長い間暮らしてきて、見た事が無かったその階段の先に広がっているのは何なのだろうか、きっとやましいものに違いない。
入ってみるか――
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