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031話『藝華-⑧』

 張り詰めた空気感と、部屋中に何かが焼け焦げたような匂いが充満していて、息が詰まる。緊張のせいもあってか、気を緩ませると吐きそうになる。


「お前たった一人で一体何ができるってんだ? 」


 さっきからバエルは俺の事を執拗に煽ってくる。何か狙いがあるのか?

 歴然とした力の差、それに屈服なんて到底出来ない。ミズキの勇気を無駄にはできない。


 ***


「レ、レイニィ……さん……」


 エリスは……あ、そうか変な人の魔術で……それから……どうなったんだっけ……頭がボーっとしてあまり思い出せない。あれ、この手は誰の……


「ミ、ミズキさん……!? 」


 一体何がどうなっているの? エリス、わかんないよ……


「エリス! 無事なのか?! 安全な所に避難していてくれ! 」


 その時、世界で一番聞き慣れて、世界で一番好きな声が耳に飛び込んできた。


「は、はい……! 」


 動くと肩ら辺がズキズキと痛む、服に血が染み付いてベタベタする。だけど、彼の真剣な顔を見るとそんなことなんかどうでも良くなってしまった。


 レイニィさんは、エリスとミズキさんを守ろうと必死に頑張ってくれている……でも私には何も出来ない……自分の不甲斐なさには落胆する。こんな自分じゃダメだ……


 ***


 これは、だいぶまずいな――


 思っていたよりも戦力差がありすぎる。こいつ(バエル)は本物のバケモンだ。14号さんでも勝てるかどうか……


「俺もう疲れてきちゃった 」


 バエルは、体をくねくねさせながら弾んだ声でそう言う。

 そういうところが一々癪に障る。


 先程の戦いを見ていたのか、バエルは一切魔術を撃ってこない。もうお手上げに近いぞこれ……


「ロード、ネアロスト……っ! 」


 魔術を発動させようとすると、身体中に激痛が走った。今までに経験したことの無い部類の痛みだ。

 内側から幾千もの針で刺されたかのような……そうか、これが魔力過消費(マジックダウン)か……!


「おいおい、こんなもんでもう魔力過消費(マジックダウン)かよ……うーん、もうちょっと遊びたかったんだけどなぁ」


 そう言うバエルの目はギラギラと輝いていた。猛獣が獲物を見る時の目だ。俺の二回目の人生もここまでか……


「そこを動くな! バエル、やっと会えたな。久しぶり」


 いきなり大扉が音を立て勢いよく開き、ぞろぞろと獣王国軍の兵士が入ってきて、その最後にギナーラさんが入ってきてそう叫んだ。


「げ、ギナーラ……おいお前運が良いな。そんじゃ俺はこの辺でっと」


 バエルは、ギナーラの顔を見るなり顔を青くしてワープゲート的なものを開いて入っていってしまった。


「おい、待てと言っているだろ! ちっ……逃げられたか。あいつはいつもそうだ……」


 ギナーラさんは、ワープゲート的なものがあった所の前で何かブツブツと文句を言っていた。


「あの……」

「そんなことより、2人を回復させるのが先なんじゃないか? 」


 俺はハッと思い出し、より重傷と思われるミズキの元へ向かった。


「おい、ミズキ! 大丈夫か? 今回復術式を……」

「……? 私、もう無理かもしれない。あなたの魔力も底をつきかけてるんでしょ? それならエリスちゃんを先に助けてあげて。お願い」


 そう言ってミズキは、俺の手を強く強く握った。俺は何となく分かってしまった。

 これから先何が起こってしまうのか。分かった、よりも見えた。という方が感覚的には近いかもしれない。

 それでも、覚悟を決めミズキを信じエリスの元へ向かった。


「エリス、大丈夫か? 今助けるからな……ロード、アクト……アドヒール」


 まだ目を覚まさないが、エリスはこれで大丈夫だろう。息はある。

 エリスを兵士の人に任せ、再びミズキの元へ向かった。


「エリスちゃんは、大丈夫……? 」

「あぁ、大丈夫だ。次はお前を……」

「あのね、蒼弥。私ずっと伝えたくて……ずっと胸にしまってたことがあるの。聞いてくれる? 」


 俺の頬に手を当て、弱々しくも命の灯火を燃やし続けるミズキ。

 分かっていた……あの時見えてしまった未来と一緒なんだ。何故だが涙が止まらない。どの時よりもずっと。


「私ね、君の事がこの世の何よりも大好きだったんだ。そう、召喚される前からずっと。気づいて欲しかったんだけどなぁ…… 」


 ミズキの息が段々と荒くなる。

 彼女は静かに目を閉じ、俺の頬を柔らかに撫でた。


「だからね、蒼弥。君は幸せになって。絶対だよ? 」


 最期に彼女は、そう言って笑顔を見せた。いつものような眩く、溢れるほどのものでは決して無かった。だが、その笑顔はミズキが今までに見せてくれたどの笑顔よりも……彼女らしかった。

 彼女の体が、無数の光の玉になり弾けた。そして、天へ登っていき次第に消えていった。俺の腕の中には虚無感と冷たさだけが残った。


「この世界に無理やり連れてこられた召喚者は、死ぬとあんな風に帰っていくと聞く。彼女は、きっと……」


 俺はその時ギナーラさんも泣いていることに気が付かなかった。


 ***


「どうしたアルか? お前らしく無いアルな」

「うーん、なんかね……」


 クルミは不安げな表情で、空を見上げた。何の因果か、それはミズキが死んだ時と同時刻だった。


「そろそろレイニィ君とか、ギナーラさん帰ってくる頃かな……」

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