017話『ルゥナ-①』
「何だここは……ここが本当にあのルゥナなのか? 」
目的のメルリー山脈の麓にあるルゥナという町に着いた途端に、ロンは驚いていた。
俺も始めて来た所だが、ロンの言いたいことも分かる気がする。
その町は死んでいるように見えた。もちろん人は見当たらないし、まずまず誰かが住んでいるような様子すら無かった。無人の町に太陽が照りつけ、更に暑く感じさせる。
周りを見てもドアは外れ、窓は割れたまま。そんな家がたくさんあった。
「これが、魔獣の影響だとしたら……」
カテラのこういう予感は何故かよく当たる。もしそうだとすれば、正しく一大事だ。
ただの魔獣がこんな事になるまで人間を追い込めるはずがない。町を手放さざるを得なくなった原因を探すべく、俺たちは荒んだ町を進んだ。
途中、ロンがこの町について話し始めた。
ルゥナと呼ばれるこの町は以前、とても活気溢れた町だったという。人々は思い思いに歌い、踊る。道端では何人もの商人が自慢の商品を並べ、群衆に対して時には値引きしたりなど人情溢れた町だったと言うのだ。
昼まで呑んだくれるおっさんや、あちこちを走り回る子どたち。そんな光景が目に浮かぶ様だ。
町を大きく一周ぐるっと回ってみたが、魔獣や他に原因となる様な物は見当たらなかった。
「困ったわね……このままじゃ依頼クエストもクリア出来ないじゃない」
ミズキはどことなく不機嫌になってきている。この茹だるような暑さのせいだろうか、全員が少しずつ冷静さを欠いていた。
「君たちは誰だ?どこから来た?ここは危険だ、早く帰った方が良いよ」
後ろから急に声をかけられた。
驚いて振り返ると、その中性的な声の持ち主の異様な姿があった。
全身を少し膨らませたような大きめの服で包み、頭には大きな仮面を付けていた。何かの動物の様に見えるが、不気味だ。
「俺たちは依頼クエストを受けてきた冒険者パーティーだ」
と言って俺は冒険者パーティーの証明となる小さなカードを手渡した。受け取るその手は俺のよりも二回り程大きかった。
「なるほどね、B級パーティー、レーシィか……ごめんごめん、またここの住人が戻ってきたのかと思ったよ。僕の名前は14号さ。以後お見知りおきを」
僕、ということは男の人だろうか。仮面で声が籠っていて声では判断しにくいけど恐らくそうだろう。
それにしても変わった名前だ、本名……じゃないだろうが、何だか良く掴めない人だ。
「あ、これ外さないとみんな怖がっちゃうね……」
俺たちが黙ったままの様子を見て、14号さんはその大きな仮面を笑いながら外した。
「え、女の人だったんですか?!」
隣でミズキがそう叫んだ。俺も叫びそうになったが、ミズキのお陰で何とか持ち堪えられた……まさか女の人だったとは。
「あはは、よく言われるんだ。僕ってそんなに男に見えるかな? 」
これからは僕って言う人を男だと決めつけるのは辞めよう……
長い髪を束ね、頭の上の方で括り止めたお団子が何とも可愛らしい、淡い緑っぽい髪の色と白い服が相まってとても映えている。
「立ち話もなんだしさ、僕の家へおいでよ。そこで色々話そう、この町がこんな事になってしまったのか……とかね」
俺たちの返事を聞く前に、スタスタと歩いていく彼女を追いかけるしか無かった。
この町に何があったか知る必要もあるし、彼女の家がどんなものか少し気になった。
それにしてもあの人……歩くの早いな。
「さ! ここが僕の家だよ」
どうやら到着したようだ、割と歩いたな。というか……豪邸だな。ほんとに何してるんだろこの人。
「ここはね、ここの町長の家なんだけどー、今は僕が借りてるんだよねー勝手に」
長い廊下を歩きながら、14号さんは楽しそうに言った。町長の家だったのか……道理で豪邸なわけだ。
「それで、この町は一体どうしちまったんだ? 」
我慢しきれなくなったのか、ロンが歩きながら尋ねた。しかし、彼女は微笑んだまま答えない。彼女はまだまだ廊下を進む。
「さて、そろそろ話し始めるとしようか。この町で起こった悲劇を」
それから14号さんが話した悲劇は、俺たちの想像を絶する物だった。
大きなメルリー山脈の麓にあり、交通の要所として栄えたルゥナの町はその日、いつもと何ら変わり無かった。
しかし、そんな穏やかな昼下がりに事は起こってしまった。
魔獣の群れだ――
誰かがそう叫んだ。しかし、町の人々は落ち着いていた。この町には度々魔獣がやって来るのだ。その為、町人は「やれやれ、また来やがったか」と言うばかりで軽く受け流していた。
きっといつもみたいにすぐ冒険者が派遣されて、討伐してくれる物だと。
しかし、いくら時が経とうと冒険者はやって来ない。それに魔獣の群れの姿も見えない。
次第に町人達は誰かが嘘をついたのだと思い込み始めた。そこまでは良かったのだ。本当の悲劇は町が眠りについた深夜に起こる。
明くる朝、町長が無惨な姿で発見された。自室で、体をぐちゃぐちゃになるまでに引き裂かれたようだったと言う。それは見る物を恐怖させた、人間の仕業か或いは魔獣の仕業か……
それから時が経つにつれ、次々に同じようなことが起こった。町人は我先にと町を飛び出した。正体不明の殺戮者に恐れ、為す術なかったのだった。
「魔獣の姿も見えない、だが確実に死者も出ている……それに、そんな惨いことが出来るのは魔獣で間違いないんだけどね、問題は魔獣にそんな知性があるのかって事」
魔獣に知性は無い。だとすれば、魔獣を束ねる何者かがいる。何の目的で……
「知性を持つ魔獣が生まれた……という可能性は? 」
「うーん、それは考えにくいかもね」
今回の依頼クエストは思っていたよりもかなり厄介そうだ。俺達もかなり運が悪いな……
「まぁそれで、僕がある方に派遣されて今に至るんだよね」
14号さんの言うある方は気になるが、多分触れてはいけない事だ。
不敵な笑みを浮かべる彼女は、コルフィを啜りながら話を続けた。
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