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弱点

「お待ち下さい!」

牧師が追ってきた。お礼がしたいというが、施設の経営状況からは何か貰うのは気の毒なので、七海と美咲の名字の件をお礼代わりにしてもらおうとしたが、サクっと処置してくれて、

「それだけじゃ・・・」

納得しない様子だったので、

「じぁ、お礼と結婚祝いで相殺って事にしましょうか?」

陽菜の提案に

「ホント助かる!じゃあ、引き出物をうけとってくれるな?」

愛子はポシェットから剣を4振り取り出した。4振りとも『鋼の剣+49』

「哲の弟分達が、冒険者を目指してたから、デビューの時にプレゼントしようと思ってたんだけどね、私が山から戻らなくって、シスターが猛反対して、街で働いてるそうなんだ、あんた達なら活かしてくれそうだからさ!」

有り難く頂いて、育てている剣に合成。完成した剣はそれぞれに『VI+67』と追記されている。VIは6種類の付加機能が付いていて、67段階の強化がされた事を意味する。因みに10種で全ての機能が付いた『X』、強化の上限は『+99』。かなり高レベルの剣に成長出来た。


 剣の数値に驚いて忘れていた風太だったが、七海と美咲に催促され家族として迎え入れ、ご機嫌の二人を鑑定して『来生』を確認した。


 ギルドに行って、依頼の達成を報告、薬草を納品した。

「呪いは大丈夫でしたか?」

無傷で戻ったのは驚きのようだった。名字の件を心配してくれたが、

「山で会った方が、施設で孤児になって僕が引取るカタチで解決してくれたんです。」

「えっ、まさか!愛ねぇ!な、訳ない・・・よね。」


「愛子さんですよ、平野愛子さん。」

「すみません、早退します。」

受付嬢は、制服のままギルドを飛び出して行った。

 精算とかを代わってくれた職員さんは、

「申し訳ございませんでした、彼女は孤児院の出身で、愛子という冒険者が、施設を支えてたんですが、16年前に、呪いの山から帰らなかったんです。」

「15年11ヶ月と18日前じゃありません?」

七海の問に、職員さんは手帳を捲って、

「そ、そうです!!」

「牧師さんがそう言ってましたよ。」

愛子の武勇伝を聞きながら、手続きが完了した。


 少し懐に余裕が出来たので、二部屋取って、風太が一人で泊まる提案をしたが、

「そんな、贅沢よ!」

3対1の多数決で却下された。今まで通り、ツインの部屋で二人ずつでベッドを使う。ベッドを譲ってソファーで寝たこともあったが、ベッドを独占出来る筈の美咲が、いつの間にかソファーに引越して重なって寝るので、以降はベッドをシェアするのが当たり前になっている。

 素泊まりなので、夕食に出掛けようとしていると、ノックの音。ドアの外にはレストランのシェフ。価格がネックで素泊まりにしているが、評判のレストランだ。臨時休業の連絡と、パーティーのお誘いだった。愛子の帰還と哲との結婚を祝うとの事。断りきれずにレストランに同行した。


 愛子の恩人との大歓迎に、居心地が悪い風太達だったが、アットホームな雰囲気とまかない風の食事に少しリラックスしていた。集まっているのは、施設の子供達と卒業生、それとその関係者ばかり。愛子が、バリバリ働いていた頃は、街に多大な貢献をしていたし、愛子の稼ぎで学を付けた後輩たちが街に欠かせない人材になっているので、レストランの貸し切りも、急なパーティー参加もスムーズだったそうだ。


 良い話しばかりで順風満帆かと思われたが、施設の困窮状況と辻褄が合わない。祝の席なので、スルーしようと思ったが、

「で、なんで貧乏なの?」

愛子は、ど真ん中のストレートで質問を投げかけた。

「実は・・・」

哲がローテンションで話し始めた。

 施設を管理していたシスターの善意につけこまれた詐欺に会い、入所していた女の子達が娼館に、売られる事になった。卒業生達の頑張りでなんとか阻止出来たが、莫大な借金が残った。街外れの小さな畑を売って、なんとか凌いで居るが、売った畑を借りて使っているので、その賃料がかかるし、被害者にも関わらず犯罪のイメージは、教会から信者の足を遠のけ、寄付や物販収益が激減している。食べるのがやっとで、施設も、隣接する教会も補修なんかも出来ていない。


「じゃあ、畑を買い戻すまで冒険者を続けるよ!」

くるり振り向いた愛子は、

「臨時メンバーに雇ってくれる?」

「喜んで!」

風太は即答した。()妖怪トリオ達は、風太以外との接触が少なく、人見知りな所は元の世界の頃よりはマシって程度。こっちの常識とかも身に付くし、ゲームの知識から我流で戦って、今の所は上手く行っているが、経験者の戦いぶりを学ぶチャンスと考え、冒険者を続けるなら誘うつもりでいたのでジャストマッチング。明日から一緒に山を攻める事にして、パーティーはお開きになった。


 翌日から、実入りの良い依頼をドンドン熟す。風太の持つゲームの情報を、愛子が活用、サクサク狩りながらも、攻めのコツとか、相手の能力の読み方などをレクチャー、3人はドンドン魔法のウデを上げていった。


「風太くん、明日はコレ請けても良いかな?」

愛子は遠慮がちに相談した。

「いいですけど、僕は留守番?」

「うん、日帰りだから我慢してね。」

愛子が、選んだのは、男子禁制の山での樹の実の採取だった。

 風太は、麓まで馬車で送り、テントを張って昼寝三昧。下りてきたら食べられるよう晩ごはんのメニューを考えていた。

「それより、昼か。」

夕食の下拵えをしながら、昼の分も用意。山攻めの女性軍は弁当持参で登っている。

 さて、ランチタイム。スープをカップに注いでいると山の結界から人影が現れた。早すぎるので他のパーティーかと思ったが、ボロボロになった4人だった。

 風太が駆け寄ると、愛子におぶわれていた七海はケロッと復活、傷だらけでフラフラの陽菜と美咲は自己ヒール、

「「出来た!」」

成功に自分自身が驚いていた。


 取り敢えず、ランチにして、午後の相談。

「こんなのって良くあるの?」

「ううん、魔法がまともに使える用になってから3回目、最初がね・・・」

陽菜の説明に愛子は、

「もしかして、魔法使えたのって、風太くんと組んでからじゃない?」

3人が頷くと、

「たぶんね・・・」

愛子は、風太が3人の魔法をサポートしていて、それが無くなって、弱点がさらけ出た感じと推測。ギルドの魔力測定は不正防止の為、外部からの魔力を遮断しているし、温泉の時と今回は、結界で遮られえいる。

「試しに結界の向こうで撃って見よっか!」

美咲は楽しそうに山を登っていった。

心配して愛子が追いかけた。

 結界で見えなくなって3分程で戻ってきた。打ち上げ花火のように、火球を空に飛ばし、

「ミイはね、きっすうが居なきゃ駄目なカラダなのよ!末永くよろしくね!」

結界の向こうとコッチでは、出力が天地の違いだった。風太が弱点を補填している証と言えるだろう。


 ギルドに行って今日の依頼を未達で報告。初めての失敗なのでペナルティーは無い。愛子の顔で、魔力測定をブースに風太も入って試してみた。3人ともCランク相当の魔力を連発し、風太が抜けると、Fに転落。鑑定すると、苦手の項目はFのまま、他はDに上がっていた。

「私も測っていい?」

愛子はBからAに上がっていた。

「気のせいかと思ったけど、やっぱ上がってたんだ!風太くん、キミって『幻のスキル』、コンプしてるかもよ!」

愛子が『幻のスキル』の解説を始めた。

 陽菜のコントロール不能を、精度を高めるアジャスター能力で、七海の魔力枯渇を、魔力量を補うリザーバー能力で、美咲のパワー不足を、魔法の出力を増幅するブースター能力でサポートしてる。また、魔力の成長サポートするグローワー能力は愛子も含む全員に影響しているらしい。

「あんた達、仲いいからそれ程気にすることも無いね、ずっと一緒なら問題無いからね。」 

 謎の魔力ダウンの原因が解り、一緒に居ることで再発が防げることが解ったので、当面は問題無いだろう、引き続き、実入りの良い依頼を熟して、報酬と経験値を稼いで、装備を育てる事には変わらずに取り組んでいくが、一度治癒師に診て貰ったほうが良いということで、ちょっと離れた街に行く事になった。


 向かう街は、葵達と別れた街で、金の龍の山を攻める拠点として便利なので、きっとそこに居るはずで、会おうと思えば会えるだろう。相変わらずのFランクのままで会うのってどうかな?なんて思いつつも、旅行の支度を始めた。普段から宿かテントなので、大した準備は要らないが、これを機に馬車を買うことにした。格安中古を探していたが、愛子の顔で、新しめの馬車が驚きの価格で手に入った。

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