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西部

 丸州でのお使いを済ませたつもりの風太だったが、

「狩石の来生殿ですね?お噂はこちらにも届いていますよ。実質、八玉殿の大使の様な方を、そのまま帰す訳にはいきません、我が殿も是非お会いしたいと常々・・・」

結局、晩餐会に誘われてしまった。


 西部は、丸州が仕切っているカタチにっているが、各々の領が微妙なバランスで共生していて、冷戦に近い常態らしい。丸州と言う名前も、かつて西部を統一していた領主の名前で、現在は実在していない、各領が持ち回りで代表を務めており、『○○銀座』の様な感じで城の周辺の繁華街を『○○丸州』と呼ぶ習慣から、その代表を丸州と呼び、西部全体をさす言葉になっているそうだ。


 赤岩と繋がっているのは、国境沿いの官崎(かんざき)家。恩を売って、統一した北部を後ろ盾に西部を我が物にする計画だったようだ。糾弾することも出来るが、冷戦のバランスを保つ為、見て見ぬ振り。北部は4家が軸になったが、西部にはそれに当たる様な存在は無い。好戦的な官崎、鹿本(しかもと)熊島(くましま)の3家と、平和志向の4家で構成され、どこかが隣を攻めると背後から襲われる脅威があり、安易に戦に発展しない状況になっているそうだ。

「北部が纏まると、手強いですね。戦力的な事だけじゃなく、経済的にも厳しくなりそうです。」

北が働きやすくなると労働者の流出が考えられる。治安が良くなると、やはり流出もあるし、逆に治安が良い事で住み辛くなる連中の流入も考えられる。輸入が増えて外貨流出、西の力がどんどん弱まってしまう。丸州の代表で佐貝(さかい)領主、松太郎が眉間に皺を寄せた。

「北は戦は考えていませんよ、農産物は輸出する事になるとは思いますけど、まだまだ自分達の胃袋を満たすまでに至ってません、数年は掛かる筈です。当面の心配は人口流出でしょうかね。」

更にトーンダウンの松太郎は、

「何か対策は有りませんか?」

やっと、風太が待っていたワードが捻り出された。

「そうですね、北と同じ様に、農地開拓とスラム一掃で働き口を確保しては如何でしょう?」

「まあ理想はそうですけど、資金が有りません。北はどうやって工面したのでしょう?それに、好戦的な3家は協力しそうに有りませんな。」

風太は、闇ギルドとそこと癒着した貴族を潰して資金調達した旨を説明、ギルドで仕入れた情報から、カネになりそうな闇部分もチラリと披露した。

 佐貝で始めて、成功事例を作って他の領主に勧めていく。そんなつもりでいたが、北の様子が聞こえていた為、和平派の太分(ふとわけ)吹丘(ふきおか)名先(なさき)が追従、交戦派の3家は、開発に掛けるカネが有るなら軍事費に充てると、興味を示さなかった。


 ギルドで仕入れた情報を、鑑定のスキルで確認したり、領主の権限でガサ入れしたりして、割とあっさり闇ギルドは解体、幹部は散り散り、癒着している貴族を炙り出して、開発資金の調達に成功した。

 田畑が出来て、収穫して、それを食べたり売ったりして、初めて効果が出てくるものと長い目で見る計画だったが、闇ギルドの解体で一気に治安が良くなり、開発に携わる人が流入、トレードの様に闇ギルドに関係していた連中が、好戦派の領に逃げ出して行った。

 労働者の流出で経済状況が悪化、合せて、好ましくない連中が増えて治安も悪くなった好戦派は、近隣の領を奪い取ろうと蓄えていた戦力を、治安維持に充てる事を余儀なくされていた。

 和平派の4家の開発に目処が立つと、労働力の流出に耐えかねた、鹿本、熊島が開発計画に乗った。闇系の流入もあったが、弱体化して甘い汁が吸えないと判断し、比較的潤っている官崎に流れていた。

 闇ギルドの資金回収は上手く行かなかったが、バックになっていた貴族を炙り出して取り潰し、開発資金に充てる事が出来た。


 その頃官崎では、闇ギルドの活発化と、治安が良い所が苦手な連中の激増で、騎士隊は大童。他の6家を追って、開発に取り掛かろうと領主は重い腰を上げ・・・ようとした。

「上様、市中を調べさせました所、闇ギルドの大物が集結しておるようです。排除するには、相当な労力でしょう。いっそ手駒になさっては如何でしょう?」

領主に進言したのは、闇ギルドに繋がっている家臣、目向(めむかい)だった。領主の慎之介は即断出来ずにいたが、

「6家は揃って、田畑の開拓に夢中です。刀鍛冶が鋤鍬を打ってると聞きます、一気に叩き潰して、西部を統一して官崎にしてしまいましょう!」

目向は、耳触りの良い言葉を並べ立て、慎之介を丸め込んだ。


 闇ギルドを取り込んだ官崎の騎士団は、予てから準備していた武器や装備、弾薬等で史上最強(目向評価)となり、領境を接している吹丘、太分を纏めて叩いてもお釣りが来る程になっていた。

「従来軍と連携出来る様になってから開戦すべきです!」

騎士団の団長は、闇ギルドを取り込む事に最後まで反対していたが領主の決定には逆らえず、団の規律を浸透させようと努力していたが、全く言う事を聞かない。

「団長殿のウツワの問題では無いでしょうか?」

目向は、打合せ通り元闇ギルドの幹部を手懐けた様に装い、騎士団の指揮権を手中にした。

 勤務中でさえも言うことを聞かない元闇ギルドの連中は、街に出ると更に自由奔放に振る舞った。もはや性犯罪レベルのセクハラが横行し、女性は外出すら自由に出来なくなっていった。


 罷免された団長は、良識的な団員を誘い、領民の避難を試みる。元闇ギルドの連中に潰されてしまう前に吹丘、太分に送り出している。 

 吹丘、太分連合に優位なのは兵の数だけ、個々の戦闘力が高い元闇ギルドが、軍として機能すれば優位に立てるかも知れないが、従来の騎士たちは戦意喪失、悪党の部下に甘んじる事の出来ない正義感の強い者は、早々に団を後にしていた。


 官崎の計画はお見通しの6家は、連合軍を既に配備していた。開発に軸足を置いていた事には違いないが、従来の軍備を縮小した訳ではなく、目向の想定した2家の戦力の3倍が要所を固め、正規の冒険者ギルドも助っ人に迎えている。更には、八玉に居る赤岩の残党が官崎に付いた事になっているが、残党は既に狩り尽くされ、なんとか生き延びた者も全て獄中だった。ニセの残党は、風太が送り込んだスパイで敗走した闇ギルドの連中を回収する様スタンバイ。


 さて、開戦の夜。官崎を出た弾薬満載の荷馬車は、吹丘丸州、太分丸州に到着していた。繁華街で爆破、混乱に乗じて、街を襲い城を占拠する計画。闇ギルドの手練れ達が城の周辺でスタンバイ、爆発の音に誘い出される騎士団と入れ替わりに城に侵入する計画だった。


 街で大爆発、城の門が開き、騎士達が爆音の方向に馬を飛ばす。計画通りと、開いた門から悠々と城を占拠・・・とは成らず、大半が落とし穴。

 街の爆音は、弾薬を爆竹にすり替えてあったため、うるさいだけで被害無し。すり替えは、官崎の正規冒険者ギルドで処理していた。荷馬車を運んで来た連中もあっさりと御縄。従来の官崎騎士団は、開戦と同時に6家連合に寝返り、元闇ギルドを内側から攻め、大半を捕らえる事に成功していた。


 悪運とずる賢さで闇ギルドの幹部連中が敗走した。敗走ルートは、風太が設定した通りで、険しいアップダウンで馬を諦めさせ、ヘトヘトになった所で3人泳がせて残りは捕獲。

 あちこちで小競り合いはあったが、軽傷者が数人程度、演習と変わらないダメージで決着が付いていた。


 泳がさせれいるとは気付いていない闇ギルド幹部は、目向達と合流し赤岩の残党を頼って北部へ脱出を図った。目向一行は持てるだけの現金やお宝を家臣に担がせ険しい山道を通り、(ニセの)赤岩残党に教わった抜け道に入った。貰った地図の通り、洞窟があり、そこを通り抜けると、赤岩残党のアジトに到着する(事になっている)。

 途中、身体一つでやっとの隙間があり、お宝を諦めざるを得なくなったり、狭い水路を泳ぐ為に大きな武器や防具を置いてきたりしながら、洞窟の出口に辿り着いた時には、ずぶ濡れでほぼ手ぶら、体力も魔力も使い果たした常態で、出迎えていたのは、赤岩残党ではなく、官崎の元の騎士団長だった。

 洞窟はUターンして入った所から10数メートルの所に出口があり、自然のトラップをクリアしているうちに、追手が到着する算段だった。予想通りにサクッと捕獲。途中で放置したお宝も勿論回収して、戦の火種を完全に消し、開発の資金を確保した。


 領の政に深く関与していた目向が失脚、代わって和平路線を主張していた都成(となり)氏が、やはり和平派の官崎家三男を擁立し、和平への転換を確定させた。

 以降の開発は先に進めている他家に習って着手、また順調に進む事だろう。


 西部全体を、和平路線に導き、戦のダメージを最小限に抑え、開発をスタートさせたマン研一行は、救世主として持て囃される筈だが、目向と闇ギルドの幹部を捕獲した時点で、尾根のワープを使って狩石に戻っていた。

 祝勝会のお誘いを避けての行動で領主達は冒険者ギルドに捜査願いを出したが、

「多分、見つかりませんよ!祝勝会の後は、何か重要なポストを用意しているんじゃ有りませんか?」

困り果てた領主の使いが頷くと、

「ソレが1番嫌なんだと思いますよ!北部でも要職で迎え入れたいと熱烈コールしてましたが、全然その気は無いらしいんです。城内に離れを建てて、好きな時に寄って貰うスタンスだって聞いています。」

 結局、追跡は諦めて各ギルドには、『近くに来たら寄ってください』のメッセージを、各関所には優先的な通過と、通行料の免除を通達した。

 マン研ヌキでの祝勝会は、和平と開発で足並みが揃って、各領の得手不得手を補う調整等も成立、開発計画が盤石になっていた。

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