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廃村

 香州の関所に着くと、衣装から判断して、偉い役人さんが飛んで来て、

「ようこそいらっしゃいました!領主がお待ちしております。私、ご案内役の藤原と申します。ささ、どうぞこちらへ!」

 気の張らない普通の宿にするつもりだった風太達だったが、早速捕まってしまった。

「馬を用意しますから、マロン様も、ごゆるりと・・・」

 馬を繋ぎ替えて、マロンを休ませようとの心配りだったが、

『ダメッ!マロンの馬車!!』

断固拒否。元の姿の時は念話だが、強く飛ばし過ぎたのか、飼育員が尻餅をついていた。

 そのまま登城、庭や池、城がよく見える新築の別邸に案内され、

「滞在中はこちらをお使い下さい。こちらに魔力を流し込んで頂けますか?」

玄関横の石のオブジェ?大理石風の台座に半球が乗った様な物に、風太は右手を翳して、魔力を込めた。球の部分がぼんやり赤く光ると、

「皆様もどうぞ。」

人型になったマロンも含め全員が終えると、

「では、どうぞ。」

丁寧過ぎるエスコートなので、当然ドアを開けてくれると思って待っていた風太達、

「あっ、失礼致しました、こちらの鍵は、皆様しか開けられない様になっています。」

藤原さんは、ドアを引いて開かないことを見せたあと、半歩下って風太を再び促した。

 カチャリと軽い音で、何事も無かったようにドアが開いた。広い玄関には、オジサマとお姉さんが2人。

「執事の多田です。こちら、メイドのあゆみとさやかです、よろしくお願いいたします。」

3人は深々と頭を下げた。

 

 落ち着いたリビングとダイニング、クローズキッチンは厨房と言っても良い感じ。ゆったりの浴室、大きなベッドが標準装備の寝室が6つ。氷狼の山の洞窟に建てた我が家に似たような間取りだった。

 登城を急かされる事もなく、普通に宿に泊まるのと変わらなかったが、流石に無視する訳にも行かないので、多田さんに相談、翌日のランチに招かれる事になった。


 城でのランチは、意外にも和気藹々。領主の嫡男夫妻がホストで、現役の重鎮達の姿はなく、次期領主を支える若手ばかりだった。他愛のない話をして、別邸はいつでも自由に使って良いとか、偶には顔を出して欲しいとか、束縛しないアピールが強かった。

「香州をご覧になって、何か思う事はありませんか?」

領主の嫡男・仙太郎が尋ねた。

「そうですね、北部全般に言える事ですけど、荒れっぱなしの畑とかが気になりますね、あとスラム街っぽい地域は問題ですね。」

「ですよね!ただ、先立つモノが無くてずっと放置しているんですよ。」

「何か良い案が見つかったらご提案しますね。」

協力しなければならない雰囲気は回避出来ず、風太は、外部からの協力者の立ち位置をなんとかキープした。更に街の感想を求められ、

「そうですね、あちこちでキャッチボールをしている光景をよく見かけますが、野球が盛んなんでしょうか?」

風太の質問に、

「ええ、盛んでした(・・・)。」

過去形で答え、八玉時代はあちこちに球場があり、様々な大会で盛り上がっていたが、軍事施設や畑になってしまった事を憂いていた。

 その後は、当たり障りの無い対応で、なんとか会場を逃れる事に成功した。


 口約束だけって訳にもいかないので、スラム街を調査。元は八玉の幹部が、滞在する屋敷が建ち並ぶ屋敷街だったが、八玉の衰退に合わせて街も寂れ、香州が襲撃された時、城は死守したが、八玉の屋敷は火を放たれ、そのまま放置。そこに貧しい人達や、アングラな連中が住み着いているようだ。

 一応、表通りっぽい所を歩くと、

「何か、お探しかな?」

ナンパかと思い、女子達が身構えたが、風太の耳元で、

「随分と上玉をお揃えですね、どの娘も500は下りませんよ!」

そう言って紙切れを握らせると、下卑た笑いを残して、崩れた塀の向こうに消えていった。少し歩いただけで、同じ様な男に計3回会い、紙切れは3枚になった。

 求人広告だが、非合法な臭いがプンプンしている。取り敢えず、それらの場所をチェックだけして引き上げた。


 翌朝、ギルドに行って情報収集。薬草採取の依頼を請けながら探って見ると、

「闇ギルドですね、かなり危険な連中です。」

 通常、盗賊の類に身を落とすのは、魔力が弱く、冒険者としてやっていけない連中が殆どがだが、何かの揉め事でギルドを追いやられ、食うに困り、ターゲットを魔物から旅人に変えるケースも珍しくはない。集団になることで、襲撃が強化されたり、騎士隊やギルドの正規の冒険者から身を守ったりして組織化しているらしい。

小声で(じつはですね)・・・」

闇ギルドから、一部の貴族にカネが流れていて、組織の撲滅や、スラム街の一掃に圧力を掛けていて、違法の賭場の経営にも携わっているという噂もある。


 風太は潜入捜査を試みる。一見さんで、合法(・・)のカジノに入りカードで遊ぶ。鑑定のスキルでカードと相手の状況を読み取ると、かなりの確率で勝ちを収めた。勝ち続けるとVIP室に招かれ、更に勝っていると、隠し扉から更に特別室に通された。

 明らかに雰囲気は変わり、レートもグンと跳ね上がっていた。程々に勝って帰ろうとしたが、そうもいかない仕組みらしく、勝っていた分をほぼほぼ吐き出して、ようやく退去することが出来た。

 ギャンブルとしては、プラマイゼロだが、プライスレスな情報をゲットしていた。


「「「「大丈夫だった?」」」」

近くで待機きていた葵達が結界から飛び出した。

「うん、メチャ勝ってた分は吐き出す迄帰らせてくれない仕組みでさ、だいたいプラマイゼロなんだけどね!あっ、あとは帰ってからのお楽しみね!」

かなり欲求不満の葵達だが、機密情報(プライスレス)ゲットを確信して、借りている領主の別邸に戻った。


 ご機嫌な風太は、

「香州の家臣で1番チカラを持っているのは何家かな?」

「あ、それなら鳥門家よ。急速に勢力を伸ばしているわ!」

陽菜はリサーチ済みのメモを風太に渡した。

「さっきのカジノはね、表向きは合法だけど、隠し扉から地下に降りると、しっかり違法カジノでね、ディーラーは赤岩の人で、そこを仕切っているのは鳥門の人だったよ。」

 それだけでは断定出来ないが、カジノの収益が勢力拡大に繋がっていて、その影に赤岩が絡んでいるとすれば、内乱の恐れが想像出来る。

 闇のカネが鳥門に流れている事を確認し、闇ギルドとの繋がり、更には赤岩との繋がりを確認、謀反の兆しは無いかしっかり確かめる必要がありそうだ。


 翌日は、郊外の元畑の荒地をチェック、元の住宅はほぼ瓦礫常態で住めそうな建物は1つも無かった。

「昔、集落だった感じだよね、ここに長家を建てて、就農したい人に安く貸したらどうかな?スラム街にも、ちゃんと働きたい人いると思うんだ。」

「長家の魔法陣もしっかり、手描きコピーしてるから、ミイに任せて!」


 数日の間、昼間はギルドで薬草採取の依頼を請けながら情報収集。夜は、怪しい求人広告の店を出入りする人をチェックした。探していた貴族らしき男を見付け尾行、鳥門の屋敷に入るのを見届けた。


 多田を通して仙太郎にアポ、別邸に一人で来てもらった。

「お呼び立てして、申し訳ございません、内密にお伝えしたい事ですので。」

「いえ、構いません。早速伺いましょう。」


「・・・うむ、確かめないといけませんね・・・」

仙太郎は苦虫を噛み潰したような顔で、次の一手を風太達に相談した。


 それから3日、いつもの様にギルドに薬草を納めていると、受付嬢は小声で、

「西部の廃村の土地をを土在様が買い漁っているそうです、何があるのか解りませんが、今買っておけば大バケすると思いますよ。」

「何か景気の良い話だと良いですね!」

風太達は、関心無い雰囲気を装ってギルドを後にした。


 その翌日、風太は城に招かれていた。

「では、東部の廃村に仮設住宅を建ててスラムから働き手を移住させる計画は、この通りで!」

仙太郎が配った書類の解説を始めた。

事前に相談を受け、西部の廃村も一緒に視察していた鳥門は、驚きの余り持っていた湯呑みを落とし、熱いお茶を足に掛け大童だった。

 チラリと目配せしたのは、取り巻きの1人の土在だった。仙太郎から個人的に相談された開発計画なので流石に自分で買い漁る事は出来ず、自分の手の内にインサイダー取引をさせていた。資金は鳥門が提供しており、東部の廃村の権利を売ったカネも含まれていた。

 硬直した2人をよそに、開発計画の解説は続いていた、住宅と畑は3年間無償貸与、免税、鋤鍬等の支給、馬等も集落毎に貸与する等の優遇措置を発表した。

 スラム街の一掃に、『受け皿』が無いと反対していた鳥門だったが、数年掛けて、複数の廃村を再開発することでその指摘をクリア4年目からの税収をスラム街の再開発に充てる事で異論をシャットアウト。議会ではないので、即実施となった。

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