輿入
先ずは、北部の歴史を確認。長い歴史の殆どが戦国時代だった。50年ほど前に、八玉家が、北部を統一、30年間ほど平和路線で戦費を削り、農業やインフラ整備に充てていたが、魔物の大量発生で、八玉は求心力を失い、現在の戦国状態に戻ってしまった。
道端でボーっとしていた老夫婦に尋ねると、
「八玉の頃は3食喰えてたなぁ。」
かつては畑だった筈の荒地を見ながらため息混じりだった。
一応は日和見派の山丘でのリサーチでは、旧八玉の平和路線を懐かしみ、アンチ派の主力、明岩を敵視するイメージが強かった。
明岩直系の濃路領でもリサーチ。領民達は口を揃えて明岩を称えているが、鑑定すると『嘘』だった。ギルドの受付嬢に話しを聞くと、重税と強制兵役、ギルドへは超安価での傭兵募集(実質強制)で、領民は疲弊しきっている。流出防止で関所が強化されたりしてどんどん住みづらくなっているらしい。
逆に4家の評判は、どこでも好印象。旧八玉の直系なので、八玉復活を望む声も少なく無かった。
「護衛、請けたまんまで良さそうだね。」
風太が確認すると、
「ゴメン、ボクが面倒な事を言い出して、無駄足踏んじゃったね。」
「いや、その位慎重な方が安全だよ、悪事の片棒を担ぐなんてまっぴらだからね!」
方針が固まったので帰りがけに、居酒屋で見かけた襲撃計画の連中を片付けておく。
先ずは、オオカミの飼育施設で戦力を潰しておく。何も無さそうな山道を少し登ると、大きな倉庫のような建物があり、中はビッシリと檻が並んでいて、それぞれにはオオカミだけじゃなく、見るからに狂暴な魔物達が眠っていた。使役魔法で大人しくさせていると思われる。
監視は、倉庫の一角に物置小屋みたいな所があって、聞こえてくる声から花札の真っ最中らしい。そっと近付いて結界でロック。魔物達を始末して回った。外傷は避け、簡単に死因が特定出来ない様にして、気付かれないうちに姿をくらませた。その足で、襲撃犯のアジトに向かい、地下の弾薬庫を水没させた。留守番が全員地下に降りたので、こっそり物色し、襲撃の指示と見られる手紙をチェック。濃路の貴族が発信した物だった。行き掛けの駄賃?麓に隠してあった馬車も壊しておいた。
高智の別荘に戻ると、騎士隊長がやって来て、明後日に迫っている花嫁行列の護衛を打ち合わせを始めた。
「思ったより長いお出かけでしたね。」
「山丘で襲撃計画を小耳に挟んだもので、少し予防策を打っておきました。」
出会った時の魔犬の襲撃も濃路の差し金だった事も伝え、護衛の計画を見直し、親密派の領地のみにルート変更、ルート上にある危険ポイントに先行して、それらに賊が潜んではいないか、罠は無いかをチェックする事にした。
騎士隊の精鋭部隊が、新らしく設定したルートで徳鳥まで駆け抜け、要所を抑え、現地の騎士達と安全を確保。特に危険なポイントは、合流する街道に規制を掛けて、濃路からの戦力流入を阻止した。
さて、花嫁行列の当日。馬車を連ねて、高智の城を発った。日和見派の領地をパスしたので、5泊6日の予定が、3泊4日になっているが、そのままスタートした。初日の宿泊地に無事到着、一般の宿だが、しっかり結界を張って夜襲に備えた。
「だれの仕業だ!」
山丘の山中では、花嫁行列襲撃を企てていた連中が、濃路の騎士にこっぴどく罵倒されていた。襲撃の主力だった魔物は全滅、弾薬は水浸しで使い物にならない。肉弾戦しか残されてはいないが、赤岩からの指示は絶対なので、襲撃の中止は有り得なかった。
「こんな事も有ろうかと、高智にスパイを潜ませております、向こうはルート変更で安心しているので、アッと言わせましょう。」
山丘の参謀は高智に潜むスパイからの情報でルート変更は把握していて、規制の掛かった街道や、配置された戦力もしっかり把握していた。
「初日に泊まる宿が、民間の施設で防御力はほとんどありません、このルートなら、こちらから大量の戦力を送り込めます、山岳地帯を越えるので簡単ではありませんが。まさか、裏山から敵の騎馬が降りて来るとは思わないでしょうから、一気に蹴散らせます。」
桶狭間を知っているかの様な作戦だが、道中の険しい山道で殆どがリタイア、現場に到着した時には、ほんの10数騎になっていた。それでも、奇襲には充分と踏んで裏山の中腹で待機していた。
「よし、宿の灯りが消えたぞ、一気に駆け下りるんだ!」
参謀の合図で、騎馬隊が駆け下り・・・無い。一斉に嘶くと、騎士達を振り落とした。落馬の勢いそのまま、斜面を転げ落ち、待機していた高智の冒険者達に捕まってしまった。主力を失った濃路軍は、敗走を選択したが、暗闇の中、潜んでいた冒険者達が捕獲した。途中引き返した連中も、一本道をクタクタで下りた所にトラップ、漏れなく捕獲されてしまった。
しっかりと脅威を排除してから、
「じゃあ、姫を迎えに高智に戻りましょうか。」
「ミイは、クタクタだよ、お着物はもう勘弁だよ、帰りは私服で良いよね?」
姫の替え玉になっていた美咲は、緊張の糸が切れて大欠伸と共に愚痴を漏らしていた。
姫の鑑定で、濃路のスパイは以前からお見通しで、ルート変更や、宿泊地、護衛の状況までしっかり伝わるようにしていて、初日の宿が1番ガードが甘い事も筒抜けだが、行列に姫が居ない事や、冒険者の配置、その他諸々、肝心な事はナイショ。用意していた罠にしっかり嵌ってくれた。
濃路の参謀となると、赤岩でもそれなりの発言力を持つ重鎮なので、赤岩の関与が有ったことに、ほぼ間違い無いだろう。その辺は領主達に任せて、2日遅れで、元のルートで花嫁行列がスタートした。
市街地を通る時には、オープンカー?屋根の無い馬車に乗り換える。勿論アクセサリー類には重装備の防御力を付加しており、馬車まるまんま結界で護っている。完全防備で無事に徳鳥に到着した。
婚礼まで、3日あった余裕が無くなってしまったが、安全の確保と、敵対勢力の炙り出しに成功しているので、花嫁行列の目的は十分に果たしていた。
引き続き、婚礼でも警護を務め、宿をあてがって貰えたので、そこを拠点に、近隣の山を攻めていた。数日後、ギルドに顔を出すと、
「領主様がお会いになりたいとの事です、ご都合がよろしければ、明日の夕食に招待したいとの事でした。」
『よろしければ』とは言っていても、実質、登城の一択なので、悪足掻きはせずに、
「わかりました、お返事はどのように?」
「ワ、ワタクシが承りまシュ!」
役人風の若い男性は、棒読みで嚙みながら、迎えの馬車の説明をしていた。
翌日、迎えの馬車で登城。ご馳走が振る舞われ、ご機嫌な領主は、
「気に入った所に屋敷を構えて、永住しては如何かな?」
想定していたお誘いだったので、上手く切り抜けると、
「自由に飛び回って4家の領に滞在中は顧問として騎士隊に御助力頂くというのは如何であろう?」
想定外ではあったが、何とか断ると、
「まぁ、答えは我々の領も見てからで良いだろう?」
香州と受媛の嫡男、菊子姫の義兄達は、全く諦めた様子ではなかった。結局、2つの領を訪問する事になり、顧問の件はペンディングになってしまった。
香州迄の同行を求められたが、何とか回避、山攻めの合間に訪問することで納得してもらった。
次期領主達は、義兄弟同志で歳も近いので、和気藹々、将来を語り合っていた。平和志向で、アンチ派への対応も、力でねじ伏せるのではなく、共存共栄をベストに考えている。御飾りになっている八玉家の復興を第一に考えているのは、世論にも合致するので、パーフェクトな跡継ぎだが、何故か風太を師と仰いでいる。一般的には問題とはならないが、当の風太は、晩餐会以上に居心地が悪かった。引き受けた覚えの無い『顧問』扱いに困惑する風太は、山攻めの合間に訪問する事を約束して、なんとか解放されていた。
山攻めで更なる強化。風太が戦闘系を覚えられない事と、元々弱点だった所の伸びがやや鈍い事以外は順調に強化、究極の剣と盾も+40台となり、(風太基準で)龍の山も射程に入って来た。
北部の主要の山も、それぞれ龍が住んでいる。大平の攻略本には概要しかなく、風太のゲームの記憶が頼りだが、
「レベル的には問題無いね!」
超慎重派の風太がゴーサインなので、移動が便利な順に攻めていく。
楽勝ではないが、『2』でやり込んだ風太の知識はかなり有効で、着実に龍の山を攻略していった。レベルとしては、狩石で戦った龍と同等か、やや上と思われるが、攻めのパターンが少なく、ブレスは盾の龍除けの機能で防ぎ、魔力攻撃は同系統の魔力を盾に纏わせて吸収するが、究極の盾は、3系統の魔力を同時に纏わせる事が出来るので、2系統、3系統を操る龍に対しても、切り替え無しで受ける事が出来る様になっていたので安定した防御が確立していた。攻撃力も魔力アップと究極の剣で格段に向上、更には鑑定のレベルが上がっていて、攻めのポイントが解るので、やり込んだ『2』の応用で立てた作戦の裏付けねなり、効率良く龍達を倒していった。
北部をコンプし、西武の龍に挑む選択肢もあるが、
「流石に無視し続ける。訳にも行かないよね?どっちかに顔出そうか?」
「ちょっと待ってて!」
七海が地図とにらめっこを始め、
「ここから尾根のワープを使って一度下山して、次の山からまたワープすると、香州のはずれに下りられるね。」
「じゃあ、そのルートで!」
尾根のワープは、いきなり違う山の山頂に出るので、直ぐにボス戦。以前はどんなボスか慎重に選んでいたが、龍戦でも常に優勢で戦えていたので、今回は最短ルートを選択していた。




