表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

41/172

呪詛

「コレを受け取ってくれ。」

大平は、小振りのリュックサックから、革袋を取り出した。結界が施された革袋を開けると、ソフトボール程の珠が出て来た。

「龍眠の珠と言ってな、寝ている龍を起こさずに通過出来る珠なんだ。起きているヤツを寝かせたり、寝ているヤツを攻撃したりは出来ないが、かなり便利なモノだから、活用してくれ。それから・・・」

洞窟の取説?基地のようになっていて、見取り図や、結界の張り方等細かく記載されている手帳と、お手製の攻略本。風太は狩石の部分を読んで、ゲームの知識と、これまでの経験とを比較してみると、かなり精密な情報だった。狩石が2で南部が1作目のゲームにリンクしているのであれば、北部、西部は、3と4かも知れない。3は『カセット6400』、4は『Z-BOX』と違うゲーム機のソフトで、風太は数回クリアしているが、やり込みの域には達していない。取り敢えず、大平について南部の山に行くことになった。


 攻略本に気になる書き込みがあった。幾つかの山に〔○○山へ〕〔□□山より〕、更に詳しく見ると、大蛇の山には〔白龍の山より〕と書かれている。今居る緑龍の山からは、尾根伝いで目的地までワープする。

 その晩は一応客間になっている部屋に泊めて貰い、翌朝から緑龍を倒してから、解呪の旅にでる。

 緑龍は、翠蜥蜴と同じタイプの龍だが、かなり大きく、サイズに比例して強力だったが、攻略法に変わりは無く、大平の加勢もあり、あっさりと倒して、使える鱗を17個もゲット。

「いや、君達で使ってくれ。」

大平は自分の分前を拒否、葵の戦闘系をCに揃えてから、残りを均等に分けた。

「4人で連携する時ね、皆んなの魔力の合計みたいな技もあるけど、一番下のランクで強さが決まる技も有るから、また融通が利くようになったね!」

前回に続いて鱗配分係になっていた美咲は、鼻高々に風太に報告していた。


 そのまま下山せず、尾根伝いに雷虎(らいこ)の山に向かった。地図上はかなりの距離だが、白龍の山から、大蛇の山に行った時のように、一時間足らずで山の雰囲気が変わり、山頂に到達した。

 待ち構えていたのは、雷虎。名前の通り、雷土を武器とする虎の魔物。俊敏で剛力、雷土を纏った爪と牙が脅威。物理攻撃しか効かないと言うのが定説だが、大平の攻略本には、『雷土には雷土、高周波で体内の魔力を暴走させる。』とあり、四人は予め術を試していた。

 分身達が、囮になって、風太は弓で援護射撃。魔法担当の四人はコッソリ雷虎を取り囲む。お互いがはなった高周波の雷土魔法を盾で反射しながら包囲を狭めていくと、雷虎は苦しみ出した。

「なんか、電子レンジっぽくない?」

のたうち回る雷虎、届かずに地面に吸い付く様に落下する援護の矢、また、とんでもない技を開発したようだった。

 5分ほどの攻撃で雷虎はダウン、鑑定で【死骸】を確認して。毛皮、爪、牙、それに魔石を回収する。

 また下山せずにもと来た尾根を辿る。やはり一時間程で違う山。緑龍の山に戻ったのではなく、岩龍(がんりゅう)が眠っている。

「龍眠の珠の出番じゃ!」

いつの間にか翁口調に戻っている大平が風太を促した。

「岩龍はどこかで寝てるんですか?」

「そこに、居るじゃろ。」

大平が指した先は、山頂迄もう少しの『山』の一部に見えたが、ここが山頂で更に聳え立っている頂は眠っている岩龍だった。気配を消して眠っている様だが、それだけでも強さがヒシヒシと伝わってきた。勝算ゼロの岩龍を眠らせたまま、そっと下山した。

 下山だけで2泊、途中からは他の山を攻める冒険者もチラホラ。麓には整備されたキャンプ場と、乗り合いの馬車の停留所があった。

「明るいうちに、谷宗の街に着きそうじゃ、久々に風呂に入るとするか。」

2時間程待って、1時間揺られて街に着いた。大平は魔石やアイテムを次々と換金し、『最南端の宿』という高級感の溢れる宿を選んだ。海鮮グルメを堪能、大平は下戸なので、女性はほろ酔い、男性はシラフ。

食後に大平は、

「海まで付き合っておくれ。」

風太は理由も聞かず、二人で宿を出た。岬へ向かう路を歩き、途中、入っちゃ不味そうな脇道というか、薮に入って、しばらく歩くと

「ん?」

結界をくぐった感触がした。

「今、結界を通過したところじゃ、よう解ったのぅ。儂らのお気に入りの場所じゃ。」

そう言うと、リュックから大きな箱?棺を出した。

「秘薬を頼む。」

棺桶の蓋を外すと、美しい女性が眠っている。鑑定すると【死体】永遠の美と言う呪いだった。

 大平は、秘薬を受け取り、女性の顎に手を当て口を少し開いた。そこに数滴の秘薬が落とされると、女性は徐々に老けていき、生きていればの実年齢の容姿になった。

「ほう、効いているようじゃ、では、儂も。」

ベッドにもぐりこむように棺に入ってしまった。秘薬を数滴、口に垂らすと、

「うん、効いてるな。まだ何回か使えそうだな。」

小瓶を風太に返して、

「宿には、儂は食事だけで泊まらずに出ると言ってある、宿代は支払い済みだが、追加が出たら、そのリュックにカネがあるから心配すんな。じゃ、一生恩に着るぞ、まあ一生ったって、後ちょっとだかな。自分のケツは自分で拭くから心配いらんぞ、儂の命が尽きた時、自動的に火葬されるよう仕込んであるでな、夜明け前には満ち潮じゃ、朝には散骨って寸法じゃ。さあ、早くここを離れるんじゃ、では。」

棺の蓋を自分で閉じた。

 風太は、大平の決意を感じ取り、止めたりせずに、言われた通りリュックを拾って、その場を離れた。

 宿に戻り窓から岬の方角を眺めていた風太は、遠くからも眩しい程の炎を見つめ、冥福を祈った。


「おはよ、風太!お爺ちゃんは?」

「あ、うん、昨夜、天国に行っちゃったよ。」

「え?ちょっとの間でも一緒に旅をしてたミイ達に何もいわないで?」

「うん、呪いのとばっちりを心配してたんだって。」

風太は、大平に掛けられていた呪いの説明を始めた。

 永遠の美は、腐らない死体。荼毘に付しても眠っている様な姿に変わりは無かった。老人の姿での不死。解呪には、同じ呪いを誰かに掛ける事。大平は呪いの連鎖を自分で断ち切ろうと山に籠もって他人を避けて暮らしていた。呪い全解除の秘薬ならば、他人に迷惑を掛けずに済むと、一緒にここまで来ていた。風太だけを岬に誘ったのは、男女でいると、呪われてしまう可能性もあるかもとの配慮だった。

「色々お話出来たんだね。」

「いや、僕もいきなりでびっくりだったんだ、リュックに入っていった手紙っていうか、遺書みたいな、コレ読んだんだよね。」

遺書には、呪いの事の他、殺人や、自殺幇助の罪に問われない為の一筆や、ギルドに預けている供託金の払い戻しの書類等が揃っていた。

「じゃあ、ご飯の前に、お花供えに行こうよ。あ、お花屋さんまだか?」

朝食を食べて、花屋が開くのを待った。


 花を買って岬に向かった。昨夜感じた結界は無くなっていて、棺を燃やした筈の場所は満ち潮で海になっていた。棺の燃え残りや人骨らしき物は一切無い、ただの海岸だった。買ってきた花束を棺が置いてあったと思われる海に投げ込んで改めて冥福を祈った。


 街に戻って、ギルドで大平の死亡手続き。大平はこの街が気に入っていたようで、自給自足が出来ない物はここで調達、山で採った薬草等をここに収めて生活費にしていたらしい。

「仙人のお爺ちゃんですよね?はい、筆跡も間違いありませんね。念のためそのリュックの中の物を出し入れして頂けますか?」

美咲が中から札束を出すと、

「ありがとうございます。正式に譲渡された物でなければ出し入れ出来ませんので、確かめさせて頂きました。」

ものの10分で処理が済み、20万受け取ってギルドを後にした。


 大平の指示通り、乗り合いの馬車を乗り継いで、山を攻め、尾根を伝い、下山して乗り合いの馬車、また山を攻めて尾根を伝って緑龍の山に帰った。洞窟の家で一泊、下山しながら、

「馬は居ないよねきっと。マロンは元々野生だからさ・・・」

風太がボソッとこぼした。緑龍の山は1泊2で戻るつもりだったので、3日分の飼葉を用意してあり、それ以上になったら馬を放す仕掛けになっている。元々野生なので、きっと自由に過ごしているだろう。

 キャンプ場に着くと、結界でキーブしてある馬車はそのままだったが、やはり馬はいなかった。取り敢えずテントを張って、問題は先送りにして、夕食の支度。

 現実逃避のまま、灯りを消して魔力開発。今夜は葵のローテで、風太のヒールがついにAになり、葵の水系を開発したところ、ランクが上がる迄には至らないが、大きな改善が見られた。

「馬車は諦めて、街道まで歩いて、ヒッチハイクで街に行くのが、一番負担少ないかな?」

「街道まで馬車を押して、大きな荷馬車とかに、牽引して貰ったらどぉ?私、そんなシーン見た気がするわ。」

色んな事を話し合ったが、実現可能なのはこの2案。朝、皆んなで決める事にして眠りに付いた。


「ヒヒィーン!!」

目覚ましは、馬の嘶きだった。

「ボクの案が採用だね!何か賭けておけば良かった」


昨夜の3人テントの話し。

「あたしは、街道まで歩いてヒッチハイクが良いかな?」

「ミイは、馬車を押して行ってさ、盗賊を返り討ちしてお馬さんゲットってしたいかな?」

まぁ、風太達と変らない案だった。

「ボクは、マロンを待つのが良いと思うよ。」

二人は無理だと言い、七海もそう思っていたが、

「希望を持つだけならリスクゼロでしょ!」

ジョークの比率が高目な事を笑顔で示していた。


 マロンは、馬車に繋ぐ位置に自分で移動、葵が繋ぐと首を寄せる、

「撫で撫でして欲しいの?」

撫でられて幸せそうなマロンに、皆んなで1つずつリンゴ(っぽい果物)をあげて、帰還を歓迎した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ