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増員

 早速依頼を請けようとボードを物色していると、

「ビートルって何処攻めてるか解りますか?」

「あ、確かお友達がいらっしゃるパーティーですね?少々お待ち下さい。」

受付嬢は、パラパラと書類を捲り、

「西の山ですね、ついさっき発っていますよ、火鼠の捕獲です。」

「きっすう、同じの請けていい?」

「陽菜さんが良いなら。」

「陽菜さんじゃなく陽菜ね!」

くるり振り向いて、

「じゃあコレ請けさせて頂きます!」


 特に理由は聞かず、西の山に向かった。下着を買うのを後回しにした陽菜には思うところが有るのだろう。

 馬車はレンタルで、黒字になるには、かなりの数が必要だろうが、軌道に乗るまではこんなもんだろうと風太は割り切っていた。

「前のパーティーの人達、どうしてかな?きっすうの言うことすんごく聞いてたよね?」

馬車に揺れながら陽菜が呟いた。

「あれ、多分ね交渉が上手くいくような魔法のせいだと思うよ、何か魔法を掛けられたんだけど、コレで反射したみたいなんだ。」

風太は二の腕に着けている反射の盾の説明をした。強い魔法はムリだが、自分に掛けられた魔法を跳ね返し、術者に掛かってしまう能力がある。陽菜は半分位納得したようだった。


 かなり飛ばして、カブトムシマークの馬車の隣に馬車を停めて、登り始めた。

「ギルドに着いたとき、すれ違いで出て行ったんだけど、男の人達の雰囲気が、あたしをオークションに出そうとしたときと同じに感じたの!」

それだけ言うと、ピタリと寡黙になり、ドンドンと山道を登った。塾では魔法だけじゃ無く、体力トレーニングもするので、遠足で涙目になっていた陽菜と同一人物とは思えなかった。


 目星をつけた山小屋迄ノンストップ。山小屋を視界に捉えたとき、悲鳴が聞こえ猛ダッシュ。中から閂が掛かっていたが、陽菜は、扉の隙間から閂だけを焼き切った。

 3人の男が押さえつけ、

「何でスカートじやねぇんだよ!」

一人がベルトと戦っていた。陽菜は手に魔力を込めると、人差し指から小指指先が赤く光り、徐々に膨らんで、ピンポン玉位になると、タンポポの綿毛を飛ばすようにフッと吹いた。次の瞬間、男達の髪が燃え上がり、のたうち回っていた。 


「陽菜!ありがとう。ん?きっすう?」

見覚えの無い青い髪の長身の美少女は、話の流れから、七海であることに間違い無い筈だが、陽菜同様、別人になっていた。

 髪、メガネ、マスク、長袖、ロングスカートでの防御は陽菜と同様で、背の高い七海は、いつも猫背で、陰キャに拍車をかけていた、裸眼になって、塾のトレーニングでアスリート体型になった七海を一応確認して、殴られた頬と抵抗した時の傷をヒールした。

「逞しくなったでしょ?スポーツ大嫌いだったけど強制的に走らされて、慣れてきたら楽しくなっちゃったんだ!」

性格まで、別人だった。パーティーに誘うと、二つ返事で参加が決まった。

「ちょっと微妙だけどボク達っぽいかな?」

パーティー名の『マン研』も許容範囲のようだった。


「ふざけやがって!」

坂下(さかした)さん!後ろ!」

これから攻撃するって宣言するようなものだから、黙って魔法を撃ち込む方が成功率高いと思うんだけどな、と、風太は呆れていたが、今回も恒例で、叫んでから一応奇襲。結界で防ごうと思ったら、男達の両手が凍り、魔法攻撃は来なかった。

「アレ?思わず目一杯の魔力使ったけど、全然平気だわ?一晩は寝込むレベルなのに?」

まぁ、結果オーライ。髪を焼かれ、両手が凍りつくと流石に戦意喪失。お互い関わらない事を条件に暴行未遂は不問にした。


 正式ではないが3人パーティーになり、ミッションを継続する。

「ねぇ、きっすう、陽菜って呼んでたでしょ?ボクも七海がいいな!」

風太は快く受け入れるが、逆は陽菜とコピーの様な反応で『きっすう』のままだった。

 七海を追って請けた依頼で、陽菜の特性では、苦労必須だが、七海の水系、特に冷凍魔法があれば、楽勝の相手だった。

「毎回、1発で気を失っていたから、また撃てる気がしないんだけど、大丈夫かな?」

巣になっている枯れた大木を丸ごと冷凍、朽ち掛けた幹を丸太で叩くと、ガラガラと崩れ、凍死した火鼠を苦もなく回収。馬車のレンタル費を差し引いても、普通の(・・・)安宿に余裕で泊まれそうだ。


 ギルドに戻って報告と納品、予測より誤差程度高く買い取って貰えた。馬車を返して宿を探す。馬車を借りたまま、郊外のキャンプ場でも良かったが七海がシャワーを希望したので宿に決定。昨日よりは早い時間だったので、余裕と思っていたが、どこも満室だった。

「昨日のトコ、行って見よっか?」

「3人で大丈夫かな?」

行くだけ行ってみることにした。


 追加料金で3人もOK、追加のパジャマとゴム製品を七海が受け取って、極当たり前のように、ポケットにしまっていた。

 最後にシャワーを浴びて出てくると、二人はベッドの両端をキープ、真ん中しか選択肢の無い風太は、どっちにも寝返りができないと心に誓ってベッドに入った。


「ねぇ、きっすう、美咲も誘って良い?」

「やっぱ、七海もそう思う?良いでしょ?きっすう!」

こんな弱小パーティーに誘うのは迷惑かと思っていた風太だったが、2打数2安打で酷いパーティーに引っ掛かっているので、貧乏でも、売られたり、襲われたりするよりはマシだろう。二人は具体的には言っていないが、きっとその心配だろう。早速、明日スカウトに行く事にして、緊張と共に消灯した。


 誓った通り、寝返り無しで通す事が出来たが、二人とも寝相のいい方ではなく、結構な頻度で接触、心を無に理性を保ち、一睡もせずに朝を迎えた。


 ギルドには行かずに塾に直行。3人ともここの出身者だが、学校で言うところの進路指導の先生が対応してくれて、

「スカウトの資格はご存知ないんですね?」

基本、個人でBランク以上が所属し、 Cレベルの依頼をコンスタントに熟す実績が必要との事。

「じゃあ僕等じゃ無理なんですね?残念ですねぇ。」

帯が掛かったままの札束をテーブルに置いて、ちょっとだけ視線を合わせてスッとしまった。

「ま、あくまでも基本的にって事ですから!」

暫く世間話をして、丁度入ってきた陽菜と七海を視線で指して、

「あの二人のパーティーも貴方が斡旋してくれたそうですね?」

「そ、そうでしたかね?」

「ええ、陽菜は娼館のオークションに掛けられそうになって、七海は山小屋で襲われそうになったんです、どういった基準で斡旋されてるんですか?」

「実績と将来性を、ですね、えっと・・・」

廊下で待機していたのは今の二人だけじゃ無かった。

「気になる話が聞こえたな。」

塾長が登場した。

 後のお話には然程興味が無いので、美咲の荷作りの手伝いに行った陽菜と七海を寮の玄関で待った。


 久しぶりに会った美咲も、すっかり明るくなっていた。小柄で華奢なのは変わらないが、小学生と間違われる程の完全幼児体型から、少しアクセントがついて少しは実年齢に近づいていた。

 風太が塾を出た頃は黒髪のままのだったが、潜在していた魔力が発現したせいか、濃い目の金髪になっていた。

「金髪なら、オールマイティーだよね?」

「きっすう、そんなイジワル!だったらミイだけ塾に残ってる訳ないじゃん!」 

美咲は、プッと頬を膨らませ、マッチ位の炎、霧吹き位の水、手のひらで扇いだ位の風を続けて披露した。

「コレが目一杯なの。塾にいる間に、誰かが金の龍を解放してくれるのを祈ってたわ!」

「僕等も、イヤイヤ、僕もFのままだけど、チョットずつ出来ることが増えてるからさ、一緒にがんばろうよ。」

「うん、よろしくね!でも、『僕等』を『僕』に言い直したのって?」

「あぁ、コントロール苦手の陽菜が、扉の隙間から閂だけ焼き切ったり、暴漢の髪だけ焼いたり出来たし、七海も魔力量が少なくて直ぐに枯渇してたのに、結構上位の魔法を連発してたんだよ。」

お喋りしているうちにギルドに到着、七海と美咲の登録して、正式に4人パーティーとなった。

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