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赤龍

 転移塾に到着。陽菜と七海の件で、妙な斡旋を指摘して塾長と面識が出来て、『何かあったら直接』とのお言葉を頂いていた風太は、その通りに塾長を訪ねた。社交辞令と思っていたが、応接室に登場したのは本当に塾長だった。

「その節は、お世話になりました。」

風太が用意していたセリフを塾長が先取りした。風太の驚きを読み取った塾長は、

「あの一件、いや2件でしたね、古くから、人身売買紛いの斡旋で私腹を肥やしていた職員を炙り出す事が出来たんですよ。」

 唯衣が一人だけ生き残って、パーティーを畳んだ事を告げると、学校で言う所の担任みたいな職員が呼ばれた。唯衣の通信簿?カルテ?ここで訓練していた頃の記録を確かめて、

「そうですね、あまり戦闘向きではないですよね?直ぐに仕事を見つけるなら、農家さんの手伝いですかね?外仕事で体力勝負ですけど。」

「ぜひお願いします!」

「ここの出身の方が独立して運営している畑もあります、えっと・・・」

別の書類をパラパラ捲り、

「・・・あ、有りました、まだ決まってませんね。奥様がご懐妊で、助っ人を探している方がいます、そこならきっと喜んで受入れて貰えます!住み込みなので寝泊まりの心配も有りませんし!」

特に具体的な要望もない唯衣は、そこでお世話になる事に決め、風太達は赤龍の山へ向かった。


 塾に残った唯衣は、職員に連れられ、農家を訪れた。『FARM SASAKI』看板を見た唯衣は、まさかと思ったが、出迎えた長身の男性は、そのまさかだった。

「唯衣?唯衣なんだな!久し振り!冒険者は?部の皆んなは?」

「そんな、立て続けに聞いても、唯衣ちゃん困ってるじゃない。」

駿の暴走にブレーキを踏んだのは、男子バレー部マネージャーの長谷川(はせがわ)(あん)、目立ち始めたお腹から、佐々木(ささき)に変わっていることは容易に想像出来た。

「お知り合いでしたか!それは好都合ですね、では私が紹介する必要もありませんね。では、私はこれで!」

職員は唯衣を置いて、さっさと帰っていった。


 時は、V5結成時に遡る。

「俺、魔物と戦うのはムリっぽいな、唯衣も戦闘向きじゃないからさ、残って一緒に農家にならないか?」

多少、適性が足りなくても、剣と魔法の世界で、それを使った職を選ぶのが主流の中、いきなりの農業選択は、かなりの弱腰と考えられる。体育会系は魔力が強い傾向で駿もそれなりのレベルはあったが、戦闘を嫌い農業を選んだ。元の世界から付き合っていた唯衣を誘ったが、彼女は冒険の道を選んだ。一方、唯衣は男子バレー部員で結成予定のパーティーに自分も参加すれば、駿の考えも変わると考えていたが、二人のギャップは埋まらず、別々の道を歩んだ。

 

 元カノVS妻の対決は、意外とあっさり解決する。

「わたしね、駿と唯衣ちゃんのこと知ってて猛アタックしたの。で、駿の出した条件がね、唯衣ちゃんが帰ってきたら、唯衣ちゃんに第一夫人譲るって事なの。」

「あたし、色々あって駿くんのお嫁さんに相応しくないの、予定通り住込みで働かせてもらえるかな?」

「うん、唯衣ちゃんがそうしたいのなら!じゃあ先ずは歓迎会ね!」

 この時の唯衣は全く想定していなかったが後に、パーティーでの出来事を打ち明け、第二夫人として一緒に暮らすことになる。


 さてマン研一行。いつもの様に馬車を走らせ、いつもの様に盗賊の類に襲われ、いつもの様に返り討ち。なかなかの稼ぎで赤龍の山の街に到着した。

 いつもの様に途中で寄り道して採っておいた薬草類をギルドに納めて、小銭と情報を貰う。

「少なくとも、私がここで働く様になってからは、聞いた事ありませんね。『燃え上がる爪』ですよね?少しお待ち下さい。」

ギルトの受付嬢は、奥に行って冒険者風の年配男性を連れて戻った。

「最後に赤龍が倒されたのは、60年位前だ。俺が産まれる前の年の筈だから、正確には63年前だな。」

 赤龍を倒して魔石を奪うと、次に発生するには30年掛かるので、念のため確認。ギルトの隣の宿に泊まって、早朝から山を攻める。


 食事をしながら、赤龍対策を話し合う。

「あたしが炎の盾で攻撃を吸収して、七海と美咲の水魔法でやっつけるんでしょ?」

「今回はちょっと違うんだ、ブレスの他には飛び道具が無くてね、攻撃は炎を纏わせた爪だけなんだ、勿論ブレスは強力だけどね、盾で防げる。その点では戦い易いんだけどね、ラスボス以外に少し小さいのから、うんと小さいの迄赤龍がわんさか居てね、うんと小さいヤツでもかなり強いんだよね。水魔法しか効かないし、最後は物理攻撃で首を落とさなきゃならないんだ。」

作戦は、ブレスを龍除けの盾で対処、水魔法で纏った炎を消して物理攻撃。水魔法を覚えた陽菜も含め、魔法担当に、分身たちが剣でサポート、風太と葵は弓で援護射撃。(やじり)には水の魔力がこめられている。


 さて、赤龍の山。

陽菜と賢太、七海と運太、美咲と論太でペアを組んで、小さい赤龍に立ち向かう。

 登り始めて数分で大型犬位の赤龍が現れた。一般的な山なら、雑魚が出てくるシチュエーションだが、1番小さいこのサイズでもCランク相当の脅威がある。先制攻撃のブレスを風太の盾が捌くと陽菜達は左、美咲達は右に展開して氷の矢で包囲、炎が消えた所で分体たちが斬り掛かった。首はあっさりと落ちて、作戦の手応えを感じ、更に登って行った。その後何度か、同程度の赤龍が現れ無難に倒し、複数同時にでても対処し、ポニーサイズになり、サラブレッドサイズになってもなんとか熟していた。


 5合目辺りで陽が落ち掛けて、寝床を探す。小さな洞穴を見つけ、中の安全を確認してから、入口を水晶玉で補強した結界で塞ぎ、3人用テントを無理矢理張った。

「私、全く出番無かったから、見張りは任せてね!ふぅもちゃんと寝て、回復してね!」

葵は見張りを買って出て、4人をテントに押し込んだ。


 深夜、風太は見張りの交代でテントを抜け出した。

「朝まで任せて!ふぅも疲れてるでしょ?」

「爆睡で復活したから大丈夫だよ。これからもっと強いヤツが相手だからさ、万が一に備えて、葵も万全でいて欲しいからさ、今からでも休んでよ。」

「うん、解った。じゃあココ座って。」

葵が自分の隣をポンポンと示した。風太がそこに座ると、手を繋いで指を絡め、肩を枕にして、

「じゃあ、おやすみなさい。」

そっと目を閉じた。


 東の空が白んで来た。風太は朝食の支度をしようと、葵の手を解こうとしたが、なかなか上手くいずに起こしてしまった。

「フフ、きっと朝ごはんの支度始めると思ってね、こうやっておけば、一緒に出来るでしょ?」

繋いだままの手で小さくガッツポーズをした葵は、風太と食事の支度に取り掛かった。


 珍しく寝坊の3人を起こす。

「・・ょぅ、風太、もう朝なの?」

寝ぼけまなこの七海がノビをすると、陽菜も目覚めたがボーっとして反応なし、

「なんか、キモチ悪い。悪阻(つわり)かしら?」

気だるそうに美咲も起きた。風太は聞こえないフリをして朝食に誘った。


「ミイは酸っぱい物が食べたいな。」

妊婦ゴッコを継続していたが、

「それ、『魔痛』よ!魔法の使い過ぎで、普通の運動で言うと筋肉痛みたいな感じね!私も教会で重症の患者さんをヒールした時によくなったわ、午後には治ると思うよ。でも今日は無理しないほうが良いわね。」


 洞穴で、一日のんびりして英気を養う事になった。水や食糧は充分だが、トイレが問題。そう思うと、風太の頭に『?』が浮かんだ。気になっていた事を葵に聞いてみた。

「あのさ、女の子に聞くような事じゃないと思ってさ、聞いてなかったんだけど、山攻めの時、トイレどうしてるの?」

風太の記憶では、葵だけ(・・)トイレ休憩を求めた事はないし、他の3人が藪に隠れても、葵は連れ○○ンしていなかった。

「んとね、出すものをね、魔法で転送するの。オニオン5の頃にね、山で困ってたら、たまたま居合わせたお姉さんが教えてくれたのよ。娼館の娘にも聞かれて、教えてあげたんだけど、誰も上手く行かなくて、お部屋を汚したり、お漏らしみたいになっちゃったから、黙ってたんだよね。」

ダメ元で試すと、3人ともあっさりと成功、風太は大きい方だけ成功した。


 久し振りにのんびり1日を過ごした。見張りの為に風太と葵が交代で仮眠をとった位で、あとは遠足気分。結界越しではあるが、山の景色も味わってリラックス。

「ねえ風太、黄龍と碧龍はさ、しっかり黄色と青だったけどさ、赤龍って、あんま、赤くないよね。赤レンガよりも茶色だよね?」

陽菜は少しがっかりした様子でボヤいていた。

「ラスボスは真っ赤だよ!やっぱ同じ炎使いとしては、赤龍だけ地味なのはイヤだった?」

「うん、まあ、そんなトコかな?」

他愛のない話で時は流れ、日の入りに合わせて葵が目を覚まし、洞穴の2泊目がスタートした。


 平和な夜を過ごし、東の稜線が赤く滲んだ。見張りは風太に交代していて、葵は隣で居眠り。

 風太は、葵を起こさずに料理するのは諦めて、起こして一緒に始めると、テントの3人も起きて来た。

「うーん、スッキリ!なんかカラダが軽くなった感じ!」

陽菜がストレッチすると、

「柔らかくなった気がする!」

美咲もアクロバティックな柔軟を見せた。

「パワーアップした?風太、何かしたの?」

七海は風太のサポートがバージョンアップしたと思っていた。

 鑑定すると、『経験値』の値がグッと減っていた。ステータスに現れる様になってから、ジワジワと減っていたし、上位冒険者の方が少ない数値だったので、減ったのが経験値か上がったことになるのだろう。悪い変化ではないので、落ち着いてから考える事にして朝食を済ませた。

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