剣葬
陽菜の水系魔法を確かめながら、7合目に有るショートカットの出口をめざす。最初は戸惑っていたが、
「ホースで水撒きする感じで、先を潰してピューって強くする感じをイメージしてみて!」
七海のアドバイスであっさりマスターしていた。
8合目辺りまで下ると、魔物が争う気配。そう頻繁に冒険者が登る山ではないので、魔物同士の争いと思って、決着が付くのを待っていた。手負いの勝ち残りを倒して両方のアイテムゲットのつもりでいた。
「うわあああああ!」
明らかに人の声、V4の誰かだろう。慌てて加勢して、魔物は倒したが、生死不明で地面に転がったV4メンバー達は手足が揃っている者は居なかった。風太は慌てて回復剤と増血剤をポーチから出したが、葵は首を振って制止した。
「西野君はまだ生きてるわ、でもムリかも。」
それでも風太は助かる見込みがある西野に薬を飲ませ、分身を出して、葵へのサポートをアップさせた。なんとか心肺が再起動、ヒールを続けると意識が戻った。
「なんで、こんな所に居るんだよ!ギブアップしたから下りたんじゃなかったのかよ!」
「ああ、お前らの後つけて来たら、魔物と戦わずに済んだからな、Fランクでもサクサク勝てるカラクリを盗んでやろうと思ってな。それにな・・・」
また意識を失ってしまった。
ヒールを交代した風太は、魔物を解体して、喰われた手足を探し出した。亡くなった3人の分は一緒に火葬するために、西野の分はヒールで繋いでみた。切断部が消化されてなかなか上手く付かなかったが、葵の渾身のヒールで見かけ上は繋ぐ事が出来た。
西野を動かす事が出来ないので、佐久良が魔力封じに使っていた水晶玉で結界を補強して、無理矢理キャンプスペースを作った。夜通し交代でヒールを続けたが、未明に唯衣からバトンを受けた風太は、ヒールをしながら、治療の役に立つかともと鑑定を試みる。読み取った結果は『死体』。名前もレベルも何も見えず、ただ『死体』という二文字だけだった。
朝食の支度をしながら夜明けを待つ。陽が昇って皆んなが起きて来ると、多分交代から眠っていなかった様子の唯衣もテントから出て来た。
「えっ?ダメだったんだね。あたしのせいかな?死んで欲しいとは思わないんだけど、生きて欲しいとも思えなくて、思い切り魔力を込めた筈なのに、フワっと散っていく感じでね、上手く出来なかっ・・・」
嗚咽で聞き取れなくなってきた唯衣の言葉を、七海がハグで遮った。
4人を荼毘に付し、見晴らしの良い所に埋葬、墓碑代わりに剣を立てておいた、『剣葬』と言って山で命を落とした冒険者の一般的な埋葬だ。
予定より半日遅れて、再び下山を開始した。陽菜は水系魔法を使い熟し、危なげ無く7合目に到達、ショートカットの裏道に入った。
偶に雑魚魔物が出る程度で急な斜面をひたすら下りる。膝がガクガクと大爆笑。ところどころにある洞穴が丁度よい休憩所になり、深夜まで歩き続けて麓に辿り着いた。そこにもう一泊、V4の大きなテントが有れば良かったのだが、魔物に襲われた時に、駄目になったので、3人テントに唯衣が加わってギシギシで寝る。風太は七海と2人テント、喪中の雰囲気なので、何も期待していない風太だったが、七海がハグを強請った。
「ボク達だってああなっちゃうかも?だよね。」
「うん、そうだよね。1番確実な作戦で挑むけど、実戦は『絶対』ってことは無いからね。」
七海のクリンチの強さが増し、風太もそれに応え、そのまま朝を迎えていた。
ギルトに行って薬草を納品。唯衣はメンバーの死亡届けと、パーティーの解散、フリー冒険者として登録、馬車と馬や、積んであった物を処分した。預けていた供託金を含め、150万程になると、
「アイツに使った薬って、メチャ高いヤツでしょ?」
風太に渡そうとした。
「それは退職金として貰っておくと良いよ、これから直ぐに収入があるか解らないでしょ?」
「いや、でも・・・」
「じゃあさ、外食のとき、ご馳走になるってどう?」
葵の提案で交渉成立。転移塾迄は寄り道しない予定で2泊3日。ランチを5人で3食位ならちょうどいい良い負担だろう。
日没ギリギリ迄馬車を飛ばしてテント泊。朝日と共にスタートして、唯衣の奢りでランチ。
「ねえ、来生君。お昼あたしが払っても、昨夜も今朝もご馳走になってるからさ、ドンドン借りが膨らむんですけど。」
「5人分も6人分も大して変わらないから気にしないでよ、大体、あの薬使ったのも、自己満足?V4と別れる時、ちゃんと説明して、安全な所迄送れば良かったとか、襲われていたときも、気付いて直ぐに助けに入れば助かったかも知れないとかさ、後ろめたさをちょっとでも薄めようとしてたんじゃないかと思うんだ、だからさ、ホント気にしないでよ。」
他の皆んなは、同意を示す微笑み。
「じゃあ、甘えさせて貰うね。」
順調に馬車は進んで2日目の夕方、
「もう少しで陽が落ちちゃうけどさ、1時間位で、ちゃんとしたキャンプ場があるんだ、そこまで頑張っていい?」
「じゃあ、あたしが運転するよ。来生君、ずっと御者台で疲れてるでしょ?」
ナンパや盗賊対策でそういう心配がある時は専ら風太が手綱を取っている。『薄暗いから大丈夫かな?』風太は唯衣の『役に立ちたい』オーラに負けて御者台を譲った。
10分も走っただろうか?
「お嬢さん、手綱代わりましょうか?」
唯衣が無視していると、馬車を寄せて座席を覗き込んだ。
「おう、大漁大漁!先ずはお兄ちゃん、オネンネしてね!」
風太を狙った魔法は、術者に跳ね返りパタリを意識失って馬車から転落、馬が暴れ出した。御者台から落ちた男は、意識の無い状況でかなりのピンチだろう。座席から飛び出してきた3人は美咲のスタンガンで対応、つられて暴れ出した自分達の馬は、急に大人しくなった。
「あ、上手く出来た!」
小さくガッツポーズした葵は、
「幸福感増強の魔法を掛けて見たら、落ち着いてくれたみたい!」
先に暴れた馬も鎮めたので、風太はノビた男達を鑑定。お尋ね者リストにある人攫いの連中だった。しっかり拘束してからヒール。念のため余罪を追求、お尋ね者に間違い無い事を確認してから、アジトや人身売買ルート等を聞き出す。陽菜と七海の雷土魔法の練習を兼ねて、スタンガンで回答を促した。
「ちょっと強すぎね、失神しちゃうとお喋り出来ないでしょ?」
「ゴメンゴメン、死んでないわよね?」
身の危険を感じたようで、直ぐに洗いざらい吐いていた。
アジトに案内させ、捕まっていた女性と、お宝や現金を根こそぎ回収して、残りの仲間を待った。
夜更けに戻った人攫いのもう1班の4人も捕まえ、そのままアジトで一泊。早朝からギルドの在る街に向けて馬車3台を走らせた。
ギルドに着いて報告と精算。お尋ね者の賞金は予想通りの80万程だったが、助け出した女性が、豪商のお嬢様で、懸賞が掛かっていたので、プラス500万、馬車やお宝を売り払って200と少し。一気に目的地には届かない中途半端な時間なので、そのまま宿を取った。
普通は無理して4人かな?って部屋が取れて、女子5人無理矢理泊まり、風太は2人部屋にゆったり。普段からこのパターンを主張している風太は久々のリラックス。早速爆睡してしまった。
女子部屋はまたまた修学旅行。色々お喋りして辿り着くのはやはり恋バナ。唯衣が核心を突く
「やっぱり、誰かが来生君と付き合ってるの?」
「うーん、ミイ達は皆んなそのつもりなんだけどね、風太はおねだりしなきゃ、チュウもしてくれないんだよ!」
「え?達って言った?」
「ああ、コッチは一夫多妻オーケーだからね、アッチじゃ葵一択でボク等にチャンスなんて無かったから最初から諦めてたけどね。」
「その頃から好きだったの?」
「妖怪トリオって言われてたあたし達でも、普通に接してくれるのって風太だけだったからね。」
「葵はそれで良いの?独占したいとか思わないの?」
「私ね、一度世捨て人になったの。私が捨てた『世』をね、ふぅ達が拾って届けてくれたんだ。だからさ、5人で居られるのが嬉しいんだよね!」
「そうなんだ、あのさ、いや何でもない!」
「えーっ、今えっちな話しようとしたでしょ?ミイの目は誤魔化せないぞぉ!」
唯衣は少し迷ってから話しを続けた。
「好きな人に抱かれたら、嬉しかったり、気持ち良かったりするのかな?アタシさ、あいつらに無理矢理ヤられてから、そのまま当たり前みたいに毎晩輪姦されてたから、苦痛にしか思えないんだ。」
「まだシてないから解んないけどね、ハグとか幸せだからさ、きっと嬉しいと思うよ!葵で童貞を卒業したい筈だからさ、葵がもっと積極的になってくれるとボク等の番が近付くんだけどね!」
七海がプレッシャーを掛けると、
「ふぅのペースに合わせるのが良いと思う・・・」
「ボクもそう思ってたけどさ、この世界、元の世界と比べて、圧倒的に死との距離が短く感じるでしょ?V4達を見ちゃったら、生きているうちに出来ることはしておきたいって思ったんだよね。」
七海は、葵が風太と良くしているグータッチで応援の意を示した。
「今からでも、風太の部屋に行く?ミイも応援するよ!」
「あたしもそれが良いと思うけどさ、葵がこの状況から部屋を移れる訳無いじゃん、葵のローテの時まで待とうよ!」
陽菜は助け船を出したような、次のローテにプレッシャーを掛けたのか微妙だったが、ニッコリ笑顔とウインクから、葵は後者と捉え、気合を入れて、陽菜ともグータッチ。和気藹々の4人を見て唯衣は、ダメ元でも駿に会いに行く事を心に決めた。




