結成
風太は、乗り合いの馬車にガタゴト揺られ、転移塾のある町に到着。懐かしいという程は滞在していないが、取り敢えずの土地勘はあった。
馬車を降りて、塾に向かった。見覚えのある街並みの筈だったが、どうやら大人の街に紛れ込んだようだ。窓から露出度の高いお姉さんが手招きしている。
早く通過しようと、速足になったが、
「助けて!」
悲鳴と共に、赤毛の女性が走ってきた。全裸?いや下は紐くらいの下着?上は両手を組んで隠しているので、速く走れない。直ぐに追い付かれそうなので、風太はリュックから毛布を出して、追っ手との間に割って入ると、二の腕に付けている反射の盾が反応した。
「借金のカタに娼館のオークションに掛けるんだ、大人しく返してくれれば、兄ちゃんには迷惑掛けん。同じパーティーだったんだ、本人も了承して合法だぜ!」
赤毛の女性は風太の背中に貼り付いて震えていた。
「借金って、どれくらいなんですか?」
「えっと・・・」
あとから追い付いた男達と相談して、
「200万だ、魔法を暴発させてギルドの壁をぶっ壊したんだ。」
「それ、僕が払ったらどうなります?」
「兄ちゃんの好きにしていいぜ、でもそんな大金持ってるのか?」
「じゃあギルドに行って、詳しく聞かせて下さい。」
「おお、君達か、応急処置は出来たし、修理費はギルマスが値切ってくれたんで60で済んだよ、分割でも良いし!」
ギルドの職員さんの話を聞いて、
「ソレ、僕が払います。これで、この人は解放ですよね?」
「ん、ああ、そうだな。」
不服そうではあるが、反論出来ない男達は、渋々了承しギルドを出ていった。
「実は僕、最近パーティーをクビになっちゃったんです、良かったら僕と組みませんか?」
「オッケー、喜んで!でもきっすう?なんで敬語なの?」
「え?」
来生を『きっすう』と呼ぶのはマンガ研究同好会、マン研のメンバーくらい。
「もしかして徳本さん?」
ほぼ全裸に毛布を羽織っただけなので、視界に入れるのを避けていたせいもあるが、記憶の彼女とは別人だった。
「うん、徳本陽菜、陽菜って呼んで!」
「オッケー、じゃあ僕も風太で!」
「ち、ちょっと恥ずいからきっすうじゃ駄目?あたしも徳本でいいし・・・」
「ふふ、陽菜ときっすうにしようよ!」
風太は、リュックから取り敢えず着られる物を出して、陽菜を更衣室に送り込んだ。
風太は、受付で陽菜が元のパーティーを脱退していることを確認して、パーティー結成と手続きをした。取り敢えず、外を歩ける格好になった陽菜も加わり書類作成。
「パーティー名、何がいい?」
「きっすうに任せるよ!」
風太は少し悩んで、
「うん、『マン研』でどうかな?」
「微妙だけど、あたし達らしいかもだね!」
二人はギルドの近所の居酒屋で夕食。
「あたしだって、気付かなかったでしょ?」
髪、メガネ、マスクで顔は殆ど見えていないし、夏でも長袖、校則を犯してまで短くするのが主流の中、くるぶしまでのロングスカートだったので、気が付く方が難しいだろう。大体かなりの減量で、本人だと聞いてからも別人に見えている。更には陰キャのコミュ障だったはずが、会話をリードするようになっていた。
「うん、変身って感じ。」
「救済だと思う?」
救済とは、転移の時に困った事を聞かれて、コッチの世界ではその件が救済されるシステム。弱点が平均的位に改善される。ただ、理由も何も説明無く、聞かれるので、必ずしも、コッチの世界で役に立つとは限らない。因みに蓮は数学、大樹は英語、翔太は朝寝坊が救済されている。
「あたしはね、視力。コッチの平均らしくって、多分1.5とかになったんだよ!」
ダイエットは、塾の食事が少なく、間食したくても手に入らないし、強制的にトレーニングさせられるので、自然に引き締まったそうだ。都合よく、残って欲しい部分は実ったまま、逃げて来た時の映像を思い浮かべてしまった風太は、トランクスの中が窮屈になっていた。
「きっすうは?」
風太は誤魔化そうとしたが、分厚いメガネで、小さく見えていたけど、実質は大きな裸眼で見つめられると、隠し通す自身が無くなった。
「実は・・・」
風太は、葵の唯一の弱点、貧乳を答えていた。
「えっ?恥ずかしそうにしてたから、ソレかと思った!」
陽菜の視線はグッと下って、窮屈になった部分を捉え、一拍おいて真っ赤になっていた。
「自分以外の誰かの事を答えると、数倍の効き目だって聞いたことあるよ!葵、凄かったのはそのせいね!」
美少女と平凡男の組み合わせが再構築されていることに気付いた風太は、絡まれないうちに居酒屋を抜け出した。
宿を探しに街を彷徨いたが、遅い時間だったので、どこも満室。ドンドン暗い方に進んでやっと見つかった。お手頃な価格で直ぐに入ったが、
「休憩かい?泊まりかい?」
どうやら、ラブボ的な宿だった。陽菜は平然と、
「泊まりです。」
宿賃を払うと、部屋の鍵と何か小さなものを受け取っていた。
部屋はダブルベッドだけ。ベッドを譲ってソファーか床っていうのが紳士だろうが、そのスペースは無かった。シャワーを浴びた風太は、ベッドの端っこに横になった。
シャワーから出てきた陽菜は、ベッドに正座して三指を付いた。
「不束者ですが、末永く、よろしくお願いいたします。」
「そんな、嫁入りみたいな!」
「え?あたしは、そのつもりですけど!」
受付で婆ちゃんに貰ったモノをそっと差し出した。
「実物は触ったこと無かったけど、元の世界と一緒なのね。」
赤面を通り越したのか、大きな目がトロンとして、風太の理性を揺さぶった。
「いや、あのさ、別にそんな事してほしくって助けた訳じゃないんだから、変に気を使うっていうかさ、ムリしないでよ!」
「ムリなんかじゃないよ、元の世界でもさ、あたしのこと、普通の人間として接してくれた男子って、きっすうだけだったらさ、ずっと好きだったの。葵が居るから最初から諦めていたけどね、コッチって一夫多妻もオーケーでしょ?そうしたら、チャンス有るかなって!」
「んとさ、今の陽菜さんなら、引く手数多でしょ?僕としては嬉しいけど、一旦落ち着いてからにしようよ。」
「数多なんて要らない!きっすうだって、カラダはその気になってるでしょ?え?あの、ん?」
盛り上がったパジャマに反応した陽菜は、
「いっつも、その、サイズとかで誂われてたでしょ?もしかして、葵?」
『とか』でオブラートに包んているが、サイズはもとより、キッズモードの形状の方が誂いのターゲットだった。
「あ、多分。他に心当たりないからね。本人には確かめて無いけどね。」
「あ、えっと・・・」
言葉が詰まって、赤面が更に増して、
「葵ならさ、純粋に、きっすうが誂われないように思っての事だろうけどね、大きい方が、その、いや、なんでもない!もう寝ましょうね!」
風太は、今までそんなふうに考えた事はなかったが、大きくなった事で、葵との関係に影響があると思ったら、それだけで暴発させてしまった。
陽菜のアプローチも収まったので、ベッド端っこで背中を向けて目を瞑った。気を落ち着かせようと元素記号を唱えたりしてみたが、両隣から聞こえる騒音で全く落ち着かない。壁が薄いのか、音源が大きいのか、ベッドの軋む音や、R指定の声が聞き放題。陽菜は寝相が良くないのか、反対側の端っこで寝ていた筈だが、気づくと背中に貼り付いている。背中ではハッキリとは解らないが、柔らかな感触と、絡み付く手足は、トランクスの中身を再び暴れさせた。
結局、一睡もできずに朝を迎えてしまった。
早起き?眠っていないので、早起きと言えるかは微妙だが、早く行動を開始した。
ギルドは早朝から開いていて、その冒険者のために食堂も開いている。腹ごしらえをして、ギルドの売店が開くのを待った。
風太の服とサンダルで応急処置の陽菜の着替えを購入する。ロビーで待っていると、着替えが済んだ陽菜が登場。ほとんど肌の見えなかった制服姿の記憶から想定していた姿とはかけ離れていた。はみ出さない下着を選ぶのが大変な位のローライズのショーパン、そこから伸びる程良い曲線は、今までの紫外線シャットアウトのお陰で、眩しい美白だった。少しモジモジした感じの陽菜は、今までにない露出のせいではなく、
「サイズが無くて、上は買えなかったの。」
売店はちょっと不足分の買い足し程度を想定しているので、品揃えは良くないようで、なんとなく腕でガードして、余分な揺れに対応していた。普通の店が開く前に依頼の受付をすることにした。
受付カウンターに向かう時、ちょうど一組のパーティーが出発するところだった。陽菜は振り返ってカブトムシマークの馬車を目で追っていた。
「どうかした?」
「七海のパーティーなの。」
心配そうな視線に、風太も不安な気持ちになっていた。