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逆罠

 食堂に入ると、

「謝って済むと思ってんのか?あぁ?」

冒険者?お行儀の良くない男がウェイトレスに凄んでいた。先にいた別の客に事情を尋ねると、絡んでいる男がウェイトレスの尻を触り、避けたときに運んでいた水を溢して男に掛かったらしい。

「濡れちゃって大変ですね?あたしが乾かしてあげるわ!」

ニコニコと近寄って行った陽菜は、男の足元を温め、グングンと温度を上げていった。

「アチチ、何すんだ!」

「もう乾いたかしら?」

「乾いたっつうか燃えそうだ、頼むから止めてくれよ!」

「そんな水くらいで騒いていたら、公式戦出られなくなるわよ。まぁ、出場しても甲子園に行ける訳でもないから良いのかな?」

不思議そうに様子を観ていた風太を見つけた男は、

「おっ!来生じゃねぇか?この女、何とかしてくれよ!」

陽菜が何事も無かったようにテーブルに戻ると、ゾロゾロと男達が寄ってきた。

「ああ、野球部の?」

同学年の野球部員だが、風太は名前を思い出せない。関わりが無かったので、忘れたんじゃ無く覚えていなかったのかもしれない。

「鬼崎さんだけでも不思議なのに、何でお前が、こんな美少女に囲まれてる訳?」

水の件でゴネていたのは、確かエースになったヤツで、他の3人も野球部員の筈。

「そりゃ、毎年地区予選の1回戦でお約束のコールド負けの野球部と、高文連で全国展示されたマン研との差ですわ!」

美咲は、ツンとした口調で野球部を斬り捨てた。

「え?タブチ?」

「江渕よ!旧姓ね。今は来生ですけど。」

さり気なく、左の薬指の指環を主張した。

「まさか、妖怪トリ・・いや、マン研の女子?」

「フフ、妖怪トリオの陽菜です、旧姓徳本です。覚えていてくれて嬉しいわ。」

「同じく、七海。旧姓は坂下、確か同じクラスだったんじゃないかな?」

目を丸くする野球部員に風太は事情を話そうとしたが、

「見ての通りですわ!」

美咲が遮った。


 野球部員達が寄ってきたのは、ハーレム状態の確認では無く、

「実はさ、半月ほど前の事なんだけどさ・・・」

蓮達を見掛けたが、思いきりアウトローな雰囲気は、以前と変わり過ぎていて話し掛けなかったそうだ。美咲の描いた似顔絵の荒んだバージョンを見せると、

「ああ、こんな路線だな、この絵イメージがグレイだとしたら、漆黒ってレベルだよ。マン研的に言うと、序盤のザコキャラと魔王の四天王位の差だな。」

「3人一緒なら少しは安心かな?所で随分荒れていたみたいだけど?」

「実は・・・」

 3日前から行動を共にしていた女子冒険者に馬車ごと財産を持ち逃げされたそうだ。混浴露天風呂の温泉に誘われ、浸かって待っていたが、いつまで経ってもその娘は入って来ず、風呂を上がると脱衣籠にはトランクス1枚だけ、慌てて外を見ると、馬車が無くなっていたとのこと。

「お風呂でデレっとしてたんでしょ?」

美咲のツッコミに、シュンと頷いていた。

「食事の時、ワインなんか飲んだりした?」

風太は佐久良を疑っていた。

「そう言えば赤ワインを飲んでたな、俺等より年下のハズだけど、一応コッチではOKな歳らしくって、外食の時は毎晩だったと思うな。『ああ、生きてて良かった!』ってのが決まり文句でさ。」

風太は、葵に視線で同意を求めながら、

「それ、蓮達もやられた奴だと思うよ、投獄されてるハズだけど、きっと脱獄してまた悪さしてるんだろうな、その温泉ってどこ?近くで馬車とか装備品を売り払う店が有りそうな街ってどこかな?」

「ああ、それならここから北に馬車で1時間位かな、影龍の棲む山の麓の街だな、デカい街だから色んな店が有るから、丁度いいんじゃないか?俺等は、物価が高そうだからスルーでここに来たから、街の様子は解んないけどな。」

「それなら僕等の目的地にピッタリ!取り戻せるかは解らないけど、一緒に行く?」

「ああ、何か手はあるのか?」

「うん、確率は低いし、佐久良がまだその街に居るか解らないからダメ元って感じだけどね。」

「サクラ?」

「あ、犯人の名前ね、その女はさ・・・」

40年も前から、パーティーに潜り込んで、そのパーティーを潰して有り金を根こそぎ奪うって事を、変身しながら繰り返していたことを教えた。

 別行動で佐久良が居そうなギルドに向かい一芝居の計画。


 影龍の山の麓の街に着いた風太達は、打合わせの時間にギルドに入った。

「あれ?来生じゃねぇか?元気だったか?」

「あ、ああ、野球部の?」

「おお、石山だ。えっと・・・鬼崎さん?と?」

藤野、澄川、西岡、野球部員が名乗り、()妖怪トリオの変身に驚き、旧姓(・・)に驚いていた。

「所で、酷いカッコだけど、何かキツイ依頼だったのか?」

「いや、ちょっと前にな、風呂入ってる間に、全財産入った馬車ごと盗まれちまったんだ。今はギルドに借りた金と、拾った剣で頑張ってんだ。」

「そりゃ大変だったな、俺達、王都で美味しい仕事に当たって、結構稼いで来たんだ、コレ使ってくれよ!」

風太は帯が掛かった札束を石山に渡した。

「いいのか?なかなか返せないと思うぞ。」

「軌道に乗ってからで大丈夫、無茶しないでくれよ。」

野球部員達は、中古の道具屋に向かい、風太はカウンターで、

「臨時メンバーを探しているんです。接近戦の、お手本になる女性を紹介して貰えませんか?」

報酬等の条件や、パーティーの構成を書類に記入、割と美味しい設定にして、佐久良の喰い付きを待つ。候補者は明日の午後4時にここで面接という事で、ギルトを後にした。


 翌日、指定の時間にギルドに到着した風太は、カウンターに群がる希望者に驚いた。十数人を鑑定してみる。ほとんどがBランクで、20代後半。1人だけ冒険者としては高齢の50前後の人がいて、鑑定結果は佐久良だった。

「今回はお手本になって貰いたいので、ベテランさんにお願いします!」

雪子(ゆきこ)』と名乗る佐久良を臨時メンバーに採用した。

 その日は顔合わせだけで、一緒に夕食。念のため飲み物を勧めると赤ワインを選び、飲み干したときの、『ああ、生きてて良かった!』を確かめた。


 雪子と一緒に山を攻める。母親と同世代に見える雪子は、風太が知っているさくらと同様に、山坂を物ともせず、魔物を斬り捨てた。陽菜達への魔力サポートは敢えて切ってアクセサリーで底上げしてギリEランク位の能力で、剣を習いながらっていうイメージで、雪子頼りをアピールした。


 1週間程で、基礎から全くのダメダメだった葵達は、なんとなくサマになり、魔力を剣に纏わせたり、結界を盾にする方法を覚えていた。

「そろそろハードルを上げようか?」

雪子の提案で、影龍の山を攻めることになった。雪子に見せている能力を考えると、かなり背伸びしたチャレンジだが、

「凄く覚えがいいから、登っている間にも強くなれるわ!」

雪子の提案に乗って、影龍の山を攻める事になった。


 登山口にテントを張って、日の出とともに登る。3合目辺りから、昨日までの魔物とは桁違いの強いヤツが現れた。雪子の計算では、僕等が倒されるのを待って、お宝ゲットと算出していることだろう。魔力サポートを復活させ、マックス近くまで強化した剣と盾を装備すると、それぞれ雪子と同レベルだろう。サクサクを狩って5合目に到着した。

 計算が狂った雪子は苛立ちを隠せなかった。小さな洞穴に結界で戸締まりして中で一泊。

「晩ごはんはワタシが作るよ。」

雪子が石を積んだ竈門で料理を始めた。

「私も手伝います!」

「いいわよ、葵さんも慣れない剣術で疲れているでしょ?」

竈の占領は解かなかった。食材や調味料を鑑定すると、『特製スパイス』と主張する小瓶は、強力な睡眠薬だった。こっそり浄化して、ただの粉にしておいた。ただの粉が大量投入されたピリ辛シチューを皆んなで食べる。雪子は解毒剤を飲みながらしっかり平らげた。


「うーん、旨かった。おなか一杯になったら、急に眠くなってきたよ・・・」

風太は睡眠薬が効いた事を装って崩れる様にタヌキ寝入り。葵達も風太の意を読んでバタバタとタヌキ寝入り。


 雪子は、タヌキ寝入りを信じて、洞穴の結界を解いた。この付近に多く生息する、狼系の魔物を呼ぶ、犬笛を吹いて、洞穴の前に昼間狩った魔物の肉をばら撒いた。

「さてと、高みの見物としゃれこみましょうか。」

雪子は予め見つけておいた安全地帯になりそうな岩の上に移動・・・出来なかった?

「な、なんだ?」

変身と強化魔法が解けてる?岩を登ろうとするが、数十センチ程から上には進めず、自分で呼んだ魔物に取り囲まれてしまった。慌てて張ろうとした結界も間に合わず、剣と魔法で応戦した。


 真面目に働けば、きっちり成果を出せる能力は、魔物の群れから自らの命と左脚を守りきった。魔物の殆どを倒し、手負いの数体は、洞穴から見物していた風太達がトドメを差した。

 佐久良はボロボロでハッキリとはしないが、本来の姿の70歳近い姿で、右脚は膝の辺りまで、右手は肘、左手は手首迄しか無かった。他も傷だらけで、変身とは関係なく、顔の判別は難しそうだ。取り敢えず、止血だけのヒールして、失神状態から呼び起こした。

「さくらさん、お久しぶりです!元オニオン5の風太です!取り敢えず、ギルドまでお送りしますね、ハイ松葉杖、有り合わせだけど・・・って手も無かったら使え無い?うーんサラシ巻いて固定したら大丈夫?」

魔力封止の首輪を3重に掛けて、結界を応用した腰紐で拘束して下山。ギルトに直行した。

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