救済
アクセサリーの機能付与は、お偉いさんの承認が必要で、その説得のためにサンプルが、バイト初日のミッション。フル装備すれば、重装備の鎧に匹敵する位のセットを合成する。ベースになる物は、宝石店の商品なので、防御力は全く無い。そこに鎧の機能を合成する。
ポーチの在庫で完成、午前中に済ませ、王家との交渉はお任せ。午後からは王都に来た本来の目的、『吸魔の剣』がドロップする山を攻める。
夕方に麓に着いてキャンプ。5合目の山小屋でもう1泊。山頂のボスを倒し麓まで下りてまたキャンプと、3泊4日の予定。
順調に馬車を飛ばし、麓のキャンプ場に到着。陽菜がお泊りなのはローテーション通りだったが、
「寝袋出してくれる?」
3人テントでリクエストされ、
「わたしも、いいかな?」
5つとも出すことになり、スキンシップはオアズケだった。風太はガッカリが半分と、ホッとした気分が入り混じっていた、どちらかと言えば、昨夜のショックから立ち直るまで有り難く思うほうが強かった。
翌朝は、日の出から山攻め。B相当縛りの山にも慣れて来て、安定した戦いになって来た。
「一緒にいた頃のオニオンより強いかもね!」
「葵もそう思う?それにさ、あ、いや、なんでもない。」
「それ、イヤな感じ!なんか隠してるの、バレバレよ!」
「そうそう、ミイも気になる!」
「ボクも!」
「あたしも!」
風太は諦めて、蓮達の事を話した。彼等がオニオン3として再始動していた事と、その後は活動が休眠中なとこは話していたが、娼館の用心棒になり、美人局で捕まり、街から逃げ出したことは話していなかった。
「私の判断ミスね。自暴自棄にならないで、4人でゼロからって選択肢、そっちの方が自然なのに、あの時は思いも付かなかったわ。」
「あっ、アイツ!」
葵が見つけた魔物は、首長狼だった。
「オニオン5がダメになったときの魔物だよ、ふぅが居た時は楽勝だったのに、抜けた時、ボロ負けで、さくらさ・・・佐久良がトドメを刺したの。気を付けて!」
風太は作戦の指示を出そうとしたが、それを必要とせず打合せ通りのフォーメーションで直ぐに戦闘開始。
陽菜は炎魔法を、盾に纏わせ、結界と連動して風太と葵をガード。首長狼は火の玉を吐いて飛ばしてくるが同系統の盾は魔力を吸収することが出来、ガードを一人で担っている。
美咲は氷の刃で威嚇と足止め。当たりどころによっては、結構なダメージだっただろう。
七海は氷の矢を構えた。美咲の攻撃を躱せず、動きが止まるのを待って、渾身の一撃。陽菜の盾に苛ついて、大きな火の玉を吐こう開けた大きな口から頭部を貫いた。
「えっ?私の出番はない方が良いんだけど、もう終わったんだね!」
どんな傷でも絶対に治すと意気込んでいた葵は、嬉しい誤算だった。
「ホントにあの頃のオニオンより強いんだね!」
「いや、相手の情報をしっかり掴んでいるのが大きいんだ、アイツの炎攻撃を盾で吸収して、苦手な氷系で動きを封じ、撃っても無駄なたてがみは狙わないとかね、魔力とか戦力とかは、絶対に彼等が上だよ。」
アイテムは大したことはなかったが、大きな自信になった。
その後も、強力な魔物が続出するが、都度適切なフォーメーションで安定して片付けていった。剣や盾の強化アイテムがザクザク、5合目の山小屋に到達した時は、分身達の剣は『VIII+84』、盾が『VII+75』迄育っていた。
山小屋にはカンタンなキッチンがあり、携行食に合わせてちょっと料理して、しっかり栄養補給。部屋は雑魚寝で、お泊りローテーションの七海が隣だった。特に何かが起きることはなくぐっすり眠って朝を迎えた。
『吸魔の剣』を狙うのは、山頂のボスでは無く、8合目付近の洞窟にある迷路のクリア。そこに到達するには、今まで攻めていた山のボスレベルの魔物が蠢いているので、ラクな攻略ではないが、心配は要らない。
計画通りに洞窟に到着。ゲームでは洞窟の通路には魔物が出ず、迷路攻略に専念出来ていたが、実際には、外と変らないレベルの魔物が、変らない頻度で出現。一応、それも想定内だったので、時間は掛かったがクリアして、葵の剣もついに『IX+99』になった。
折角なので、山頂のボスを倒してから下山。手応えのある魔物を駆逐して麓のキャンプ場に到着した。
カンタンに食事を済ませ、戦利品をチェック。お姫様のアクセサリーに丁度いい装備品が必要数をかなり超えて入手出来たので、王都に戻ったら、合成三昧だろう。
テントは美咲が一緒だが、また寝袋だったので落ち着いて安眠、風太は朝日より早く目を覚ました。
王都に戻り、宝石商が手配してくれている宿にチェックイン。
「お手紙を承っております。」
フロント的なカウンターで渡された手紙は見るからにゴージャスで、蝋で封してあり、封は見覚えのあるマーク?王家の紋章だった。慌てて読んだ風太は、
「ヤバイ!着ていく物が無いよ!」
「どうしたの?ふぅ?」
手紙は、花嫁のアクセサリーの合成を喜んだ花婿、つまり王子様からで、結婚式迄の滞在と、作業スペースを提供してくれるとの事だった。明日の10時にお迎えが来るので、王子様の別宮に相応しい洋服が必要になった。全く対応策が思い付かない風太に、
「当館に出入りの仕立屋をご紹介しましょうか?色々融通の効く職人が居りますので、きっとお役に立てると思いますよ。」
渡されたメモを持って、商店街。貴族街なので、店に入れるか不安だったが、宿の人から話が通っていて、直ぐに採寸、分厚いデザイン集から、極普通のスーツと極普通のワンピを選び、カラーサンプルから、濃紺を選んだが、明るい青を奨められた。派手過ぎだと断ろうとしたが、4対1の多数決で明るい青。
「事情は伺っております。明日の9時には宿にお届け致しますのでご安心下さい。」
再び宿に戻って、ようやく一息。レストランで食事をして部屋に入った。前と同じ部屋だったが、コネクティングドアは両側から鍵が掛かっていた。通常別々の客が泊まるので、どちらかと言うと、こちらがノーマル。ベッドの確保も同じような位置で、お泊りローテも同じく葵だった。七海は一応自分のベッドに荷物を置いたが、
「美咲んとこ泊まるね!」
葵に耳打ちしてからグータッチして出ていってしまった。
順番に入浴して、ベッドに並んで座り、長く続いた沈黙を破ったのは葵だった。
「いつもね、お泊りの後、報告会してるんだ。前回のコト話したらね、私がその気になるまで、皆んなもお休みってコトになっちゃったの、ゴメンね。」
「なんで謝るの?」
「だって、私のせいでふぅ、オアズケだったんだよね?」
「えっ?別に気にしてないよ。寧ろ、山攻めの時は、そのほうが良かったし、普段もね、嬉しいっていうのも正直な気持ちなんだけどさ、慣れるのが怖いっていうか、ホントにこんなコト許されるのかって罪悪感もあるんだよね。じゃあ、七海隣行っちゃったから、そこ借りて寝るよ。ん?」
葵は風太のパジャマの裾を掴んで離さなかった。風太は黙ったままベッドの端っこに寝て、手を繋いだ。
「へへ、私、コレ好きよ!」
葵は繋いだ手をギュッと握った。
小さい頃の話とか、マン研の事とかで寝落ち。翌朝、手を繋いだまま目を覚ました。
朝もユニークスキルの治療はしなかった。それも4人での合意事項。
「一緒に入る?」
小さくて聞こえなかった訳ではないが、幻聴かどうかを確かめる。葵はバスタオルを巻いてベランダの風呂場に出て行った。風太は迷いながらも、タオルを巻いて後を追った。
のんびり湯に浸かっていると、
「葵、風太!楽しんでる?」
隣の風呂場から美咲の声。
「うん、幸せよ!こっち来る?」
「ううん、自分のローテの時に楽しむからいいよ!」
「じゃあ、ごはんの時ね!」
いつの間にか、凄いルールになっていた事に、朝の生理現象から収まりつつあったXLが完全復活。フェイドアウトを期待していたが諦めて、バスタオル越しの曲線を目で堪能して、脳内でバスタオル無しの画像を合成した。
「どうしたの?ボーッとして。」
葵が覗き込むと、
「あ、いや、何でもないよっ、うぁぁぁっ!あ、葵、バスタオル!」
バスタオルは浴槽を漂い、脳内で合成しようとしていた画像は、実物の3Dで風太の視界にしっかりと収まった。慌ててバスタオルを拾う姿に、XLは白濁の汚れを浴槽に漂わせておとなしくなった。
結果オーライ?ズボンが穿きやすくなって、風呂を上がった。葵の身支度を待ってレストランに降りた。
「まだみたいだね。」
「洗面台にしか鏡無いからね、乙女の朝は色々大変なのよ。」
オーダーは揃うまで待って貰って、
「お城に着ていくお洋服って楽しみね!」
「葵はなんでも似合いそうだからね!」
「コッチ来て、ココが、コウなって、逆に強調しない服って選択肢になっちゃったかな。あのさ、やっぱ、ふぅがコレ救済願ってくれたんだよね?」
風太は恥ずかしくて本人には言っていなかった。風太は小さく頷いて、視線を股間に落としてから、
「コレって葵?だよね?」
耳まで真っ赤にして、
「わわわ私が大っきいのがイイって言う事じゃなくてね、ふぅが何時も誂われていたから何とかしてあげたかったの。」
3人が降りてきた。
「あー、えっちな話してたでしょ?風太は天井見てるし、葵は真っ赤になって、視線が落ち着いていられないからね!」
美咲のツッコミに風太も茹で上がってしまった。




