合成
昼間は山攻めか移動、夜は4日に一度ユニークスキルの回復で他の日は濃厚なスキンシップと言った日々で、たっぷりひと月かけて、王都に到着。
B相当が条件の、まだ攻めていない山と盾の強化アイテムが出やすい山を狙って、行ったり来たりしながら、皆んなの盾が『+99』に到達、分身達の盾は『VII+17』に、剣も『VIII+21』まで育っている。
売れそうなアイテムも沢山溜まったし、ダブったアクセサリーは使い勝手が良さそうな組み合わせで合成し、『III+10』にしたものがゴロゴロ。
道具屋で、アイテムを売って30万。未鑑定のアイテムを棚全部買って12万。馬車に持ち帰り、全て鑑定。アクセサリーは合成とレベルアップ、使える物を残して別の道具屋に持ち込んだ。16万で売れて、また未鑑定アイテムを買い占めて10万。同じようにして道具屋を4軒ハシゴ。4軒目で仕入れた物を最初の店に持ち込んで、トータル54万の儲けと、買ったら総額30万位のアイテム。それとアクセサリーがフル装備に合成した状態で5個残っている。
元々持っていた物も含め、23個の『III+10』のアクセサリーは、宝石店に持ち込んだ。査定してくれた白髪の紳士は、
「高価過ぎて、手前共の店では買い手が付かないでしょう。よろしければ、王室御用達の宝石店をご紹介いたしますが・・・」
言い難いセリフは、風太が読み取って、
「紹介料は5パーでいいですか?」
10パー予測で切り出すと、
「是非、お願いいたします!これから伺いますか?」
一見さんお断り、平民お断りって敷居の高い店と思われるが、アポ無して大丈夫なんだろうか?他に予定はないので、老紳士に付き添われ、貴族街の宝石店を訪れた。立派過ぎて落ち着かない応接室で、如何にも真面目そうな中年男性が白い手袋を嵌めて、ルーペで隅々までチェック。じっくり1時間で査定完了、
「こちらは、防御に優れた・・・」
「総額だけでいいですよ。」
「えっ、はい。では、23点合計で320万で買い取らせて頂きます。」
自己査定の3倍提示に驚く風太だったが平静を装って書類にサインをした。
「交渉しなくて良いのですか?」
「ええ、思ったより高く買って頂きましたから。」
雑談していると、
「いらっしゃるなら、一声掛けて下さいよ。」
グレイの髪が寂しい紳士はここの主のようだが、平民街の宝石商の方が先輩なのか、敬意を込めた応対をしていた。
「どうやって集めたのですか、よろしければご教示頂きたいのですが。」
山攻めでドロップしたものや、道具屋で未鑑定の物を買って、鑑定、合成、レベルアップした事を告げると、
「理論的には解りますが、実際に可能なんですね!」
プロが驚く姿で、風太はやっと自分の凄さに、気付いていた。
帰りがけ、カウンターの奥に、厳重な結界で守られたショーケースが目に入った。
「お姫様が付けそうなアクセサリーですね。」
「ええ、第一王子に輿入れされる公爵令嬢の物です。納品迄、ここが一番安全ですから。」
「ハッハッハ、上手い建て前ですな。」
「そこは、見逃して下さい。」
『王室御用達』をしっかり主張した宣伝が本音のようだった。
「パレードでもつけますよね?」
「ええ、花嫁衣装の時は、常時これの筈です。」
風太は装備品を合成する方法を説明して、
「そのカチューシャ、お借りしても?」
アシスタントの女性にカチューシャを借りると、ポーチからヘルメットを取り出して2つを重ねて手をかざし、合成上級の技を発動。ヘルメットが消えて、カチューシャだけが残った。自分の頭に付けて、ゲンコツでゴンゴン。
「試して見てください。カチューシャの所じゃなく、頭を直接お願いします。」
実験は成功、早速王室にお伺いをたてて、婚礼アクセサリーに防御機能を付加する方向で話が進み、先程買い取って貰ったアクセサリーを合成に使えば、近衛兵の防具に匹敵する防御力が期待できる。おおよその出来上がりの能力を伝えると、決定事項のように盛り上がっていた。連絡が取りやすいようにと、宿を手配してくれた。
王都の見物とショッピングで別行動だった葵達と合流。
「風太、おなかペコペコだよぅ!ミイはもう歩けないよぅ。」
風太は美咲に背中を向けて膝を付いて、
「ハイ、どうぞ。」
「あ、歩ける、歩ける!ミイだって大人なんだよ、こんな所でおんぶなんて恥ずいよ!」
食堂や宿を物色していたようだが、
「宝石店で色々あってね、宿を用意して貰ったんだ、食事も付いてるから、早く行こ!」
少し歩くと、
「えっ、貴族街じゃない?高いんじゃない?」
葵は心配したが、
「うん、でもね、宝石店でバイト見つけたんだ、アゴ、マクラ付き!」
「何?それ?ふぅ?」
風太はアクセサリーに、装備品の機能を合成する事を説明したが、
「それはね、想像ついたの。あご?まくら?そっちがわかんないのよ。」
「ああ、業界用語らしいんだけどね、ギャラの他に、食事が付いてたらアゴ付き、宿泊費がマクラ、交通費支給はアシ付きっていうんだって、へへ、ちょっとカッコつけて見た!」
到着した宿は、お洒落なホテルの雰囲気で、ツインの部屋が隣り合って二部屋、コネクティングドアって言うのかな?中に扉があって、行き来出来るようになっている。
「ベッドは丁度4つね!あたしここでいい?」
「じゃあ、ボクはコッチ!」
「ミイはね、うーん葵に選ばせてあげるよ!」
「じゃあね、うーん、私ここにするわ!」
風太のベッドは無し。
「順番にお泊りなんだから、必要無いよね?」
各部屋にゆったりとした露天風呂が付いていて、ちょっと無理して5人で湯に浸かった。
「ふぅ、これからディナーなのに、ソレ、大丈夫?」
「うん、何とか落ち着けるよ。」
「私にまかせてくれる?」
お泊りでも、ユニークスキルの治療ばかりだったので、再会した時に術でその気になったけど、実際には初めてなので、想像しただけで暴発、ディナーへの支障は無くなった。
レストランに降りて、ちょっと畏まったディナー。キャンプ飯や携行食、偶の外食もほぼほぼ最安値のメニューを選んでいたので、ワクワクで料理を待っていた。
こっちの世界に来て、初めての贅沢料理。元の世界のイタリアンっぽい料理だった。ただ、元の世界、令和の日本の食文化が贅沢過ぎたのか、内装の豪華さの割りには、まぁ美味しいって感じだった。
部屋に戻った風太は、葵と並んでベッドに座った。食事の前に叶わなかった事を意識しているのだろうか、葵の表情は固かった。
「ボクは、美咲のとこに泊まるね!」
風太の覚悟と葵の様子を読んだ七海は隣の部屋に移動した。
風太は葵を抱き寄せ、唇を重ねた。いつもは受け入れられる舌の侵入は前歯に阻止されていた。風太はその変化を、このあとのコトへの緊張と捉え、そのまま押し倒した。右手はパジャマの上から曲線を確かめるように這って、パジャマの下の小さな布に到達した。他の皆んなと同じように、腰を浮かせてのアシストを期待していたが、ガッチリ固まったまま、風太のスキルではどうすることも出来なかった。風太の興奮が少し収まると、葵が震えていることに気が付いて飛び起きた
「ゴメン、イヤだったんだね、ホント、勝手に盛り上がっちゃって、もうしないから、安心して!あ、七海のベッド空いたから、そっち行くよ。」
「ううん、ふぅ、ハグしてくれる?」
返事を待たず、葵は風太の胸に飛び込んでいた。震えが収まる迄ギュッと抱きしめていた風太は、葵の寝息を確認し、そっと寝かせつけた。
朝、目覚めると、葵は既に目を覚ましていて、
「手繋ぎで寝るのって久しぶりね。小4迄だったわね。」
赤ちゃんが出来るプロセスを風太が知って以来だった。
「昨夜はゴメンね。私もね、いつか、ふぅがああしてくれるの待ってたんだけどね・・・」
少し躊躇ってから、
「レストランにね、娼館のオーナーが居たの。で怖かった事を思い出してね。」
「向こうは、気付いてたの?」
「いや、実はね、とんでもない逆恨みだと思うんだけどね、・・・」
葵は、娼館にいる間、顔をあわせる人達に、暗示を掛け、さくらの顔に見えるようにしていた。源氏名も『桜』と名乗っていた。
「うーん、逆恨みじゃないよ、『逆』は要らないな。嫌なこと思い出させると思って言ってなかったんだけどね・・・」
風太は、『白鳥佐久良』が、パーティーに潜り込んで、パーティーの金や持ち物を奪う常習犯で、オニオン5も風太に渡された現金が目当てだった事を告げた。
「じゃあ気を取り直して!」
ユニークスキルの治療が始まった。
「あ、あのね、いつもみたいにならないかな?」
昨夜の動揺から、弛緩状態だったXLは、そこに話題が振られた途端、しっかり漲って、治療を受けた。
各スキル、CからBへは、一度で上がることはなく、3から5回でやっと上がり、Bからは、8回でもまだ上がっていない。B相当パーティーとして遜色ない戦力と実績なので、焦らずに治療を続けている。今朝は通算で10回目でグローワーがやっとAに上がっていた。




