酒場
山を下りて、次の山を攻める。昼間は魔物を狩り、夜はスキンシップを楽しんだ。陽菜と七海も『きっすう』から『風太』に変わっていた。きっかけは確かめていないが、口撃がスキルアップして、白濁の汚れの心配が無くなった時からと思われる。1週間程で3つの山を制覇した。剣や盾の強化は殆ど出来なかったが、アクセサリーや、高く売れそうなアイテムが結構手に入ったので換金の為街に向かった。
先ずはギルド、魔石やアイテムはギルドより高く売れる専門店に持ち込むので、挨拶代わりの薬草で小銭と情報をゲットした。
「この先の山は年に10日しか解禁されないんですが、丁度明日が解禁日なんです。そちらの宿もキャンプ場もいっぱいでこちらにも流れて来ていると思いますよ。宿は期待しないほうが良いと思います。」
Fランクパーティーが薬草を売りに来ると、どうしても絡まれてしまう。風太も少しは逞しくなってはきているが、『ヒヨッコのハーレムパーティー』に見られるのは卒業出来ていない。この日も何人かが感電していた。
風太は杖をついて、尻餅をついた男に見覚えのがあった。
「栄?」
「来生?」
陸上部の栄だった。陸上部員6人でパーティーを組んでいるそうだが、怪我をして一人でブラブラしているそうだ。ナンパしようとした相手が、妖怪トリオで同じクラスになったこともある美咲だと知って何度も顔を覗き込んでいた。
葵は、栄の脚の怪我がキチンと治療されていない事に気付き、
「栄くん、ちょっと。」
ロビーの長椅子に座らせてヒールを掛けた。
「うぐっ!ん?あっ!あれ?痛くない!」
「膝はもう大丈夫よ、あとはお酒、控えてね。」
治る見込みがないと言われ、所持金は殆ど飲み切ってしまっていたらしい。不定期でこのギルドにくる陸上部のパーティーが生活費を渡してくれているそうなので、
「次に来たら合流出来る筈よ!それまで、体調整えておいてね。」
「あ、ありがと、えっ?痛く無いだけじゃなくて、ちゃんと膝が曲がる!うわっ普通に歩ける!」
栄は屈伸して動きを確かめると、軽くジャンプした。
「マジで助かる!なあ来生、合成は出来るか?」
「ああ、中級までね。でも急に・・・」
栄は風太の答えを聞き終わらないうちに、リュックから巻物を出した。
「丁度良かった!色々売っぱらって飲んでたんだけど、コレだけはレア過ぎるから手放せ無かったんだ、ただ俺、合成って中級どころか、初級も無いから、宝の持ち腐れなんだよな、治療費に見合うかどうか解らんけど、今の俺の全財産みたいなもんだからさ、受け取ってくれよ!」
「あ、それ!欲しかったアイテム!遠慮なく頂くよ。でも全財産貰って大丈夫?」
「ああ、脚が治ればガッツリ稼げるからな!薬草位なら、リハビリがてら1人で十分だ!F&Tと合流するまでは薬草で小遣い稼ぎでもしてるさ!ほんとにありがとな!」
栄は早速、貼り出された依頼を吟味していた。風太は巻物を使って、合成を上級にアップ、目が合った葵とグータッチしていた。
騒がしかったギルドを出て、魔石商等を回って換金、世間話は期間限定の山の事ばかりだった。風太はゲームに無いイベントなので少し戸惑ったがレベル的にも無理はなさそうなのでチャレンジすることにして、宿を探した。
ギルドに馬車を置いて、街中を歩き回って、やっとシングルの部屋が1つ。
「私達、3人でココに泊まるわ、美咲のローテだから、『二人きりの入浴権』行使するといいわ!」
風太は美咲と二人で更に街外れのラブホを目指すことになった。そこで探すには時間が早いので、先ずは皆んなで早めの夕食。葵達の宿の1階がレストランだったのでそこで食べて時間を潰した。
街外れまで歩くと、治安が悪そうな雰囲気になり、酒場が並び、裏路地は娼館とかソッチ系統の店や、賭場やカジノらしき建物で埋まっている。ラブホはその奥の筈なので、足速に通過しようとすると、
「500万でどう?ロリ専が飛びつきそうだから、ウチで買ってあげるよ!即金だよ!」
二人が無視して通り過ぎると、
「こんな時間に女連れて、紛らわしいんだよ!」
どうやら、娼館に女を売りに来たと思われたらしい。紛らわしいって事は、そういうケースが頻繁に有るって事だろう。風太は美咲の手を自分の腕に絡めて、ちゃんとカップルに見える様に工夫して先を急いだ。
「へへ、ちょっとラッキーかも!」
美咲は嬉しそうに絡みを強くしていた。
目的地に到着。どこも満室で一番ボロい宿を覗くと、
「今、休憩で帰る部屋が空くから、片付けして2時間だな、その頃またおいで。」
道端で立っているのもナンなんで、近くの酒場で時間潰し。少し戻って、1番近くの店に入った。
カウンター席に案内され、
「いらっしゃいませ、お客さん、初めてですよね?」
「はい、山を巡っている冒険者ですから、この街も初めてです。」
「じゃあ、ウェルカムドリンク!これは店の奢り!」
カウンターに滑り出てきたカクテルは、アルコール度数60パーセントで睡眠薬入り、多分一口で昏睡だろう。風太は、それを浄化、水にして
「「いただきます!」」
美咲と乾杯、一気に飲み干した。
「お?いい飲みっぷりだね!俺と飲み比べしようぜ!」
ガタイの良いお兄さんが肩を組んだ。客の雰囲気が、拒否を許さない感じだったので取り敢えず、挑戦を受けた。
「よーしルールの説明だ・・・」
ステージの上に小さな台を置いて、その上に立って飲む、一気飲みして、飲み残したら負け、台から降りたり落ちたら負け。どう見ても、風太を潰して、美咲を奪う作戦だが、カウンターの美咲は水になったカクテルをチビチビ、周りには感電で失神した男が何人か倒れていた。
運ばれたジョッキを鑑定、一つは焼酎ストレートに睡眠薬、もう一つはかなり薄めた焼酎の水割りだった。風太はサッと遠い方の水割りを手にし、水にしてスタンバイ。運んで来た店員がオロオロしていたが、客の盛り上がりでどうしようもなくなってしまった。カウントダウンが始まり風太は一気に飲み干し、チャレンジャーは途中で、意識を失って台から転げ落ちた。
「じゃあ、僕の勝ちで。」
カウンターに戻って、おつまみとグラスワインを頼んで改めて乾杯。今度は細工なしだったので、舐めるように時間を潰す。
美咲は一人で塾に残っていた頃の話を始めた。
「あの時、風太達が迎えに来なかったらさ、ミイはメイドさんになってたんだよ。」
戦闘系はムリなのでメイドの仕事を習っていたそうだ。
「ただね、エロ貴族とかに捕まるケースが多いらしいんだって、ミイもそんな目にあってたかも知れないんだよね。3年生って、文化系ばっかだったでしょ?そんな感じのトコ多かったんだって。」
風太は、陽菜と七海の心配は現実だったかもと、凄いタイミングで塾に戻った奇跡に感謝した。
「陽菜と七海にパーティーを斡旋したヤツだったら、ミイもそういう所に売られたかもだよね!さっきの娼館のオッサンの話しで思い出しちゃった!」
『なんか、店の人、僕等の話に聞き耳立ててるからさ、念話で話そ!』
『オッケー!』
『そう言えば体育系の部活って、夏までに予選敗退で3年生は引退してたもんね、あと、1年生も少ないよね?』
『うん、前半クラスが、宿泊研修だったからね、風太達、すぐに塾出てったから解らないんだね。』
『あの体育会系の合宿みたいな訓練、ずっとやらされてたの?』
『うん、ジゴクだったよ。陽菜はさ、脂肪が落ちてね、七海は筋肉が付いてナイスバディになったんだけどさ、ミイだけ良い事無かったんだよね。』
『これから良い事あるように頑張ろ!』
『ふふ、これからってこれから?』
二人は見つめ合って吹き出した。暫くの沈黙のあとの大笑いはちょっと不審者に見られたかもしれない。塾での愚痴をしばらく聞いて、
『あのさ、最近ね風太って呼ぶようになったでしょあれって・・・』
『想像通りだよ、ミイが第一攻略者になったでしょ?それから二人とも成功したからね!』
風太は気になっていた事が解決。やっと1杯を飲み終えた。その間に美咲はおかわりを2回。いい時間になったのでお会計、
「25万です。」
「それって、そのポケットの睡眠薬の値段込みですか?」
「なんだそれ?睡眠薬って?」
店員は慌てて隠そうとしたが、飲み比べのチャレンジャーの連れの男達が捕まえ、ポケットの中を改めた。
「やっぱ、そういう事か!前からおかしいと思ってたんだよな!」
騒ぎが大きくなると、飲み比べに賭けて負けた客も騒ぎ出し、
「ギルドに付き出そうぜ!」
「いや、取り敢えず、負けた分を店が補償して、今日の飲み代は店の奢りって事でどう?」
風太の提案に、客一同が乗り、店は拒否出来ずに交渉は決着した。
『ちょっとお仕置き足りなく無い?』
『そうだね、何しよう?』
『じゃぁね・・・』
美咲の提案で、カウンターの奥の高級そうな酒を全部浄化して、
「ご馳走さま。」
ニッコリ笑って店を後にした。




