解雇
「ああ、言いたい事は解ってるよ、これから難易度の高い山を攻めるには、僕はお荷物だからね。」
「解って貰えて嬉しいよ、コレ、俺達に出来る精一杯。」
蓮はそう言うと、帯が掛かった札束を3つ、テーブルに置いた。
「正直、多過ぎだと思うけど、そうしないと葵も抜けるって言うからさ!」
不機嫌そうに大樹が席を立った。
「ゴメンね、ふぅ。金の龍に早く会って、元の世界に帰るときは一緒だよ!」
「うん、楽しみにしてるよ、僕、元の塾に戻って、身の丈にあったパーティーを探すよ、乗り合いの馬車がすぐある筈だからもう行くね。」
涙目の葵とハイタッチで別れ、部屋を出た。
「俺からの餞別だ。」
外に出ると翔太が、リュックサックを放って寄こした。
「で、代わりにそれ置いてけよ、俺達が使ったほうが世のため人のためたぜ!」
それと言うのは、倉庫並の収容力のウエストポーチ。冒険を始めてすぐに攻略した山でドロップした物だった。それもそうかと思い、着替えとか、貰ったリュックに入る分を詰め替えて、翔太にポーチを渡した。
風太は独りで乗り合いの馬車に乗った。葵とは幼馴染み、隣り合ったマンションで、産まれる前から、両親が親友同士だったので、兄妹?姉弟?ずっと一緒が当たり前だった。異世界に来て、パーティーに誘ったのも葵で、それも当たり前と思っていたが、Bランクの4人にFランクの風太が居るのは不自然だった。金の龍が眠るという山は、メンバー全員がBランク以上じゃないとトライ出来ない。
一応、荷物持ちのポーターと、地図係のナビを担当していたが、オールマイティーのさくらという新加入メンバーが風太の仕事もしつつ、攻守に力を発揮出来るということで、風太はお払い箱。ラノベやコミックでは、無一文で追い出されるのがセオリーだが、風太の場合、葵のお陰で結構な大金を手にしている。初期投資を高目に見積もっても1年位は所持金だけで余裕で暮らせるだろう。その間に、何処かで雇って貰うか、パーティーに参加、若しくはパーティーを立ち上げなければならない。転移して来たときにお世話になった、転移塾に行って職探し。
親同士が仲良く、誕生日も一緒。幼稚園は当たり前のように一緒、小学校は街のど真ん中で、ドーナツ現象と少子化で各学年ひとクラスだったので、当然同じクラス。中学はたまたま3年間同じクラス。高校は二人共近所が希望で、少しランクを下げて受けていたので、上位で合格、入試の順位でクラスが決まるので、やはり同じクラス、2年は選択科目と、成績の関係でまたまた一緒。たぶん3年も一緒と思っていたが、異世界に来てしまった。同じパーティーでやや半年、生まれて初めてバラバラで過ごすのは、どうも居心地が悪かった。
さて、葵達。
パーティーのメンバーは、幼馴染みの葵と、元の世界ではバスケ部のスター選手達。バスケの名門校に進んでもおかしく無い実力者揃いだが、中体連で活躍した葵目当てで、バスケは弱小の公立高校を選んだという、蓮、大樹、翔太の3人。魔法の適性等で決まる髪色は3人共にオールマイティーの金髪、アニメとかの主人公スタイルだ。それと、多分元々コッチの人で素性はわからないが、以前から色々アドバイスしてくれたりしていた、さくらという女性。さくらもBランクなので、金の龍が眠る山にトライすることが出来る。早速トライしている筈だ。
「金の龍は私達がゲットするわよ!」
さくらはメンバーを鼓舞した。Aランクばかりで構成されたパーティーでも中々到達出来ない金の龍の神殿だが、さくらは、充分に実力があると、早々のトライを薦めていた。風太がランクアップしてからと主張すると、さくらは蓮達にメンバーチェンジを薦めた。結果、さくらがメンバーになり、難関に挑んでいる。
2合目で早速強敵が登場。但し、風太がいて、実質4人でもラクに倒した首長狼なので、さくらが加入した新生『オニオン5』なら、楽勝・・・の筈?
サクサク貫通する筈の魔力刃は全く歯が立たない。剣に魔法を纏わせて斬り込むとなんとか太刀打ち出来た。多少の傷は葵のヒールで元通りなので、結構捨て身の攻撃で優位に立った。ボロボロになった頃、さくらの魔力弾がトドメを刺した。
顔面に深い爪痕を受けた蓮を葵がヒール。出血は収まったが、傷痕は消えず、潰れた左眼は復活しなかった。大樹の右手も失ったまま、翔太の足も繋ぐ事は出来たが、関節は真っ直ぐのままだった。
「葵、マジで治してくれよ!」
蓮が叫んだが、
「ゴメン、思いっきりマジだよ、回復剤も飲みきったけど、もう限界。少し休ませて。」
葵はふらついていた。
「回復剤なら!」
翔太がウエストポーチを開けたが、なにも入っていない、いや、なにも取り出せなかった。結局、疲労と激痛、魔力枯渇で気を失ってしまった。
どれ位経ったのだろう?葵が目を覚ますと、蓮、大樹、翔太は近くで眠っていた。ヒールを再度試したが、それ以上の回復はなく、また魔力枯渇の目眩がしたので諦めて、薬を塗ろうとリュックを探したが見つからない。連と大樹のリュックも視界には存在しなかった。翔太が持つ、風太のウエストポーチはそのまま腰に付いていたが、葵が開けてもなにも取り出せなかった。リュックだけではなく、嵌めていた指環やネックレス、ピアスまで無くなっていた。さくらを探したが、見つからず、呼んでも返事はない。
3人が目覚めるのを待って再度ヒールを試したが結果は変わらない。
「ふぅが居たときはこんなんじゃなかったよね?戦闘だってふぅが居たから勝ててたんじゃない?」
三人は無言だった。
「ふぅが素質Sランクってこういう事を言ってたんじゃない?また誘ってやり直そうよ!」
「フーフーって猫舌かよ!大体俺は最初からあんな奴と組みたくなかったんだよ、葵がどうしてもって言うから入れてやったんだ、もう俺たち終わってんだ、あんな奴に退職金なんて渡さなかったら再出発も出来たのにな!」
蓮が逆ギレ、会話は成立せず取り敢えず山を下りた。右膝が曲がらない翔太のペースで歩いて、馬車を停めた所までなんとか辿り着いたが馬車は無かった。もう動く気力はなく、そのまま野宿した。
翌日、ボロボロの4人は徒歩で街に向かい、行商人の荷馬車に乗せてもらって街に到着した。所持金はゼロ、ギルドに行っても階級章も無いので、仕事を請ける事も借金をすることも出来なかった。
さくらを探して、いつも会っていた食堂に行ってみたが、手掛かりは無く、常連のように振る舞っていたが、店の人も、他の客も全く情報は無かった。事情を聞いた店主は、ツケで食事を提供なんとか餓死を免れた。
また野宿をした翌朝、改めてギルドに向かった。ツケで何とかならないか交渉したが、階級章の再発行も新規登録も出来ず、途方に暮れてギルドを出ると、向いの馬車屋に、自分達の馬車が中古車として売られていた。店の人に聞いたが、売りに来たのは中年の女性で、さくらではなかった。もしやと思い、武器などを中古で扱う古道具屋を覗いて見ると、見覚えのあるものが沢山並んでいた。売りに来た人を聞いて見ると、やはり中年女性で、査定を担当した店員の話によると、
「三百は堅いと踏んでたんだが見込み違いだった。」
と、ご機嫌斜めだったそうだ。
朝食抜きで、陽もすっかり昇ると、
「少し待ってて。」
葵は小走りで居なくなり、少しして戻ってきた時には、腰まであった黒髪が、刈り上げのベリーショートになっていた。
「お昼はこれで食べて。私、バイト探すから、夕方ギルドで落ち合いましょ!」
葵は3人に数枚の札を握らせ、ハイタッチを交わし、人混みに紛れていった。