白い魔力3
「そう言われているね。なにしろこの症状は昔から王家を始めとした権力争いの多い家にばかり発生する原因不明の病だから。そうなるともう、やっかいな魔術つまりは呪いくらいしか思い当たらないんだ。私もいろいろ調べたり試したりしたんだが、とうとうこんな状態になっちゃって。強弱もなくひたすらだんだん弱っていくところがまた怪しい……。魔術だとそれをかけた人間にしか取り消せないから、かけた人間が見つからないと本当にやっかいなんだよ」
「どうにか消す方法はないのですか?」
「さすがレイテの人だね。発想が斬新だ。だが残念ながらこの国には『消す』という魔術はない。だから何かの作用を消そうとする時は、反対の作用の魔術をかけて相殺させるのが一般的なんだ。この国では大抵の魔術は研究されているけれど、直接消せる人はまだ見つかってはいなくてね」
ははっ、と王妃様が残念そうに笑った。
「私に出来ることがあったらいいのですけれど。なんでもおっしゃってくださいね」
マルガレーテがそう言うと、王妃様は目をキラッと光らせて言った。
「そういえばあなたの魔力は白だと聞いたのだけれど、本当なのかな?」
「はい。そのようです」
「でもすごく健康そうなのが不思議なんだよね。この国ではまずあり得ない。実は私は相手の魔力の色を見ることができるのだけれど、今まで白の魔力を直接見たことはなくてね。なにしろとても珍しいから。もし良かったら私にも見せてもらえるかしら? 手を触れるだけでいいのだけれど」
そう言って王妃様はゆっくりとマルガレーテの方にある手を差し伸べたのだった。
「もちろんです」
マルガレーテはそう言って、その王妃様の手を両手でそっと握った。
その瞬間だった。
マルガレーテの全身からすうっと何か――おそらく魔力ではないか――が抜けていって、突然寒気が襲いかかって目眩がした。
世界がぐにゃりと歪んだと思ったら、目の前があっという間に暗くなる。
王妃様の前だというのに、ふうっと気が遠くなって――
「あっ! まず――」という言葉を聞いたのを最後に、とうとうマルガレーテの記憶はふっつりと途絶えてしまったのだった
次に目が覚めたとき、マルガレーテは自分のベッドに寝ていた。
まだ見慣れていない天井に一瞬どこにいるのかわからなくなったけれど、驚いて見回した時に自分の侍女のリズがいるのが見えて、ルトリア王宮の離宮にある自分の部屋だと思い出した。
「ああマルガレーテ様! ああ良かったです! お目覚めになりましたか! もう本当に心配したんですよ!」
そう言ってマルガレーテのベッドまで駆けてきて喜んでいるリズをぼんやりと眺めながら、一体何が起こったのか思い出そうとした。
「たしか……さっきまで王妃様のお見舞いに行って……」
「そうですそうです! そして突然お倒れになってしまったのです! ああでも気がつかれて良かったです……!」
リズがうっすら涙まで滲ませながら喜んでくれているのを見てマルガレーテは温かい気持ちになった。でも。
「どうして倒れてしまったのかしら……?」
「それは私たちが聞きたいくらいなのですよ! でも王妃様はあの後何か考え込んでいらっしゃったから、何か感じたのかもしれないです。今王妃様にお知らせしてきますから、そのままでいてくださいね!」
そう言って勢いよく部屋を駆け出して行ったリズだった。
もしもマルガレーテが突然倒れたことで王妃様にご心配をおかけしていたら申し訳ない。
リズの知らせで一刻も早く安心してくださるといいのだけれ――
バアン!
その時、突然勢いよくドアが開いて、なんとあの第一王妃様がスタスタと歩いて部屋に入ってきたのだった。
「え……? 王妃、様……?」
慌てて起き上がろうとするマルガレーテを、王妃様がビシッと手を出してすかさず止めた。
「ああ! そのまま! そのまま寝ていて。まだ体に力が入らないだろう? 無理してはだめだ」
その最後に見た姿とは別人のように元気な姿に、マルガレーテはただ唖然としていた。
お元気に……なっている……?
驚いて言葉も出ないマルガレーテの側に、自ら椅子を持って来てからどっかりと座った第一王妃様は、開口一番謝罪した。
「いやあ、本当に申し訳なかった。私は危うくあなたを殺すところだった。全く予想していなかったとはいえ、私の不注意でこんな事態になってしまって本当に悪かったと思っている。許してはもらえるだろうか」
「え……? よくわからないけれど、もちろんです……」
許すも何も、マルガレーテは王妃様が何かしたとは思っていない。何かはあったのかもしれないけれど。
しかし王妃様は手で額を押さえて顔を左右に振りながらしみじみと言うのだった。
「しかしいやあ驚いたわー。まさかこんなことになるなんて、ほんとびっくりしたわー。とっさに手を離せてほんとよかったわ……」
「……? なんだかよくわからないけれど、お元気になられたのですね……? よかったです」
マルガレーテはというと、こちらも最後の記憶とはあまりに違う王妃様の様子に、ただただ驚いていた。
一体何が起こったの……?