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白い魔力1

 よかった。ここでの新しい生活は、あまり孤独ではないかもしれない。


「どうぞよろしくね。私、王妃様がいらっしゃるのは知らなかったの。そんなところに来てしまってご迷惑でなければよいのだけれど。ご病気に響かないようにできるだけ静かに過ごしますね」


 立場的にもタイミング的にも、王妃様をここの主人として最優先に生活するべきだろう。

 でもリズは朗らかに笑って、

 

「まあ、そんなことおっしゃらずに自由にしてくださいませ。王妃様のお部屋は奥にありますから、そんなに音は届きません。それにこの離宮に来てからはゆっくりされているので、今は病状も安定していらっしゃいますし」


 と言ってくれる。

 この離宮の人たちがみんな穏やかそうに見えるのは、主人である王妃様の人柄のおかげなのかもしれないと思うマルガレーテだった。


「あの、王妃様はどのようなご病気なのかしら。私がご挨拶をしてもご負担にならないかしら?」


「まあ、むしろ王妃様は楽しみにしていらっしゃると思います。なにしろ嫁が来ると言ってとてもお喜びだったという話ですよ」


「嫁……」

「はい、マルガレーテ様がご婚約されたクラウス様は、ここで静養されている王妃様のご長男であり第一王子殿下なのです」

「まあそうだったのね。何も知らなかったわ」

「そうなんですか。ではクラウス様がどんな方かも? まあ、何もご存じない!?」


 その結果マルガレーテは、自分の婚約相手のことを初めて出会った自分の侍女から聞くという状況になったのだった。


「クラウス様はそれはそれは明るくて素敵な方で、お綺麗な上にお優しい、もう本当に素晴らしい方なんです! 私たち使用人にも礼儀正しくて優しくて、あの第二王子とは月となんちゃら、天と地と言っても過言ではありません!」


 リズが終始うっとりとした表情でくねくねしながら熱く語るその様子から、どうやらマルガレーテの婚約した相手は濃紺の髪の美丈夫で、爽やかな笑顔と王妃様譲りの奔放さのあるかつての王太子らし……王太子?


「……だった……?」


「そうなんですよ! つい先日までは王太子でいらっしゃったのですが、突然行方不明になってしまわれて……。でもそれは本当に最近のことなのに。なのにあの第二王妃のせいで今は王太子から下ろされてしまったんです。今ではすっかりあの第二王子が王太子のように振る舞っていて、クラウス様はまだ死んだと決まったわけでもないのに、酷いと思いませんか!?」


「クラウス様がどこに行ったのかもわからないの?」


「そうなんです……。ある日突然どこにもいなくなってしまわれて。どうせあの第二王妃が何か企んだにちがいありません! 王妃様のご病気だって……。由緒正しき公爵家出身の王妃様を差し置いて、勝手に第二王妃なんていう地位まで作って今では王宮で大きな顔をしているなんて、本当に許せません」

 

「第二王妃様だったのね、あの方……」


「これでこのまま第一王妃様がお隠れになってしまったらと思うと……この離宮にいる人たちはみんな王妃様の使用人で王妃様に着いてきた者たちばかりなので、みんな悔しがっているんですよ。一番おおっぴらに怒っているのは王妃様の侍女のハンナさんですけれどね! でも怒っているのはみんなです、みんな!」


 そう言ってリズは本当に悔しそうにするのだった。

 まさかつい最近まで、その第二王子の婚約者だったとは言えない雰囲気を感じるマルガレーテ。


 でもそういう事情なら、行方不明とはいえ王妃様の息子であるクラウス様と結果的に婚約出来たことは幸いだったのかも知れないと思ったマルガレーテだった。


 あのルトリアの王宮は、なんだか居心地が悪かった。

 魔力の種類がわかったとたんに態度をくるりと変え責められたショックの余韻はまだ残っている。

 それに比べたら、王宮の端の小さな離宮とはいえ、この館の空気は心安まるものだったから。


 それとも魔力が白だとわかると、みんなあんな風になる……?


 突然不安になったマルガレーテは、聞いてみることにした。

 

「あの……私の魔力が白だったということは、この離宮の人たちはみんな知っているのかしら……?」


 するとリズはちょっと気まずそうな顔をして言った。


「はい、聞きました。魔力が白の人がこんなに大きくなるまで無事ということは奇跡です。マルガレーテ様は奇跡を体現しているんですよ。素晴らしいことです」


「ということは、魔力が白の人たちが短命というのはどれくらい短命なの?」


「……たいていは生まれて一年以内に亡くなることが多いです。希に成長しても十歳まで生きる子はまずいなくて……」


 ということは、十七才になったマルガレーテは、この国ではとっくに亡くなっているということになる。

 それは驚くはずだと、あの魔力の判定をしたときの周りの人たちの動揺を思い出して初めて納得したマルガレーテだった。


「でも、どうして死んじゃうのかしら……」


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