生誕祭の晩餐7
「まあ、お見通しですか。なんて怖い」
「そなたは昔から悪運が強いからな。だからそろそろそなたがあの離宮から出てくるのではと楽しみにしていたんだ。で、何を見つけた? 余にも教えよ。そして仲間に入れてくれ」
「そうですねえ、私にあのゼルマの処遇を任せてくれるなら考えてもいいかもしれませんねえ?」
「…………余の許可なく殺すなよ? 王の直系に手を出したなら最後は余が処断する。それさえ守れば好きにしていい」
「まあありがとうございます。ふふ、楽しみですねえ!」
そして王妃様は、実に嬉しそうに両手をワキワキとさせながらにたりと満面の笑みを浮かべていた。
マルガレーテはその様子をちらりと横目で見て、ちょっとだけゼルマ第二王妃の将来を憂いたのだった。かわいそうに。あの人も、これからある意味呪い返しにあうのだろう。
人を呪うような魔術は決して使ってはいけません。呪い返しにあいますよ。
イグナーツ先生の言葉しみじみと噛みしめるマルガレーテだった。
「そろそろクラウスが戻ってくるかな。どうせそなたが全て準備しておいたのだろう?」
「もちろんですよ。今日のマルガレーテとこだわりのお揃いにしてみました。どこがお揃いか探してみるのも楽しいかと」
「これであいつもやっと狼の姿を卒業したか。ふむ感慨深いな。マルガレーテを気に入ったようだし、これからは落ち着いてくれるといい」
「いや駄目でしょうね。今でも普段は狼や犬の姿でマルガレーテに付き纏っていますからね。だからそろそろあなたも諦めて、あんな変な合い言葉なんて使わなくても、ちゃんとご自分の息子くらい見分けられるようにしてください」
「いやそれは普通の人間には無理というものだろう……」
そのとき、凜々しくも煌びやかな服装に着替えたクラウス様が、颯爽と晩餐会会場に現れたのだった。
マルガレーテの目は釘付けだった。
クラウス様、なんて素敵なんでしょう……。
それは、初めて馬車の中からクラウス様を見たときと同じくらいの衝撃で。
まぶしいくらいのはじける笑顔、溌剌とした足取り、そして今は、まっすぐにマルガレーテへと向けられている熱い視線。
こんな日が、まさか来るなんて。
あの時は全く想像も出来なかった。
クラウス様は王様と王妃様に挨拶をした後は、急いでマルガレーテのところに駆けつけて「マルガレーテ!」と一言呼びかけた後マルガレーテの手を取ってキスをした。
「お待たせ、私の最愛の人」
その目や表情は、誰の目にもマルガレーテに恋い焦がれていることが明らかで。
きっと心の中では、彼は尻尾をまたいつものようにちぎれんばかりに振っているのだろう。
そして離宮に帰ったあとは、あっという間にまた狼か犬の姿になって、マルガレーテの足にすり寄るのだ。
でも、人間のクラウス様もなんて素敵なんでしょう……。
そんなうっとりと見つめ合う二人を、周りの人たちは温かな目で見守っていた。
ああやっと……。
やっと王の長い長い夫婦喧嘩が終わり、そして次代の王も円満そうだ。
今回の王の長い夫婦喧嘩がもたらしたものは、宰相ラングリー公爵の気まぐれに繰り返される職務放棄と王の常態化した不機嫌、繰り返される八つ当たり、そしてゼルマ第二王妃の浪費による国庫の疲弊と散々だった。
これでやっと、我らももう少し落ち着いて暮らせるかもしれない。
「……クラウスはすっかりマルガレーテに骨抜きか」
「毎日盛大に尻尾振ってついて回ってますよ。あの様子だともうどこかに放浪はしないかもしれませんね」
「そうか、それはよかった。どうやらマルガレーテもクラウスを気に入っているようだし。あいつは幸せものだな」
「……あらまるでご自分は不幸せであるような言い方ですね? あなたは散々取っ替え引っ替えして楽しいのだとばかり」
「いや……そうすれば、そなたが少しは……あー、この肉は旨いな」
そして王様は、食事もそこそこにまだ熱く見つめ合っている息子とその婚約者の姿を恨めしそうに見たのだった。
そんな王を見た貴族の面々は豪華な晩餐をいただきながらも、
「王様も、息子を羨むくらいならもっとちゃんと王妃様に気持ちを正直に打ち明ければいいものを」
「無理だろ。あの二人、幼なじみなのにずーっとあの調子なんだぞ。今更変われないんだろうさ」
「俺、今度王が拗らせてまた愛人を作ろうとしたら、反対しようかな……」
そんなことをコソコソと語り合っていた。
めでたし、めでたし。
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