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二度捨てられた白魔女は、もうのんびりワンコと暮らすことにしました ~え? ワンコが王子とか聞いてません~  作者: 吉高 花 (Hana)


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クラウス様と黒魔女1


「……ふむ。たしかに一国の王子ともあろうものがあまり無闇に裸体をさらすべきではないな。ではすぐに着替えろ。たしか来客用の服があっただろう。行って適当に着てこい」


 そう言うと、王妃様はそのまま首輪を持ってクラウス様を引きずっていっってドアの外に放り出した。


「客間は知っているだろう。その奥にある」


 バタン。


 そして容赦なくドアを閉める王妃様。


「……あの、本当に戻られたのですね?」

 

「まあマルガレーテにはあんまり変わったようには見えないかもしれないが、戻った。本当にありがとう。全てはあなたのおかげだ。これからはこれを恩に着せてあいつのことは好きなだけ尻に敷くといいよ」


 そう言って晴れ晴れとした笑顔になった王妃様だった。


 あまり見かけがかわらないせいで、それでも本当に自分の魔力がちゃんと働いたのか確信がもてないマルガレーテだったのだが。

 でも王妃様もイグナーツ先生も、そしてこの場にいる全ての侍女たちもが全員満足そうに微笑み合っているということは。

 

 きっと本当にあれが本来のクラウス様なのだろう。


 あれが……。


 じゃあもしかして、今までとあんまり生活が変わらないのでは?


 そんな気がしたマルガレーテだった。


 うん。

 まあ、良かった……のかもしれない。


 少なくとも魔術が解けた嬉しさなのか、マルガレーテの顔を心底嬉しげになめ回した人? 犬? 狼? が悪い人には思えなかった。

 きっと無邪気な人なのだろう。きっと一緒にいたら、楽しい生活が送れそうな気がする。


 そう思うことにした。

 


 そうこうしているうちに、なにやらドアの外が騒がしくなった。

 どうも沢山の人がいる気配がする。そして感激したような話し声も。


「来たな」


 王妃様が言った。


 ということは、きっと人間の姿になったクラウス様を見て、この離宮の使用人の人たちが騒いでいるのかもしれないな、とマルガレーテは思った。

 きっとこの離宮の人たちがみんな喜んでいるのだろうと思うとマルガレーテも嬉しかった。


 と思うと同時にちょっと緊張する。

 考えてみたら、初めて人間の姿になった自分の婚約者との対面だ。


 犬の姿の時は意識が半分以上犬のままだとイグナーツ先生が言っていたから、人間になって人間の感性に戻って、そしてマルガレーテを見た時に落胆しないといいのだけれど。


 一瞬、かつてマルガレーテを拒絶した母国の王宮の人々の顔が浮かんだ。

 そして失望を露わにしたこの国の第二王妃様とランベルト王子の顔も。


 私は沢山の人たちを失望させてきた。

 そんな意識と懐いていたクロの姿が交錯して。


 気に入られようとも気に入られまいとも、政略結婚の相手なのだから一生離れられない。

 だから出来たら仲良くしてもらえたらいいのだけれど……。

 

 コンコン。

 ついにノックの音がして、王妃様が「入れ」と言うと、静かにドアが開いた。


 そして人間の姿になったクラウス様が部屋に入ってきた。

 入ったとたんにまくし立てるクラウス様。


「イグナーツ、また俺の居ぬ間にマルガレーテにベタベタ触ってはいないだろうな? 大体前から一回ちゃんと言っておかないとと思っていたんだ。どんなに崇拝していたとしても、金輪際マルガレーテに触ることは許さんからな!」


 そんなクラウスの姿は。


 ……え?


 マルガレーテは思わずぽかんと口を開けてしまった。

 そして反射的にクラウス様の顔から目をそらす。


 それは、前に身につけた癖だった。


 あの人を見つめてはいけない。

 見つめていることを悟られてはいけない。

 だからこっそり眺めるだけにしなければならない。


 かつて、そう思いつつ密かに見つめていた顔が、そこにはあったのだから。



 …………え?


 ………………え?


 あまりの動揺が表れていたのだろう、王妃様が慰めるようにクラウス様に言った。


「……クラウス、どうもマルガレーテはお前の顔がお好みではなかったようだ。だがまあ、男は顔じゃない、中身だ。これから頑張れ」


 ぽんぽん。


 そんな音がするということは、きっと王妃様がクラウス様の肩でもたたいて慰めているのだろう。


 思わずマルガレーテは王妃様に言った。

 

「王妃様、いいえ。あの、お顔が嫌だというわけでは……。あの、ちょっと驚いてしまったので……」


「うん?」


「母上。おそらくマルガレーテは私の顔をご存じだったのでしょう。私は実は、マルガレーテが入国したときの隊列に紛れ込んでいましたので。まさか彼女が私を覚えていたとは思いませんでしたが」


 クラウス様が、ちょっと気まずそうに説明している。


「隊列? またそんな所に潜り込んでいたのか。しかし今度はなぜ」


 王妃様はまたか、というような顔をしたということは、きっと今までも似たような事をする人だったのかもしれない。


「いやあ、だって自分の妻になる人なんて興味があるではありませんか。だから先にちょっと行って見てみようかと……」


 てへ。

 そんな顔をしても整った顔の印象があまり変わらないくらいにはあのマルガレーテの好きだった顔のままのクラウス様。

 その顔は、あの馬車の中から盗み見た、自由そうで楽しそうなあの人と同じで。


 まさか、あの人がクラウス様だったとは……。

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