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二度捨てられた白魔女は、もうのんびりワンコと暮らすことにしました ~え? ワンコが王子とか聞いてません~  作者: 吉高 花 (Hana)


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ルルベ草1


 その言葉に驚いたのは王妃様だった。


「なぜ? あんなに気に入っていたではないか。今でも毎日行っているのだろう?」


「はい。そして気がついてしまったのです。あの東屋の下には、たくさんの魔力の気配がします。そしてその魔力が、東屋の石材で封じられているように思います」


 そう。マルガレーテは最近、東屋の床の下から魔力を感じるようになっていた。

 そして東屋を作っている石材がその魔力を押し潰し、蓋をしているのでないかと思い始めたのだ。


 それは、イグナーツ先生のおかげで魔力が見えるようになったマルガレーテだからこそ感じられる、ほのかな気配だった。


「ではあの東屋が無い方が、マルガレーテの魔力も早く回復するかもしれないということか」

「あくまでも私の憶測なのですが。ただ、東屋を撤去してそこにルルベ草を植えたら、もっと沢山のルルベ草が育つのではないかとも思うのです」


「ふむ……なるほど。実はこの前調べてわかったのだが、この離宮で病人が回復しなくなったのは、約二百年前くらいからなんだ。で、そのあたりで何があったかというと、当時の王が王妃のために、この離宮全体を王妃好みに大改装をしている。だからもしかしたらあの東屋は、その時に建てられたものの可能性がある」


「魔力の湧く場所にわざわざ建物を建てたということですか」

「可能性はあるとは思わないか? だいたい普通は魔力なんて見えない。当時の妃がマルガレーテのようにこの場所が好きだと言ったとしたら、ならばそこに東屋を建てて休めるようにしようと考えてもおかしくない」


「愛情が裏目になったということでしょうか。なんて悲しいことでしょう」

「愛情か、それとも遠回しな暗殺か」

「……それは……なんて悲しいお話でしょう……」


 しかしそうであれば、やはりあの東屋は撤去してみるべきではないか。

 それがマルガレーテと王妃様の一致した意見だった。


 となると王妃様の行動力は炸裂するのだ。

 その二日後には人が入り、そしてその日のうちに綺麗な更地になったのだった。


 早い。驚くほど早い。

 東屋とはいえそれなりに大量に使われていた石材が軽々と移動していく様は見事だった。


 王妃様は、せっかくマルガレーテが気に入っていたのだからと、その東屋を完全になくすのではなく、近くのやはり風がきもちよく通り抜ける、日当たりの良い場所に移設するように指示をしてくれていた。 

 その新しい場所ではもう前のように魔力を感じることはなかったけれど、それでも王妃様の優しい配慮にマルガレーテはとても温かい気持ちになった。


 そしてもともと東屋があった場所からは、重い石材が取りのけられた瞬間から、マルガレーテには魔力がこんこんと湧く様子が見えたのだった。


「王妃様、魔力があふれ出ています。すごい量です……」


 マルガレーテは初めてその状況を見た時、あまりの驚きに、それだけ言って絶句してしまった。

 それほどまでに湧き出る魔力が多かった。

 キラキラとした綺麗な光が、その場所からあふれ出て周りにまで流れ出している。

 それは、いわば魔力の噴水のようだった。


「マルガレーテ、来てみい。なかなかすごいぞ、ここは」


 その中心あたりに立った王妃様が、興奮してマルガレーテを呼んだ。

 マルガレーテも早速王妃様の横に行って、湧き出る魔力を全身に感じた。


「王妃様、これはすごいです。たくさんの魔力が流れ込んで来ます」


「ここに東屋を建てたくなる気持ちはわかるな。魔術師の回復には最適な場所だ。元々こんな場所があったから、昔の王はこの近くに療養用の離宮を建てたんだなきっと」

「そうですね。ずっとここにいたら魔力が強すぎて酔ってしまいそうです」

「そして、やっぱり百年前は遠回しな暗殺だったのかもしれないな。石材が魔力を遮断できると知っていたならだけれど」

「王妃様……それは……考えないようにしませんか……」

 

 黒い。あまりにも。その思考が。

 自然に陰謀説を言い出す王妃様を見て、王宮って、本当に黒い思惑が多いのね。そう思って、むしろここに追放同然に置かれている自分の立場が幸いだったのではと思ったマルガレーテだった。


 マルガレーテと王妃様はその後、心ゆくまでその場から湧き出す魔力を浴びた。イグナーツ先生も最初はうきうきと合流したのだが、しばらくいた後に「もう私には十分です」と言ってすぐに離れていった。


 マルガレーテと王妃様は、やはり体が魔力を欲していたのだろう。夕暮れまで立っていても「十分」という気分にはならなかったけれど、さすがに暗くなるからと、みんなで離宮に戻ったのだった。


 一緒に着いてきた侍女や使用人のひとたちも、魔力を少しでも持っている人は代わる代わる魔力を浴びてはあまりの効能に、他に離宮に残っていた魔力のある人たちも呼び寄せられて、みんなでこの魔力の泉の恩恵にあずかった。

 そしてその誰もがすごい勢いで魔力が体に補充されると証言した。

 


 もちろんこの事についても、王妃様から箝口令が敷かれたのは当然のことだった。

 

 王妃様が元気になって、マルガレーテが希有なスキルに目覚め、そして庭から大量の魔力が湧き出した。


 そんな事実がもし王宮に伝わってしまったら、絶対にこの離宮を取り上げられて、誰とは言わないが誰かさんが再度追放しようとしてくるだろう。

 そして次はきっと、王妃様とマルガレーテは離ればなれになる。

 その上王妃様が言うには、クラウス様との婚約もなくなるだろうとのことだった。


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