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ひと夏の思い出

作者: 相樫りわ

学校の宿題のボツ話を乗っけてみました。

ボツなだけあって結構しっかりとしただめっぷりですがどうぞ。

「わ・・・・見事にド田舎だな・・・」


でかい荷物を持って、悠は呟いた。

ストレスがたまり風邪を引いていた悠に、お父さんがリフレッシュして来いと言って、田舎のおばあちゃんの家に泊まることになったのだ。



肌を焼く太陽がまぶしい。だらだらと滝のように汗を流しながら悠はおばあちゃんの家に向かった。

おばあちゃんの家まで、バス停から片道2キロ。ひまわり畑のど真ん中にあるおばあちゃんの家にはもうすぐ八十五になろうかというおばあちゃんが住んでいる。夏の匂いが立ち込めていた。


「よく来たねえ。わたしも楽しみにしていたんだよ」

あまり面識の無い、人のよさそうなおばあちゃんだった。しわしわの顔をさらにくしゃっとして、嬉しそうに笑っている。

アイスこそ無いものの、悪くなさそうだ。悠も少し笑った。





「・・・・・・・・暑い」


その日の昼間。わけあって悠は家から500メートルと離れていない河原に来ていた。おばあちゃんが、川に野菜を浸してきてほしいと言ったのだ。なんでも冷蔵庫が無いため、川に流れる冷たい水で物は冷やすらしい。


「まったく・・・・どこまで田舎なんだよ」

土手の草の上に仰向けに転がった。目を閉じて日光をまともに受ける。

と、そのときだった。


ばっしゃーんという音と共に大量の水飛沫がかかってきた。


「!?」


ばっと跳ね起きた悠の前には・・・・・・真っ黒に焼けた少年が一人、川の中に落ちていた。

「わ!!人がいたのか!!・・・・・お前誰?」

「いやまて。まずは水をかけたのを謝るべきだろ」

「あぁ。ごめんごめん・・・けど、気持ちよかっただろ?」

いきなり現れた少年は、悪びれる様子も無く輝く太陽のようににかっと笑った。





「・・・・ふーん?じゃあ悠ってもっと都会の方から来てんだ?」


二、三個なら食べていいといわれているトマトに丸ごとかぶりつきながら飛び込み少年 かけると一緒に河原に座っていた。川で冷え切った大きくて赤いトマトは絶品で、食いつく瞬間に鼻をくすぐる土のにおいが心地良い。


「うん。今回はリフレッシュ休暇なんだ。毎年は来てないよ」

「ふうん・・・・いつまでいるんだ?」

「一週間で帰る」

「そぉかぁ・・・じゃあ今のうちにいっぱい遊んどこうぜ!!」


また、翔はニカリと笑う。つられて悠もにこっと笑う。

「うん」



隣に居て過ごしやすいたぐいの少年だ。悠たちはそのあと洋服のまま冷たく心地良い川で泳いで、汗と川の水でびしょびしょになって帰った。




「友達ができたのかい?」

おばあちゃんは夜、風鈴の下で悠に聞いた。


「うん」

「それはよかったねぇ」

顔をふよふよにしながらおばあちゃんは微笑む。悠は空を見上げて呟いた。



「太陽みたいに笑うやつと友達になった」


聞こえたのか聞こえてないのか、おばあちゃんは嬉しそうに笑っていた。





次の日。


「っっっちぃぃいいいい!!!!なんでこんなに暑いんだ!!!!なんでこの中勉強なんだぁぁあ!!!」


・・・・・・・・図々しくもおばあちゃんの家に乗り込んできた翔がわ――――っと騒ぐ。翔が一緒に宿題をやるのを提案したのだ。


「・・・人んちに勝手に上がってきてそれかよ。しかも一緒に勉強しようって言ったのは翔だろ」

翔はだだっ子のように口を尖らせる。

「だって、悠頭よさそうだったし・・・・でもなんで数学2なんだよ。俺より悪いよ」

「うっせー。だったら翔が俺に教えろよ」

「教えるか。無茶だ」

また土の匂いの漂うトマトをかじりながら二人でのろのろ宿題を進めた。



それからも。

悠と翔は、川を3.5kmも辿ったところにある海に行ったり、縁側でスイカ食べ競争をしたり、河原飛び込みの新しいフォームを研究したりした。




・・・・・・・そして、あっというまに。




「あれー?悠って今日で帰るんだっけ?」

「うん。明日の朝早くに始発のバスで帰るよ」

「そぅかぁ・・・・寂しくなるな」

「ん・・・・だからさ・・・初めて会ったあの川で、最後にわーっとあそばないか?」

「お!!賛成賛成!気が利くなー」

「気が利くっていわねー」



その日、日中わ――っと遊んだあと、河原に寝っ転がったまんま空が星だらけになった。悠が呟く。



「もう・・・・・・お別れか」

「・・・・・・・・・・だな」

「寂しいけどな・・・・翔のこと僕絶対忘れねーし・・・超イイ思い出になったし・・・他にもいろいろ楽しかったし、うまく言えないけどありがとな」



「・・・・・・・・待てよ悠」


それまで黙っていた翔が不意に立ち上がっておもむろに言った。


「お前さ・・・・もう俺に会わないつもりでいんの?」

「―――――――ッ」


どくん。でかい脈が悠の胸を打つ。

――――そのつもりだった。この帰省はリフレッシュ休暇でしかない。いつもはいらないものだった。黙り込んだ悠に翔は向き直った。



「・・・・・俺はそんなのやだよ。またお前と遊びたいし正直お前が帰るの超辛い。お前は早く俺と別れたいとか思ってんの」


思うか。思えるわけ無いだろ。胸の奥の奥の見えない深いところから何かが湧いてきた。



「・・・・っ・・そんなこと、冗談にでも思うかよ!この一週間は短かったけどすげぇ楽しかったよ!!!終わってほしくなんてねぇよ」

一気にまくし立ててる間に、悠の瞳からはぼろぼろ大粒の熱い雫が落ちていった。


「・・・・だったら、もう永遠に会えないとか思うな」

そういった翔の瞳も今にもこぼれそうに潤んでいる。


しかし、そこまで言うとそれまでキツかった翔の口調が緩んだ。

いつもの調子とまるで同じだ。

「俺はお前ともう会わないつもりなんてないからな。お前が来なくても俺が行くよ」

「うん」

「だからひとまずお別れな」

すくっと立ち上がると翔はにかっと笑って手を振った。



「じゃーな!!!」



今年最後に見た太陽みたいな笑顔だった。







――――――翌朝。


早朝のバスの中で揺られながら悠は翔のことを思い返していた。


『じゃーな!!!』


と手を振ったときの、あの毎日別れるときみたいな軽さ。いかにも翔らしい。

思い出すたびに笑えてくる。悠も真似してみた。



「じゃ、また今度な」





そう呟いたときの彼の顔は、まさに真夏の太陽のようだった。







<おまけ・ある日の翔の出来事>


俺は今、たんぽぽのような柔らかい毛を生やした羊に乗って大空旅行をしている。




今朝目覚めてみたら、飼っている羊がさあ乗ってみろとでも言うような目でベランダからこっちを見ていた。だから乗ったら、突然羊は飛び立って、そして今夏空の真っ只中にいる。




周りにはもこもこの大きな入道雲がたくさん居座っている。近寄ろうとすると、さわれそうでさわれない。昔から夏の雲に触ってみたかった。この雲がちょっともどかしい。


真っ青な大空と真っ白な雲の中、肌を焼く太陽が眩しい。イカロスの翼のように溶けそうだ。



と、その時だった。

突然周りが真っ暗になった。入道雲に突っ込んだらしい。羊は・・・・・


羊は、寝てしまっている。疲れたかもしれないが、羊に昼寝をされると俺はどうなるんだろう。



いずれにしても困った。入道雲の中は外と打って変わって大荒れで、稲妻がびりびりと光る。雷が羊の毛を逆立てていた。大雨と風の音、雷が激しく鳴り響く。羊は起きる様子も無い。どうしたらいいのだろう。


俺がびしょぬれになって焦り始めたその瞬間。

一際大きく眩しく、稲光が走って―――――






―――――わっ!!!!!


・・・・・・俺は、ベッドの上で飛び起きた。蝉が凄くうるさい。カーテンを全開にして蒸し暑い空気を胸いっぱいに吸う。



今日もこの村は、いい天気だ。







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