1、沙比とハムスターと霧隠れ Ⅳ
沙比の日常生活だって、親戚の集まりと大して変わりません。どうやって知ったのかは謎ですが、まさしくハムスターの言ったようなものでした。
規則ばっかりの学校に、退屈な授業。いい成績といい進路ばっかり求められて、教室でも部活でも海藻みたいに纏わり付く人間関係。いい人、かわいい人、行儀のいい人、人気のある人、勉強できる人、将来性のある人……。求め続けられる人間像は、ちょっとした綻びで、すぐ崩れ去っていきました。嫉妬、軽蔑、差別、優劣、不信、陰口とに彩られた生活。それを何度も何度も繰り返しました。何度も期待して、その度に裏切られて、また、今度こそはと。
程度が違えど、いつの時代も、どんな場所でも、きっと誰もが経験している、そんな当たり前の日常。
沙比は、根はとっても真面目な子でした。聡明で、そして優しかったのです。
だから余計に疲れ、傷つき、ぼろぼろになりました。特に、親友であった聡子との関係なんかは、もし悪魔がいるならその絶好の標的になっていたでしょう。親に心を開けなかった沙比がすべてを聡子に打ち明けていたことが、かえって沙比を苦しめました。信頼の裏には、大きすぎる代償が待っていました。
沙比は、もう、この先同じことの繰り返しなら、生きていく必要はないと思うくらいには限界でした。
賢い分、世界がよく見えました。
自分の周りからそれが消えることはないと確信し、将来に絶望するのには、それで十分すぎました。
だったら、いっそのこと……。